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Uberおじさんに教わった事

このおじさんの長い世間話は一体いつ終わるのだろうか。
Uberに揺られながら、しばしば湧き上がってくる感情だ。

僕がニューヨークに住み始めて、これだけは日本よりもニューヨークの方が確実にレベルが高いと思っているものが2つある。
歯医者とライドシェアである。歯医者は別の機会にして、今日はライドシェアについて書く。

ライドシェアに関しては日本でも報道されているので知っている人も多いとは思うが、要は一般ドライバーによる家庭用自家用車を使った送迎マッチングサービスの事で、これがすこぶる便利なのだ。UberやLyftといったサービスが有名である。

専用のスマホアプリを使うと本当に一瞬で迎えが来る。早いとものの2分足らずで来る
予約の際には、料金はもとよりピックアップ予定時刻も到着予定時刻もドライバー評価も全てを確認した上で予約が出来る。
待っている間もGPSで今その車が何処まで来ているのかが一目瞭然に分かる仕組みになっているので、いつ迎えが来るのかわからずにイライラして待つこともない。
一度乗ってしまえば、ドライバーに目的地を伝える必要もなく、現金を渡す事必要もない。何ならコミュニケーションゼロでも目的地に到着する事が出来てしまう。なんというイノベーションだ。日本もタクシー業界への影響はわかるが、世界は2歩も3歩も先を行っている。

思い返せば、日本にいた頃はオフィスの目の前にある大通りに出て手を上げてタクシーを拾っていた。
中々タクシーが来ない事も多かったし、手を挙げている僕の10メートル先に颯爽と割り込んで手を挙げる無作法な輩もいた。手を上げた僕を一瞥した上で既読スルーしていくドライバーもいた。
Uberを一度知ってしまったら、もうあの頃に戻る事は出来ない。

僕が得意とするジャパニーズイングリッシュが全く通じないこの土地で、僕はこのサービスに助けられながらなんとか生きる事ができている。

そういえば、この街で暮らし始めたばかりの頃に、街角で見つけたオーガニックを謳うジュースバーで健康に良さそうな真っ赤なジュースを飲みたかった僕は「I wanna red one.」と店員に伝えた。注文はメニューにある赤・黄色・緑・青の四つの中から選ぶだけだった。
さっきまで笑顔で接客していた店員は一瞬で無表情になり「I cannot understand. 」と一言、ナイフのような鋭い返事をくれた。
ジュース一杯さえもまともに注文できない自分に、この国で僕はまた一人泣いた。
こんなコミュ障ジャパニーズからしたら会話不要でも目的地に辿り着けるライドシェアは実に代え難いサービスなのである。

ただ一点、正確に書くと、乗車から降車までシステム上会話不要でもいけるだけであって、日本のタクシーのように無言で目的地に到着することはほぼ無いと言って良い。
ここでもドライバーは皆一様におしゃべりだ。

彼: 俺の車はカッコ良いだろ。

僕: お、おう。そうね。カッコ良いね。

彼: 最初はBMWにしようと思ったんだけど、妻がBMWはBring Money With You(あなたのお金を奪っていく車)の略だ、なんて言うからさ、BMWはやめたよ。この車にして正解さ。アハハ。

というアメリカンジョーク?に自分で爆笑しながら、僕が聞いてもいない話を延々と続けていく。

彼: テスラは自動車じゃないね。言ってしまえばあれは大きなラジコンさ。おれはラジコンを運転するつもりはないぜ。その点俺の車と来たら、まずパワーが違うんだ。2.5リッターターボだからな。上り坂の加速に関しても○!※□◇#△



以降の僕の記憶はそこから無くなってしまっていて思い出すことが出来ない。

この時はJFK空港に到着するまで延々と話が続き、着いた時にはぐったりしていたように思う。
こちらが聞いているかどうかは彼には関係ないようで、まるで講演会に強制参加させられた気分だ。

この相手が聞いてなくても話し続けられる精神力は僕にはとても真似出来ないと感じていたし、一方同時にこのコミュニケーションのスタイルになにか懐かしさも感じてしまっていた。

少し思うのは、日本も30年位前のタクシーはこんな感じではなかっただろうか。
今ほどマニュアルやルールが整備されておらず、もっとタクシードライバーと客が自由な会話をする世界だった様な気がする。

運転手も今ほど客を殿上人として扱わず普通に一人の人間として接していたのではないか。
客が来るまで外で立って待機しているのは流石にやり過ぎで、お客様をお客様として上に上げ過ぎな気がしている。少なくとも僕はエアコンの効いた運転席で待っていてくれれば良いし、人間同士の普通の会話をすれば良い、正直もっとフランクで良い、と思うのだ。

日本は世界でも類を見ない程に安全で美しく規律ある国だと思うが、一方で規律正しくある事を求めすぎて息苦しさもある様に感じている。

もっと日本も自由で良いと思う今日この頃なのである。

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