感動短編小説 酷暑におけるミジメ2024
めちゃくちゃ暑い日は、「暑い」という一点で、他人とつながれる。
そう思った日が、太郎にもあった。
しかし今は違う。
太郎がタクシーに乗った際、運転手に、
「暑いね」
と言ったら、運転手は、
「暑いですねえ。でも私、宝くじで一兆円当たったんで、もうこの仕事をやめるんですよ。お客さんが最後のお客さんです」
と言った。太郎は嫉妬で顔がゆがんでくるのを必死にこらえて、
「そ、そうなんですか」
と言った後、
「じゃ、ここでいいです」
と言って目的地よりもかなり手前でタクシーを降りた。
深夜二時、だれもいない大通り。
飲み屋でさえ、すべて閉まっていた。
とぼとぼ、まったく気温が下がらない、蒸し暑い夜の道を歩いていると、
一兆円、宝くじにあたったタクシー運転手への嫉妬心が抑えきれなかった。
徒歩で30分ほど歩いて帰宅し、
さつまあげを食べて気を紛らわせた。
「このさつまあげは、一枚、一兆円!!」
と言いながら食べた。
自然と涙がこぼれた。
おしまい
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