おれだけが思ってる……悪口芸の終焉、そして始まり
「テレビでの芸人の『悪口芸』はもう終わったんじゃないか」
と、私は思っている。
しかし、実際には、「終わった」という気配はまったくない。
ウエストランドの井口は、自虐よりもあまり脈絡のない「悪口」にシフトした方が人気が出た。
「永野」も同様(個人的には永野が仮想敵にしている人とか社会的な感覚について、ひとつも共感できない)。
粗品の噛みつきは、やがて常態化して、当たり前になっていくかもしれない。何しろ「ガーシー以後」、「NHK党以後」の「ぶっ壊れたモラル」の果てが彼の「噛みつき」だと私は解釈していますから。
粗品も昔はそんなじゃなかったけどなー、と、彼がなんとなく嫌いそうな文言をここに置いておく(笑)。
これは私の仮説にすぎないが、「コンプライアンスの強化」が「悪口が変な方向に向いている」ことの一因ではないかと思っている。
それまで悪口の対象となってきた、バカ、ブス、貧乏、運動ができない、「ド田舎、柄が悪い」などの特定地域や、バラエティでやる気のない番宣俳優、やる気のないグラビアアイドル、などなどに対しての「わかりやすい悪口」がダメになった結果、悪口の対象が入り組んで(あるいは個人攻撃など、極度に単純化されて)、よくわからないことになった、と思っている。
また、悪口を言われた相手が猛然と反発してきたり、訴訟を起こして来たり、特定団体が抗議を申し入れてきたりする可能性のあるものも、悪口の対象としては避けたい。
そうなると悪口、ディスりの対象はごく近い身内、やりとりの相乗効果で「笑い」に昇華できる相手、そのまったく逆で、テロ的に相手が受け身を取りようがない相手(まったく関係性がなかったり)、反論してこなさそうな相手(お笑いファン、お笑いマニアなど)になっていく。
ビートたけしの時代は、芸人の「悪口」とは、なんらかの本質をついているものだった(実は、ビートたけしより先輩の立川談志もかなりメチャクチャで、彼の悪口に道理はあんまりないのだが、ややこしいのでここでは触れない)。
80年代、なんかパッとしない女性モデルを四人くらい集めた歌のユニットがあって、それを見た瞬間、たけしが、
「よく見るとみんなブスだな」
と言って笑いを取ってたが、なんとなくそのグループが「パッとしない子を数人集めれば何とかなるんじゃないか」ということでつくられた感があったので、そこで笑いが成立したのだ。
単に、容姿のみをどうこう言っていたわけではない。
今は、テレビや動画などで芸人などが観る「悪口」に何の方向性もなくなった。
むしろ「いいがかり」に近い。「いいがかり」を付けておいて、そこから何かが生まれればいいとする。だから理由なんかどうでもいい。噛みつきやすければ、なんでもいいのだ。
そもそも「○○はおもんない」と、芸人が言うことにどれほどの意味があるのかまったくわからない。
だって、面白いと思う人(一般客)もいるでしょ。
身もフタもないけど(笑)。
コウメ太夫に救われている人だっているんですよ。
(面白くない芸人の代表みたいに書いてしまったが)
テレビに出て、そこそこ人気のある芸人なんて、「好きな人とそうでもない人」がいるのは当然だ。
「〇〇は面白くない」と芸人が言いきるのなら、「こういう理由で自分は面白いと感じない」と示さないといけないが、あまりそういう人も見ないね。私が知らないだけですかね。
あと「令和ロマン」優勝以降、「学生芸人出身者」をディスって対立構造に持って行こうというテレビバラエティの意向が見えた時期があった気がするが、私の観測範囲ではあっという間に終息した。
宮迫が「事務所に所属しテレビに愛着のある芸人なら、だれでもディスっていい部外者」認定されている醜さは、同時にテレビの断末魔を表現していて、観ていられない。
しかし宮迫がターゲットになりがちなのも、そもそも「悪口の対象」がものすごくせまくなっているからだろう。
なお、どこかのなんかのイデオロギーで、「自虐」自体が他人を傷つける、という理論があるらしいが、
「自虐」は別に自己肯定感を投げうって自信をピエロに仕立て上げているわけではない。「自虐」が世間への異議申し立てになりうるのは、90~2000年代のおたくたちが自身を世間的にはネガティブなイメージがあった「おたく」だと規定し、そこからの「価値観」で世間を撃つ、という要素があった。
「ネガティブな立場であるとあえて自身を規定し、そこから世間への反撃を試みる」という「戦略としての自虐」というのがかつてあったのだが、今はもうだれもそのことを覚えていない。
あと、一時期「クズ芸人」というのが流行ったが、もちろんみんなご存じのとおり、テレビに出られる芸人はクズでもなんでもない。
真の「人間的なクズ」とは、
・弱者を踏みつけにする者
以外にはないのであって、そんな人は最初っから、テレビに出られない。
おしまい