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自己とは何かを考えるときは「牡蠣フライ理論」で
村上春樹さんが、『原稿用紙四枚以内で自分自身のことをが語りなさい』という問題が試験で出た場合、どのように答えますか?という問いにこう答えていた。
原稿用紙四枚以内で自分自身を説明するのはほとんど無理に近いですね。おっしゃる通りです。それはどちらかというと意味のない設問のように僕は思えます。ただ、自分自身について書くのは不可能であっても、たとえば牡蠣フライについて原稿用紙四枚で書くことは可能ですよね。だったら、牡蠣フライについて書かれてみてはいかがでしょう。
あなたが牡蠣フライについて書くことで、そこにはあなたと牡蠣フライのあいだの相関関係や距離感が、自動的に表現されることになります。それは突き詰めていけば、あなた自身を書くことでもあります。それが僕のいわゆる「牡蠣フライ」理論です。
牡蠣フライであるのは、村上春樹さんが好きだから。
だから、メンチカツでもトヨタ・カローラでもいいよと話は締めくくられていく。
これは、おもしろい理論だと最初に読んだ時に思った。
皆さんだったら、何を書くだろうか。
ぼくだったら、山かな。それとも麻婆豆腐か。
このあとに、牡蠣フライが書く村上春樹さんの文章が綴られていくんだけど、描写が細かくて、鮮明にどのように楽しんでいくのかがわかる。
牧のうどんと、ぼく
そんなこんな考えていたら書きたくなる。
旅から福岡に戻ってきたときに食べたくなるのは、うどんだ。
じゃあ、どこのうどんを食べるのかというといつも迷う。
ウエストか、資さんか、牧のうどんか。
悩んだ末によく辿り着くのは、牧のうどん。
券売機の前には、すでに人がずらりと並んでいる。きっと観光客だろう。
列に並ぶのは好きじゃないから少し躊躇するけど、結局は並んでしまう。券売機の前に着いたらすぐ決めていたものを選ぶ。だいたいメニューは頭のなかに入っているから。
今回は、肉ごぼう天うどん。
席に座りちょっとすると、お盆にのって匂いと共にやってくる。小さな薬缶つきだ。
まずは、ごぼう天に箸をのばす。天ぷら部分がサクサクなうちに。そのとき、福岡ではどうして、ごぼう天が有名なんだろうと思う。だけど、毎回調べずにいるから同じことを繰り返していく。
そして麺をすくい、すする。うどんの麺はやわいがそれがいい。そして、ダシのきいたスープをレンゲをいただく。スープが身体全身にしみわたっていくのがわかる。少し甘くて旨みのある肉汁が、邪魔せずちょうどよい味つけで感動する。
そんなうちに、麺がスープを吸い、スープが少なくなっていくから小さな薬缶に入っている追いスープを加える。
いろんなことを思っているのかも
無意識にこれまで食べていたけど、書いてみると食と向き合っていたんだなと気づく。
もしかしたら、他の人と似通ったものかもしれないけれど。
〇〇と自分というような感じで、これからも書いていきたい。
村上春樹さんが牡蠣フライから、村上春樹さんらしさが溢れていたように、自己は何かを見つけていくはおもしろいかもと考えている。