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なぜコロナ対策は「飲食店への要請」だけ? 〜半年前の分科会資料から読み解く〜

もはや第何波なのか分からなくなるほどの、たび重なる緊急事態宣言・まん延防止措置にもかかわらず、コロナ禍の終わりはなかなか見えてきません。
飲食業界は、それらの宣言や措置のたびに営業の縮小・内容変更を迫られ、疲弊しています。

感染を抑えるため、ある程度経済活動等の自由が制限されるのは仕方がないことです。
しかし問題は、宣言・措置に織り込まれた対策が
・的を射ておらず感染を十分に抑えられていない / 抑えるのに時間がかかる
・従って、一部の業種のみが長期間、重い負担を強いられている
・それに対する補償が基本的に十分と言えない
という点にあると思います。

飲食業界において、精力的に政府等との交渉を行ってこられた米田 肇さんも先日、以下のような記事を執筆されていました。

政府は「経路不明の感染の原因の多くは、飲食が原因」と名指しで飲食業を悪者扱いしたのですが、参考資料を見たところでもその根拠は薄く、推測で判断されているものでした

ここでいう「参考資料」とは、2020年12月23日に分科会が提示した資料現在直面する3つの課題を指していると思われます。
これを読むと、内容が合理的であるかは別にして、「なぜ政府・分科会は飲食をターゲットにしているのか」は理解することができます。また一方、米田さんによる「根拠は薄く、推測で判断されている」という指摘も真っ当なものであることが分かります。

僕もこの資料が出た当時から、この資料の根拠の薄さについてnoteに書こうと思いつつ時間が取れずにいたのですが、これを機にそのことを書いてみようと思います。
そういうわけで半年前の資料について今さら書く形になってしまったため、最新の状況とは一部異なる部分もある点はご了承ください。

当該資料は全24ページですが、まずはこのうち5ページに、計8点のツッコミを入れていきます。

p.6 : 歓楽街や飲食が感染拡大の発端になった??

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第1波で感染が広がった流れは、

輸入

「夜の街」

孤発(非クラスタ)

家庭内感染

院内感染

というものだったことを説明しようとしているスライドです。しかし……

(1)「孤発」が飲食だったことを示す根拠は皆無
「孤発(飲食等?)」とありますが、これまでの資料中には「孤発」に飲食が多いことを示す根拠が1つも出てきていません。
そのため、なぜこうした記述があるのかが分かりません。

これはまさに「推測の域を出ない」記述です。飲食「等?」という記述からは、書いてる側も相当に自信がないことが伺えますよね。

(2)一番厳しく制限すべきなのは「輸入」だったのでは?
「輸入」が第1波の起点になったことが分かっているのなら、やはり何よりもまず入国制限を強化しなければならなかったのではないでしょうか?
この資料から半年経った現在でも、さまざまな変異株の侵入をいとも簡単に許してしまっているように見えます。

(3)本当に起点は歓楽街や飲食だったのか?
第3波は、輸出や孤発を起点にしていた第1波と第2波とは異なる拡大経路を辿っているように見えます。
実際、第3波は時系列を示す矢印が点線になっており、「?」がついています。
そうであれば、スライドのメインメッセージ(「歓楽街や飲食を介しての感染が感染拡大の原因」)の反証になってしまっているのではないでしょうか?
3つしかない事例に例外が1つある、というのは理論の妥当性があまりに低いですよね。

p.7 : 「孤発」ではないクラスターでも、飲食店が多い??

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(4)本当に飲食店だけが多いのか?
「福祉施設」や「企業等」が「飲食店」を上回る週も相当数あります(グラフにある14週のうち、「飲食店」より多い週が「福祉施設」には5週、「企業等」には4週あり、それぞれ3割前後の割合)。

このグラフからは、飲食店でのクラスターが多いことも分かるのですが、同時に他にも多くのクラスターを出している場所があることも分かります。
だとすれば、飲食店だけを規制の対象とする対策では、クラスターの発生 / 感染の拡大を防ぐには不十分であり、飲食店だけが不当に長い間規制を強いられているということになります。

p.8 : クラスターは飲食店→医療・福祉施設の順で発生??

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(5)グラフが「飲食店で先行」に見えない
……どうでしょう、このグラフで、メッセージにある通り「飲食店で先行」に見えますか??僕には見えませんでした。
通常こういうグラフって、棒グラフで示されているクラスター数(場所別)を折れ線グラフで、逆に折れ線グラフで示されている週ごと陽性者数を棒グラフで示すと思います。
その方が場所別のクラスター数がどう連動しているかが分かりやすいからです。
そうしてないのは、あえて読みにくくして誤魔化しているのかな?とさえ思ってしまいます。

……で、実際に折れ線グラフにしてみたものがこちらです。
(元資料には件数が明示されていないため、面倒でしたがいったん棒グラフで高さが完全に合うようにして、折れ線グラフに変換、という方法をとっています。)

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うーん、それぞれ独立して増減しているように見えてしまうんですよね……(このデータで飲食→医療・福祉の因果関係を示す方法が分かる方が、もしいらっしゃれば教えてください🙇‍♂️)

少なくとも飲食関係者からは、これを以て「飲食店で先行」と言われても、分科会を取り仕切る医療関係者のポジショントークにも見えてしまいますね。

(6)「イメージ」とは??
元資料のグラフ右上に「イメージ」とあります。これは数値ではなくイメージなんでしょうか?
そうだとしたら意味のないスライドになってしまいます。

p.10 : 都市部では孤発例が多い = 飲食が多い??

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(7)意図が不明、かつスライド内に矛盾
「特に都市部では孤発例が多い」というスライドメッセージですが……
だから何なのでしょうか?

おそらく
「都市部では飲食店の利用が多いはず。そのため孤発も多い。」
ということが言いたいのかなと思いますが、やや根拠が薄く論理の飛躍がある(だからスライド上でも明確に説明ができていない?)気がします。

またグラフにあるとおり、この時点でも比較的感染者の多かった北海道は孤発例が少ないようですね。
スライドのタイトルやメッセージと矛盾しているように感じます。

p.11 : 飲食が感染拡大の原因である??

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(8)これまでの説明内容自体に無理があるので、結論も無理がある
これまでの数々の根拠薄弱・論理の飛躍を無視してそこから導かれる結論をまとめているので、無理があるとしか思えません。

実際、スライド下部のメッセージでは「2.感染経路がわからない感染の多くは、飲食店における感染によるものと考えられる」と断定を避けています。(実際にはこれまでの資料では根拠が薄すぎて、「考えられ」もしないんですが。)

スライド下部のメッセージをさらに詳しく見ると、2-a.では会食が「主要な原因の一つ」とされていますが、そうであるなら「他の主要な原因(職場等)」を封じる必要性は本当にないのでしょうか?
この報告から半年たった今でも、そうした措置はほぼ取られていないようです。

※2-c.だけは、このあと見るように唯一信じられそうな内容ですが、これだけを根拠に「飲食が主要因」と言われるとちょっと弱いように感じます。

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さて、ここまで分科会資料の不可解な点を指摘してきました。
一方この資料にも、「飲食業を規制対象の中心とする」根拠として理解できる点が2点ほどありますので、それについても触れたいと思います。

p.9 : 欧州事例ではレストランの再開が感染を最も増加させた

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こちらは分かりやすいですね。たしかに欧州では、レストランの再開は感染増加への影響が大きいようです。
ただしこれに従うなら、本当に感染を抑えるためには影響の大きい他の業態も封じる必要がある、そうでないと対策としては十分ではない、とも言えます。また、そもそも欧州がロックダウンにおいて取った措置は、日本における「自粛要請」とはだいぶ異なる点にも注意が必要です。

こういう業種別の影響分析が日本でもできればいいのに、と思いますが、飲食業以外への規制をほとんど行っていないのでデータが取れないのも残念なところですね……。

p.15-17 : 北海道、東京、大阪において、歓楽街の人出と実効再生産数*の推移が一致している

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*実効再生産数:1人の感染者が平均して何人に直接感染させるかを示す数値

飲食店の多い歓楽街の利用者が増えると、実効再生産数も増える = 地域内の感染者が増加に転じやすい、ということが良く理解できます。

これらのスライドも非常に分かりやすいと思います。飲食店をターゲットにするためだけなら、ほかの訳が分からないスライドはあまり使わず、このスライドだけで説明した方が良かったのではないか、と思うほどです。

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……以上見てきたように、資料全体において内容の妥当性は低いものの、一部には妥当と思われる部分もあり、この資料をベースにすれば少なくとも「なぜ政府・分科会が飲食をターゲットにしているのか」は分かります。
しかし、実際にはこの資料を用いた説明はあまりされていないように感じます。

この資料をもとにリスクコミュニケーションをとっていけば、飲食以外にどんな規制をして感染を抑えるべきなのか、もっと具体的な議論ができるはずですが、そうなっていないのは残念なところです。

政府・分科会としても感染は抑えたいはずですし、飲食業やほかの規制対象業種への説明にこの資料を使えば良いと思うのですが、なぜそうしないのでしょう?
資料中に「ああ、これが資料をあまり使いたくない理由かもな」と思う部分があったので、最後に9点目の指摘としてそれをご紹介しておきます。

p.4 : 2020年10月後半〜12月初にかけて、首都圏から地方へと感染が「染み出した」

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(9) : つまり、GoToトラベルの停止時期を見誤ったということ?
感染者が東京を中心として、徐々に外側に広がっていたことが、視覚的に非常に分かりやすいスライドです。

ただ、ここから分かるのは「この途中のどこかの段階で、GoToトラベルを見直ししなければならなかった」ということですよね。
実際にGoToトラベルの停止が表明されたのは、上図の右下部分で示された時点から約1週間後。停止されたのは、それからさらに2週間後の12月28日のことでした。

これまで参照してきた資料「現在直面する3つの課題」が提出されたのは12月23日。政府としては、このタイミングでGoToトラベルが感染を広げたことを示す資料を、あまり前面に出したくなかったのではないでしょうか。

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……と、いうことまで勘繰ってしまう資料でした。

今回半年越しで、あえてこれを書いたのは、半年経っても
・この資料について解説した記事などを目にしたことがない
・この資料以降、飲食業への規制の妥当性を示す資料等は提示されていない
・感染の抑制策に関しても、一向に進歩が見られない
と感じたためでした。
(上記の3点とも、この半年間心待ちにしていたものなので、僕が知らないだけであれば教えていただければと思います🙇‍♂️)

追記(2021/7/12):
……と、書いていたら7月8日に新しい資料が公開されていました。そちらについてもまとめてみましたので以下にリンクを掲載します。

オリンピック開幕を3週間後に控え、感染が再び拡大局面にあるいま、「飲食業への要請にどの程度妥当性があるのか(ないのか)」を知っておくことでアクションがとりやすくなる部分もあるかもしれません。

妥当性のある範囲では、十分な対策を。
妥当性のない部分については、十分な抗議や意見表明を。

残念ながら自分たちの身は自分たちで守るしかない、という状況ですし、すぐに状況が良くなるとも考えにくいですが、辛抱強く適切なアクションを積み重ねることで、ベターな未来を掴み取っていきたいですね。

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Kohei Nito
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