『自律する子の育て方』はこれ1冊でOKな子育ての教科書。学校現場と脳科学が解き明かした2つの大切なこと
子どもの教育について考えるパパママが意識すべきことは「これだけでOK」と感じさせてくれる、極めてフォーカスが効いた1冊でした。
子どもへの教育は結局何が大切なのか?それは「社会で生きていく力を身につけてもらうこと」という目的に立ち返らせてくれます。そしてそのためには「心理的安全」という環境と「メタ認知」というスキルが最も重要であるという内容です。
これらは子育てだけでなく、大人の生き方や職場での振る舞い方を対象にしても、全く同じことが言えると感じました。
本書を手に取ったきっかけ
麹町中学校での教育改革で著名な工藤勇一先生、『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』などを著作に持ち脳神経科学から教育にアプローチする青砥 瑞人さんの共作、『最新の脳研究でわかった!自律する子の育て方 (SB新書)』。
実は青砥さんとは一時期同じ職場にいたことがあります。脳神経科学へのハンパない熱量を持つ彼と、以前から勝手に尊敬していた工藤先生の著書となれば読まない手はありません。(そして付箋だらけになりました)
教育の目的は「社会で生きていく力を身につけてもらうこと」
学校の最上位の目的は「子どもたちに社会で生きていく力を身につけてもらうこと」と工藤先生は言います。そのための教育指針として「自律」「尊重」「創造」を大切にしていたそうです。これらはOECDが定める教育指針とも合致します。
さらにこれら3つを育てるために重要な前提は、生徒の当事者意識(Student agency)だとされます。これらは「生徒は自分の人生や周りの世界を良くする意思と力を持っている」という考え方に基づいています。
会社組織でも同じことが言えるのではないか
ここは私見ですが、「組織の中でで生きていく力を身につけてもらうこと」「仮に組織を出たとしても、社会の中で生きていく力を身につけてもらうこと」と置き換えても違和感ありません。新人教育や人材育成を考える際にはベースとしてそのまま使える考え方のように感じています。
「自分の人生や周りの世界を良くする意思と力を持っている」そんな人はまさに採用したいし、そんな人材を輩出したいですよね。
●重大テーマ① 自律を育む環境「心理的安全性」
心理的安全性とは、文字通り「心理的に安全な状態」であり、否定されない環境があること。教育現場におけるキーワードで言えば「失敗しても大丈夫だよ」「失敗こそが学びなんだよ」ということに尽きるとのことです。
同時に大切なのは、心理的安全状態を自らつくることが得意な脳を育む、ということです。トラブルや環境変化からくるストレスに強い脳をつくっていくことも子どもの成長に必要だと青砥さんは述べています。
自己肯定感がストレス耐性を上げる
「ストレスをストレスと感じにくい脳」を育てるのに最も効果的な手段は、子どもの自己肯定感(自分ならできる、自分なら何とかなるという自己イメージ)を高めることです。しかし「自己肯定感を高めなさい」といって高まるものではないそうです。納得ですね。
否定されない環境をいかにつくるか
自己肯定感を高められるかは、結局のところ「否定されない」環境に浸かっていられるか次第。それらを実現するため麹町中学校では「3つの言葉がけ」を掲げ、学校だけでなく家庭でも実践してもらっていたそうです。
職場でも「心理的安全性」は叫ばれますが、家庭でも同じですね。先生を私に置き換えて、さっそく使っていきたいですね。
これらは自己決定の習慣化を促すと同時に、「先生(私)は味方である」という心理的安全性に寄与するのだと言います。
心の教育よりも行動の教育
「みんなと仲良くしましょう」「感謝の心を持ちましょう」といった心のスローガンだけではなく、理想に向かうための技術、行動に焦点を当てることが重要だとも述べられています。
「仲良くするための方法を考えてみよう」「差別をする心を消すことは難しくても、差別しない行動は意識すればできる」という声がけをするそうです。
その他、大人も完璧を目指さない(大人も「ママが至らなくてごめんね」といった自己否定をしない)、人と比較しない(「絶対レギュラー獲ろう!」が有効な子は一部)など、大切な話がたくさん書いてあります。中でも印象的だったのは部活指導のコーナー。
デンマークサッカー協会の10か条
デンマークのサッカー現場もかつては罵声が飛び交っていたそうです。しかしこれでは「スポーツは生涯にわたって誰もが楽しめるもの、みんなを幸せにしてくれるものだと子どもたちに教えられない」とサッカー協会が動き、今ではサッカー以外のスポーツでもこの10か条が常識となっているとのこと。
身につまされる項目が多いと感じました。スポーツ現場に限らず、普段から家庭でもこの10か条のような指針で子どもたちと向き合えているかと問われた気がします。
●重大テーマ② 自律を育むスキル「メタ認知」
自分の人生や周りの世界を良くする意思と力を伸ばしてもらうために不可欠な「状態」が心理的安全性であり、「スキル」がメタ認知能力です。メタ認知とは「自己を俯瞰的に捉え、自己について学び、自分自身をより良い方向に導いていく能力」のことです。
自己の捉え方(客観的と俯瞰的の違い)
客観と俯瞰の違いを知れば、メタ認知が分かると青砥さんは述べています。「他人からの評価」や「自己の振り返り」によって自分を他人のように見ることが客観です。これはもちろん大切ですが、学びを得るためには複数の定点を同時に見ることが必要です。これを俯瞰と言います。
例えば逆上がりをして失敗したときの動画を見返すのは、客観です。それ以外にお手本の動画、鉄棒を始めたばかりの頃の動画も見ることが俯瞰です。複数の定点で見ることで「昔よりはだいぶ上手くなった」「手の握りを変えてみようかな」といった気づきや学びが得られます。これがメタ認知です。
メタ認知で実現するウェルビーイング
メタ認知は我々の成長を促すだけでなく、一人ひとりの幸せにも通じてくる大切な能力です。「幸せになりたいなら、自分の幸せと常に向き合っていくしか無い」と青砥さんは述べています。
なぜなら「幸せ(ハッピー)」と「幸せな状態(ウェルビーイング)」は似て非なるものだからです。幸せは脳が見せる一過性の反応です。脳はすぐに平衡状態に戻ってしまうため、その幸せ反応を認識し「自分などんなとき、なぜ幸せなのか」をメタ認知していく必要があります。
これはHappyとWell-Beingの違いを解説した、青砥さん出演のYouTubeを見ていただくのが分かりやすそうです。
メタ認知はメタ認知ができる人しか教えられない
人間にとっては自分と向き合うことすら難しいのに、さらに自己を俯瞰的に捉え、そこから何かを学びとる状態までいくことは大人でも困難です。子どもたちにメタ認知を学んでもらうためには、メタ認知ができる大人が伴走者になって、ひたすら脳に適切な負荷をかけ続けていくしかありません。
メタ認知の章の内容をまとめると、震えることが書いてあります。
子どもの教育どころか、人が幸せに生きるためにメタ認知は重要
メタ認知はメタ認知できる人にしか教えられない
にも関わらず、大人もメタ認知能力を身につけているとは限らない
前向きに捉えれば、大人(親)もみな、メタ認知能力を高めることに一生懸命取り組めばよいということになるでしょうか。私は個人的にカウンセリング、セルフコンパッション、自己理解 / 相互理解 といったジャンルに非常に興味があるので「やっぱり大切だよな」とやや我田引水な解釈をしている可能性もあります。
ただ本書で述べられているメタ認知を鍛える方法、「反省しないが」出発点(成長の糧と捉える)、「3つの言葉がけ」で自分で解決を考えさせる、本人が気づいていないことを言語化する...などを見る限り、大人(親)もそのまま日々の生活や職場に取り入れると良いのではないかと感じます。
私はどんな価値観を持っていて、何に人より興味があり、何が自然とできる(強み)のか。どうしたら職場で求められることとそれらが交わるのか。大切ですよね。これらはまさにメタ認知の力だと思います。
まとめ
社会(組織)で生きていく力を身につけていくために必要な「環境」が心理的安全、身につけるべき「スキル」がメタ認知。家庭でも職場でも共通言語として持っておきたい考え方だと思いました。
メタ認知 = 自分を知ることは「幸せな状態」につながります。大人も自己に向き合いメタ認知を鍛えていけば、子育てにもつながって一石二鳥カモ? 🪨🦆🦆
本noteではあまり触れていませんが、本書には各主張の裏付けとなる脳神経科学の解説も含まれています。気になった方はぜひ。
※ なお表紙の画像以外は Unsplashさんから拝借したフリー画像です。