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ちょっとだけ大人になるかもしれない物語、『アニポケリコロイ編』序盤評

そして、2023年4月、リコとロイ、2人の新たな主人公を迎えた新シリーズが始まります。テレビアニメ「ポケットモンスター」のカメラは、2人の冒険を追っていくことになります。新シリーズにぜひご期待ください。

アニポケ新無印公式サイトより

カメラのフォーカスがサトシからリコとロイに移って半年。みなさんはアニポケをご覧になっているだろうか。筆者は毎週楽しみに鑑賞している。第1章「リコとロイの旅立ち」から第2章「テラパゴスのかがやき」が始まったこのタイミングでリコロイ編の現状の所感を書いておきたい。

『リコとロイの旅立ち』編の大まかな感想

結論から言うと、筆者はリコロイ編がサトシ編との違いを出しつつ、「コンテンツのアニメ」をやってくれていることがすごく嬉しい。まずサトシ編の基本は、1話ごとに様々なポケモンにスポットライトを当てる、単話完結構成だったが、リコロイ編は続きモノという側面が強いという違いがある。また、ポケモンよりトレーナーを先に置いて、彼らとポケモンの関係性に力を置いている。この点はサトシ編までのアニポケよりも漫画『ポケットモンスターSPECIAL』に近いかもしれない。

リコとロイはゲームの主人公やサトシのようにジムバッジ巡りをしていない。なのでジムリーダー達も「道中で助けてくれるお兄さんお姉さん」という感じになる(感覚としては「新無印」の過去作ゲストに近い)。リコの目的は伝説のポケモン「テラパゴス」をかつての主人、ルシアスとの思い出の場所「ラクア」へと連れていくこと、ロイの目的は逃げ出した黒いレックウザをゲットし、伝説の冒険者、ルシアスのような偉大なトレーナーになること。ゴールは違うものの、テラパゴスとレックウザは「ルシアスが主人だった」という繋がりがあり、手がかりとなるのは他のルシアスの手持ちポケモン「六英雄」。この六英雄に認められることが作劇場のジムバッジの代わりとなっているようで、過程の共通化、明確化はサトシとゴウの目的が全く交わらなかった『新無印』の反省と言えるだろう。また、「ポケモンバトル要素」をあえて最低限にしたことで、前回の記事でも触れた、ゲームの仕様や展開をそのままなぞらない、「コンテンツのアニメ化」がより鮮明になっていることも評価したい。

今作の悪役であるエクスプローラーズにも触れよう。彼らは目的のためならポケモンの能力で記憶操作したり、周りの野生ポケモンや建物を巻き込むことすら厭わない。今の時代では逆に珍しいほどの清々しい悪役だ。幹部構成も「悪人ながら正々堂々な戦いを好む武人」、「外道な策略家」、「狂気的な女性」、「巨漢の男」、「クールな女性」とこれまた「戦隊モノの悪の組織」や「ファンタジー作品の魔王軍」にありそうなキャラ付けである。ベタと言えばベタなのだが、これまでのアニポケは「間抜けな悪役だけど、何処か仁義もある」ロケット団と、原作の悪役がちょろっと出るくらいだったので、かなり新鮮に感じるのが面白い。

ちょっとだけ大人になるかもしれない物語

さて、リコとロイの当面の目的はテラパゴスとレックウザだろうが、筆者は物語全体を通して「どんなポケモントレーナー、大人になりたいか?」という問いかけが多いことに注目したい。最初のOP『ドキメキダイアリー』も「ちょっとだけ大人になったかもね」という歌詞で締められる。

リコはとにかく現代っ子といった感じのキャラクターで、オタク気質かつ、心の中では色々なことを考えているものの、それを表に出すのは苦手で、自分を押し殺しがちな性格である。また、両親とは仲が悪いわけではなく、むしろ愛されているのだが、愛されているという自覚があるだけに一歩踏み出せない感じがある。ロイはリコに比べると正統派のホビーアニメらしい主人公で、メンタルは彼女に比べると完成されているが、実力がまだ未熟と言って良い。そこに知識は豊富だが、引きこもりがちな準主人公のドットも加わる。それぞれ弱点を持っている3人の成長がこのアニメの主題のように思える。

ライジングボルテッカーズという大人たち

リコロイ編の大人たちといえば、ポケモン博士のフリード率いる「ライジングボルテッカーズ」である。まず彼らは、リーダーのフリードを除いてポケモンバトルが強いわけではない。敵であるエクスプローラーズの下っ端に苦戦するレベルである。そのフリードは報連相をしない悪癖を作中でも散々指摘されているし、医療担当のモリーは(明言は避けられているが)ジョーイさん一族のはぐれ者で、ポケモンセンターにトラウマを持っている。料理担当のマードックも(作中で仲直りできたものの)ともに店を経営していた同僚と喧嘩別れをして疎遠になった経験があったりと完璧な人間とは言い難い。だが彼らがリコとロイという子供の前では頼れる大人でありたいと思っていることも事実で、喧嘩しているところをリコとロイに見られかけて、「仲良しナマコブシ〜」と誤魔化すシーンはその代表例である。それぞれコンプレックスや弱点はあるけれど、せめて子供達の前では良い大人でありたい。彼らのあり方は大人とはどういうものかを端的に示している。

大人になれなくなったサトシ

サトシは大人という概念に真っ向から相反する存在だった。いや、正確にはそうなってしまったと言った方が正しいか。サトシは26年間(1997年4月1日~2023年3月24日、つまり26年弱。引用)旅をしていたが、トレーナーとしては成長していったものの、ついに1歳も歳をとることはなかった。『ピチューとピカチュウ』の話はここでは考えないものとする。それどころか、サトシは「どこにでもいるポケモンが大好きな少年」から「誰もの少年時代にいたかもしれない、理想の友達」といった方向性にだんだんシフトしていった印象を受ける。特に『遥かなる青い空』のサトシをイメージしてもらえるとわかりやすい。26年間も10歳でいた結果、永遠の10歳になってしまったのがサトシと考えて良いだろう。旅の終わりがないことが終わりだったサトシに対し、リコとロイ(とドット)はどのような結末を迎えるだろうか。


リコとロイが旅を終えて家に帰った時、視聴者の誰もが「ちょっとだけ大人になったかもね」と思える、そんな物語であってほしい。

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