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著作権はネット時代に合っていない?
今は、漫画村やインターネット上の違法アップロードサイトなどがたくさんあり、いわゆる海賊版問題が盛んに議論されていますね。
この問題の1つの根底には、著作権保護システムがネット時代に適応できていないことがあるんじゃないかと思います。
※一応書いておくと、私は別に海賊版を擁護する気はありません。ただ、法律や正義論から離れて客観的に見ると「私にはこう見える」ということです。
1.著作権とは独占禁止法の例外
著作権を簡単に言えば、著者(作者)はその創作物に対する権利を「独占的」に得ることができるというものです。
日本では、市場経済を守るために「独占禁止法」があります。これは大雑把に言うと、「消費者が安い値段で、いいサービスを受けられるようにする」には競争が必要だから、独占は禁止するというものです。
市場への新規参入を排除するような契約(私的独占)の禁止や、価格の調整(カルテル)、合併による独占企業(トラスト)の禁止、再販価格の拘束禁止などが定められています。
とにかく、競争が無くなるようなことを人為的にやってはいけないというのがその趣旨です。
しかしながら、特許や著作権に関してはこの独占禁止の原則の例外となっています。
これは独占を禁止した場合、特許を発明した人や著作者に対しての対価が著しく少なくなる可能性があるからです。もし独占できないと、自作品があちらこちらで勝手に売られ、その割に自分にはお金が入ってこないという状態になりますからね。
だから、著作権は独占禁止法の例外になっているわけですが、例外である以上、一定の制約を受けます。
著作権法第1条では、
(前略)……文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
となっています。
要は、無制限の独占ではないよということです。
①公正な利用は認めなければならない。
②文化の発展に寄与しなければならない。
という条件付きなのです。
公正な利用については「引用」とかそういう話ですね。問題は②の文化の発展という文言です。これがいったい何を意味しているのか。
2.文化の発展とは何か?
これは非常に難しいのですが、文化の振興について定めている文化芸術基本法では、
・クリエイターの自主性が尊重されること
・クリエイターの創造性尊重、地位向上、能力の発揮
・あらゆる人が創造し、鑑賞できなければいけない
・多様な文化芸術の保護や発展が図られなければいけない
などが書かれています。
まあ、簡単に言ってしまえば、「クリエイターが活発かつ自由に創作ができる環境であり、鑑賞者も活発にそれを受け取ることが出来なければならない」といったところでしょう。
要するに、「クリエイターの保護」と「鑑賞者の保護」の2つの視点が著作権には必要なはずなのです。
しかしながら、実際は「クリエイターの保護」に視点が偏っているのではないかと感じます(問題提起しているのがクリエイター側なので当たり前かもしれませんが)。これは正論でありながら、対立する側から見れば「抑圧論理」にもなります。
3.ネットは消費者の反乱を起こした
インターネットは創作物の公表インフラの大変革です(私は活版印刷級だと思っています)。創作、コピー、公開、閲覧がいとも簡単に行えるようになりました。ある意味で文化発展の環境はかなり整ってきていると言えます。
そんな中唯一取り残されているのが、クリエイターの保護という問題です。従来のやり方では保護しきれなくなっているのは自明です。今までの著作権保護システムがもう機能不全を起こしているのです。
今までの著作権保護システムは「独占」や物理的な「抑圧」(制限)という前提がないと上手く作動しないからです。しかし、インターネットは制限を大幅に緩和しました。これによって抑圧されてきた消費者は反旗をひるがえしたのです。
残念なことに、市場の中で絶対的な力を持つのは消費者です。消費者はいかに安く(できればタダで)、大量にものを消費できるかを考えています。
この消費者にクリエイターの保護というモラルを説いたところで釈迦に説法なのは、考えるまでもありません。むしろ反発をくらうでしょう。
反乱の旗を上げた大衆消費者に、既成概念を唱えたところでそれは打破対象になるだけです。
もし今までのような「マス」に向けたやり方を貫きたいのなら、「マス」である大衆消費者と折り合いをつけていくしかないと私は思います。市場に商品を出していくというのは公共性を帯びることですから、基本的に市場原理に従わざるを得ません。
その意味で、「マンガ図書館Z」や「dアニメストア」、「Apple music」などはとてもいい方法だと思います。
つまり、無料ないしは低額で、無制限に鑑賞できるようにし、一部を著作権者に還元することで保護するということです。
この「定額系サービス」が、時代に合わなくなってきている著作権の目的(著作権者の保護を図りながら、文化を発展させる)の実現に一番近づけることができる方法なのではないでしょうか。
加えて、大衆消費社会以前に存在した「パトロン文化」を組み合わせることでより強固な保護とすることを考えるべきでしょう。
消費者を抑圧しながら大量の利益を集める大衆消費モデルはインターネットの出現で動揺しています。現在巻き起こっている海賊版問題などは、社会学的な意味もはらんだ、複雑かつ重要な問題だと思います。