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アニメ「菜なれ花なれ」感想 恐怖を受け止める物語


「菜なれ花なれ」は良作だと思う。
 この作品は序盤で大きく躓いてしまった節があり、世間的には凡作、あるいは駄作と評価されていると言える(参考までに執筆時点でのamazonレビューを書き添えておくと、その評価は☆3.0)。
 この評価が不当だと言いたいわけではない。観客を繋ぎとめるのも作り手の仕事であって、それができなかったのは事実だからだ。しかし、それでも自分はこの作品を強く支持している。
 今回は「菜なれ花なれ」(以後「なれなれ」)が持つ二つのテーマ、その結びつきなどをメインの話題としつつ、全体についての感想を述べていく。
 各人物の役割・行動原理などについては、別記事で取り上げたいと思っている。そちらもよろしければ。

あらすじ

チアリーディング全国大会連覇を目指す名門、鷹ノ咲高校。1年生ながらにAチームを勝ちとった全中大会優勝経験者、美空かなたは大会中のミスがきっかけで飛べなくなってしまう。
そんなある日、かなたの目に飛び込んできたのは、電車と並んでビルからビルへと飛び移るパルクール女子高生、小父内涼葉だった。

かなたと涼葉に新体操お嬢様・詩音。ブラジルからの帰国子女・杏那。杏那のクラスメイト、ヨガ哲学女子・穏花。そしてかなたの元チームメイト、車いす女子の恵深。

趣味も特技も性格もバラバラなメンバーが歌ったり、ぶつかったり、スタンツしたり、妄想したり…。
応援したいって純粋な気持ちが揃う時、PoMPoMs(ポンポンズ)の応援はチアリーディングの枠を超えて人の心に伝わっていく。

群馬の女子高生6人の応援が、
世界をちょっとだけ変える…のかも?

TVアニメ「菜なれ花なれ」公式サイトより

二つの軸、二つのテーマ

二つの所属を持つかなた

 本作は主人公・かなたを中心に、「鷹ノ咲高校チア部」と「PoMPoMS」の二軸で展開される。基本的にはPoMPoMSでの活動を描く回が多く、チア部に関するものは序盤と終盤にまとまっている。
 かなたはPoMPoMSでは応援をする個人である一方、チア部においては競技者の一面を持つ。

「応援」ともう一つのテーマ

 本作のテーマを一つ挙げるなら「応援」で間違いないだろう。
 かなたは根っからの応援好きであり、PoMPoMS結成の発端となる動画に出演する際も「応援になれば」と発言している。PoMPoMSでの活動を中心に、各人物の応援との向き合い方を描いていくのが全体のストーリーラインである。

 その反面、チア部に関連する場面ではかなたの異なる側面が描写される。
 5月の地区大会を期にイップスに陥ったかなたは、医者の進言で休部状態にある。幼馴染の恵深にもその事実を隠し続けていたが、少しずつ悟られ始め、打ち明けざるを得なくなる。
 なぜかなたはイップスになったのか、なぜ恵深へ告白できなかったのか。これが本作が持つもう一つのテーマ、「恐怖」を示すものだと私は思う。
 かなたに限らず、本作のキャラクター達は根底に何かしらの恐怖を抱えていることが描かれることが多い。最初、彼女達の行動はポジティブな志よりも、内側に巣食う恐怖に支配されている。
 一人では前を向けなかった少女達が、応援という営みを通して自らの恐怖と向き合っていく。「なれなれ」のストーリーはそういうものだったと自分は解釈している。

一幕目での失敗

 わざわざここに触れるべきかは悩んだが、先にこの話題を消化しておく方が良いと判断した。
 本作の最も大きな問題点、それが序盤戦である。これについては、ほとんどの視聴者が感じていたのではないかと思う。

圧倒的説明不足

 序盤、主に1~3話のストーリーラインは決して突飛なものではない。
 1~3話は、PoMPoMSメンバーが集結し、各自の役割も決まっていく決起のパートである。リーダー的立ち位置の杏那を中心に、作曲担当の詩音・振り付け担当の恵深・トップ(チアで一番上に立つ人)の涼葉。これらのメンバーが惹かれ合うように集まっていき、PoMPoMSという一つのチームになるまでが1~3話の展開だ。
 こう言われると何も難しいことはないように思えるが、これがとにかく分かりづらい。理由は単純で、目標の整理ができていないからだ。チアというお世辞にも知名度が高いとは言えないジャンルに対し、説明がとにかく不足している。

  • どんな人が必要なのか

  • どんなポジションや技があるのか

  • 人数は何人ほどが好ましいのか

 この辺りの情報は絶対に欲しかった。
 よく、バンドものや部活ものの作品で「あとは○○の人が入ってくれれば~」と話すような場面があると思う。ああいった場面が本作は不足していた。曲はなんとかなりそう! → じゃあ振り付けはこっちが! → トップも決まった! とトントン拍子で決まり、「今から何をすべきなのか」が視聴者視点で分かりづらいまま進んでしまったのだ。
 最低限「スタンツ」「トップ」「ミドル」「ベース」といったチア用語は説明すべきだったと思う。まあ調べれば分かるようなことなのだが、「調べれば分かること」を説明しているかどうかは大事だ。

視聴者を信じすぎた

 これに加えてもう一つ。画面を見ていないと伝わってこない情報が多かった点も書き加えておく。
 大前提、ほとんどの視聴者は画面を凝視なんてしていない。アニメは毎シーズン数十本と存在するわけで、さほどウェイトを寄せていない作品を大真面目に見る視聴者は少数だと言える。アクションシーンなどはさすがに注目を集めやすいが、会話が大部分を占めるパートでは画面から目を離していることも多い。
 しかし「なれなれ」は視覚に訴える表現が多かった。表情のみで情緒を描く場面が多い。普通のアニメなら画面を見なくてもいいような場面でも画面を見ている必要がある。これについては制作側も意図して行っていたようで、完結後のインタビューでも触れている(下記リンク参照)。
 これは真面目な視聴者には届くのだが、不真面目な視聴者には伝わらない。結果、知らない内に信頼関係が構築されたように見えてしまい、共感を呼びづらくなる。
 まずは真面目に見てやろうという気にさせなければならないが、そのフックが弱かった。

積み重ねが作用し始める中盤以降

 序盤は分かりづらさが前に出すぎていた本作だが、中盤からは徐々にギアを上げていく。というか「なれなれ」の世界観に視聴者がやっと追いつけたという方が正しい。
 6話では、PoMPoMSの長期的な活動方針として「お届けチア」が提示される。これは、応援が必要な人達を6人で応援しよう! というもの。自分はこのタイミングでようやく一息つけた。これから何をしていくのかが具体的になり、諸々を咀嚼する余裕が生まれたのだ。

応援を通して成長していく

 応援を通して、人物の内面にも奥行きが出てくる。中盤は印象的な回が多いが、ここでは7話「ハイカラ×バンカラ!」を推したい。この回は穏花の葛藤を中心に構成されており、「応援」という行為の意味を考える回となっている。
 杏那に巻き込まれる形でメンバーになった穏花は、誰かを応援することの意味を見出せないまま活動に参加していた。しかし、この回のゲストキャラ・番花ららとの交流を通して、自分なりに応援の意味を考え始める。
 穏花は他のキャラと違い、チア経験もなければ明確な目標もなかった人物である。そんな彼女が応援と向き合い、やがてはPoMPoMSを危機から救う人物になる。
 7話は本作のテーマを象徴したような回であり「菜なれ花なれ」というタイトルにも繋がる重要なエピソードだ。9話「雨とチア」にも関連する場面があるため、併せてよく噛み締めてほしい。

恐怖が消えることはない

 本作は「恐怖」をテーマにしている、という考えで全体を俯瞰すると、見えてくるものがある。それは、彼女達の恐怖の原因は多くのばあい解消しないということである。それが顕著に表れているのが、小父内涼葉に関するエピソードだろう。
 涼葉は自身の感情を素直に出せない性格で、また極端に無表情な人物である。故に周囲から誤解されることが多く、笑顔ができないことを理由にチアを辞めた過去も持つ。
 度重なる対人関係での失敗は、彼女を臆病にしていた。初期の彼女は嫌われることを恐れて消極的になり、自分の夢さえも諦めかけている。
 本編を通して、涼葉は笑顔を作れるようになろうと努力し始める。しかし、最後まで彼女は笑顔を「作る」ことはできないままだった。それでも終盤、涼葉は自らの夢に向かって踏み出すことを決意している。
 問題が解決していない、そう考えることもできる。作中で、涼葉は何か新しいことを身に着けたわけではない。重要なのは、それでも勇気を持った、持てたということなのだと思う。この辺りの話は作中でも終盤でがっつり扱われているので、注目して視聴してほしい。

総評

 この作品は良作、いや、名作だ。
 序盤の失敗から生まれる難解さ・余白の多すぎるキャラ描写など、総じて人を選ぶ要素は多い。しかし、それぞれが抱える「恐怖」を誠実に描写し、それは簡単には克服できないことを描いた。そして、「応援」を通して相手を、そして自分をも鼓舞する。人の営みの尊さを見せてくれた。
 本作はかなりのスルメ作品で、時間をかけてゆっくり読み解くことにより深みが伴ってくる。これから視聴するという読者諸兄には、是非ともじっくり作品を味わってほしい。私はこの作品を自信を持って薦める。

 そして、もし最後まで見てくれた読者が居たなら、是非とも作品の感想をどこかに残してくれ!!!!
 お願いします本当に。肯定的なものでなくても大丈夫です。最後まで見てもらえたというだけで救われます……。

以上

サムネイル
「菜なれ花なれ」公式サイトより
https://narenare-anime.com/story/?episode=10

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