木曜24時、ファンタジーに続く扉
就職を前にして一人暮らしをはじめた頃、部屋の無音を誤魔化すためにラジオを聴き始めた。一人暮らしをするにあたって、少しでも役に立って面白いトークがないかと調べたときにヒットしたのが、ハライチのターンだった。
私が初めて一人暮らしをする部屋は、玄関が1階にあって室内の階段をのぼって2階に部屋がある「メゾネットタイプ」だった。そして、当時ハライチの岩井さんが住んでいたのも、メゾネットタイプのアパートだった。
岩井さんが住む部屋とちがって1階に居住スペースはないけれど、「メゾネットタイプで初めての一人暮らし」というだけで一気に親近感が湧いた。
ハライチのターンは、オープニング・2人のフリートーク・(時期によってコーナー)・エンディングというシンプルな構成で放送される。私は岩井さんと澤部さんのフリートークが大好きだ。
日常とファンタジーの狭間
岩井さんのトークは、テレビで見せる腐り要素もなく、本当に仕事以外の時間にあった出来事をお話しされることが多い。芸人仲間や友達と遊んだ話だったり、収録の合間の出来事だったり、家族や地元の話だったり。
私が岩井さんのトークで特に好きなのが、「日常とファンタジーの狭間」を感じられるところだ。入り口は日常なのに、聴いているうちにだんだんファンタジーの世界に連れ込まれているような感覚になり、何の話を聴いているのか分からなくなってきて、出口で日常に戻れたり戻れなかったりする。
このファンタジーの世界は、岩井さんの脳内思考。目に映った景色、ちょっとした体験、平凡に見える日常が岩井さんの鋭い眼球を通してみるとファンタジーになっていく。
「これもしかして、〇〇なんじゃないかと思って。だとしたら、✕✕も〇〇なんじゃないか。その世界では△△は☆☆になってると思うんだよね。」
〇〇の話に仮定をのせまくり、いつしかその仮定で出来た世界が出来上がり、そこからよく分からない論理が生まれる。そのときにはもう、リスナーは入り口に戻れなくなっている。
澤部さんも、はじめのうちはツッコんでいるんだけど、話が大きくなっていくにつれてキレ気味のツッコミになり、限界がくると岩井さんの世界の住人としてツッコミをするようになる。
岩井さんの話を聴いていると、私が日々過ごしている日常の向こう側にも、まだ見ぬファンタジーの世界が広がっているんじゃないかと思うことがある。ラジオを聴いて、ラジオを聴いていない時間もワクワクして過ごせるようになった。
愛すべき澤部パパ
澤部さんのトークは、岩井さんのものよりも日常に近いように感じる。澤部さんが普段の生活で頭を抱えたこと、大変だったこと、テンションが上がったこと、やらかしたこと等、思い返すとちょっとマイナスの話が多い印象だ。
私は澤部さんのシリーズ化しているトークが特に好きだ。実家と言っている「個室ビデオ」シリーズ、「平野レミの料理番組」シリーズ、街中で声をかけられたい「気付かれ」シリーズ、副業の探偵の話をする「ナイトスクープ」シリーズ、どれも話しはじめると「この話だ!」となる。
同じ過ちを繰り返したり、流れもなんとなく分かっていたりする話でも、「待ってました」という気持ちで楽しく聴くことができるし、その中で少しずつ成長や進歩があるのが楽しい。個室ビデオで澤部さんがだんだんVIP対応されていくのが面白く、少し感慨深くもなるものだ。
それを岩井さんが、「お前は本当にバカだなぁ~」と面白がりながら、ときにトークをのっとってファンタジーに仕立て上げながら、話が進む。
幼馴染だからこその掛け合い
ハライチは地元が同じで小学校と中学校の同級生。ということもあって、最近あった話をしていても「お前は昔からそうだよなぁ」という目線で相方が相槌をうつことがある。小学校のときも、こんなことしてたよな、何も変わってねぇなぁって。なんというか、時間の奥行きが感じられてとても良い。
あと、昔から知っているはずの相方の違う一面が見えたときの驚きっぷりも、良い。「え、そんなことすんの!?」というツッコミの裏側には、「小学校で〇〇で中学でも〇〇だったお前が、その場面でそんな行動したの?」という奥行きがある。
関係性が昔とは変わりながらも、連続の時間を生きていることを、トークを通じて少し感じることができる。
コーナーやスポンサーとの絡みなど、他にも好きなところはたくさんあるけれど、やっぱりハライチのターンで一番好きなのはフリートークだ。これから先も、毎週木曜日に二人の日常を覗き見できたら嬉しいな。