「手首エイムは絶対ダメ」に関してマウス屋が思うこと

はじめに

話題となっている動画の内容を要約すると
「手首を軸にしてマウスを左右に振るような動きでエイムするよりも、腕全体を使ってマウスを動かした方が良いエイムができるよ。」
ということだと思います。それがどういった仕組みでそうなっているのかといった分析については特にその動画で深く言及されていませんが、TOPプレイヤーの実例を見ると確かに納得のできる主張に思えます。

マウス屋の立場としては、エイムは身体の構造や動かすメカニズムを土台に議論されるべきだと考えているので、この記事では、身体を動かす仕組みから考えて、手首エイムが良いのか悪いのかについて考えていきます。

(…とは言え、いきなり仰々しい筋肉や関節の漢字がたくさん出てきても読みにくいだけだと思うので、一歩引いた視点からイメージしやすいように書ければ良いと思います。)

「身体の動き」という視点から見たエイム

ここからは私の考えを踏まえて話します。

まず、私から見て手首エイムがダメというのは、「手首の関節の動きのみでエイムするのはダメだ」では言葉不足です。「手首の関節の動きを意識してエイムすることがダメだ」といった方が適切です。

エイムを「身体の動き」という視点まで引いて見てみると、私達の日常生活で行う身体の動きの中で、どこかの関節を意識して動かすことはありません。ものを持ち上げて運ぶとき、コップをつかんで水を飲むとき、ペンで文字を書くとき、その動きの大小に関わらず私達は目的に合わせて無意識に必要な関節を動かしています。
私達が意識するのはその動きの目的であって、どういった身体の動きが目的を達成するのに効率的かの判断は無意識で行われているということです。

つまり、「エイムするときに手首の関節の動きを意識すると、無意識で行われるはずの身体の動きが意識の介入を受けることになり、効率的な動きを阻害するのでダメだ」ということです。

無意識の方が身体を動かすのが上手い

私達の日常生活の経験から、エイムをするときには身体の動きに意識を向けない方が良いという話をしました。この意識の問題はスポーツ科学の分野においてもよく扱われるテーマです。

スポーツ科学では自分の身体に意識を向ける感覚をインターナルフォーカス、身体の外に意識を向ける感覚をエクスターナルフォーカスと呼びます。

野球のバッティングに例えると、
インターナルフォーカス:脚の角度や腕を伸ばすタイミングとスピードに意識を向ける感覚
エクスターナルフォーカス:バットの角度や位置、スイングする軌道に意識を向ける感覚
というイメージです。

近くに立ち幅跳びができる環境がある人はこの実験を試してみてください。
①脚をなるべく早く伸ばすように意識して立ち幅跳びをする
②着地した位置に目印をおく
③目印を超えるつもりで立ち幅跳びをする
この実験では1回目がインターナルフォーカスの感覚、2回目がエクスターナルフォーカスの感覚になります。
恐らく、2回目の立ち幅飛びでは1回目で付けた目印よりも遠くに跳べたはずです。エクスターナルフォーカスがより高いパフォーマンスを出せることが確認出来ます。

一般的にもエクスターナルフォーカスの方がインターナルフォーカスよりも高いパフォーマンスが出ることが分かっています。
このエクスターナルフォーカスの優位性は立ち幅跳びのように瞬間的なパワーを発揮するタスクだけでなく、バスケットボールのシュートやダーツといった精度の求められるタスクにおいても見られることが分かっています。

エイムで言えば、「センサーを動かす」とか「クロスヘアを動かす」というのは、エクスターナルフォーカスの感覚ではないかと思います。


上手い人のアドバイスが参考にならない理由

私が高校の体育の授業でバスケの上手いA君にフリースローのコツを聞いたとき、「リングに向かって放物線を描くように投げるといいよ」というアドバイスをもらったことがあります。
こういう、上手い人の参考にならないアドバイスをもらう経験は誰しもあると思います。「それって結果論じゃん」「もっと肘の角度とか目線とか足幅とかのフォームについて教えてくれよ」「これだから感覚派の天才は」と。

なぜ上手い人は参考にならないアドバイスをしてくるのか。下手な人への嫌味でしょうか?

ここまで読んだ方ならわかると思いますが、A君のアドバイスはエクスターナルフォーカスで、私の求めていたアドバイスはインターナルフォーカスでした。
恐らく彼は本当にリングに向かう放物線しか意識しかしておらず、身体はそのために無意識で動いているに過ぎなかったのでしょう。

手首エイムは矯正されるべきか

それはさておき、手首エイムというのは結局やめた方が良いのでしょうか。

まず、手首エイムが良いのか悪いのかというのを、エイムを外から見ただけで判断するのは難しいです。重要なのは、どうして手首だけが動いているのかです。

手首を動かしてエイムしようという意識が強い人というのは少しインターナルフォーカスに偏りすぎているかもしれないです。
逆に細い動きだから単純に手首だけの動きで済んでいるとか、感度が高いから手首だけの動きで済んでいるのであればあまり手首エイムがどうといった話に振り回される必要はないと思います。

これは別に手首に限った話ではなく、指先でも手首でも肘でも肩でも、関節の動きを意識することはインターナルフォーカスの感覚に近いといえるので、そういった方は少しエクスターナルフォーカスを試してみてはどうでしょうか。

手首エイムというのはあくまでもフォームです。フォームがプロゲーマーと同じであったとしても同じエイムを実現できる訳では無いですし、個人差もあるので、あまり囚われすぎる必要もないです。
プロゲーマーと同じエイムを実現したいのであれば、フォームよりも感覚を再現することの方が効果的でしょう。

元も子もない話ですが、エイムを良くするには自分の身体がマウスを使ってエイムするという動きに適応していくのを地道に待つしかないです。
エクスターナルフォーカスを意識することが少しその適応を早めてくれるかもしれないので、是非試してみて下さい。

次話したいこと

次回予告を一応書きます。
先程「フォームがプロゲーマーと同じであったとしても同じエイムを実現できる訳では無い」と書きました。しかし、何故でしょうか。
そのあたりについて、次回は書いていこうと思います。

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