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「自らの身体のことを知って、自分を大切にして生きていってほしい」

「自らの身体のことを知って、自分を大切にして生きていってほしい」

広島市の産婦人科医である河野美代子医師は、この思いから長年、性教育に取り組んできた。「性教育の一番の基本は、両性の平等です」と河野医師は言う。

「パートナーとの平等性の中で良い関係を作っていくというのが原則なのです。偏見や誤解を持たれている方がいるかもしれませんが、性教育というのは、セックスの仕方をではなく、人間としての関係性をどう築いていくかを教えるものです。

デートDV(結婚していない間柄でのDV)によって、一方的に若い女の子たちが妊娠、中絶を余儀なくされたり、間に合わずに出産して殺めてしまったりということが、知識が無かったために起こっている。一方的な男女の関係ではできない避妊の話し合いも、良い関係の中でこそできるわけです」

1980年代から、産婦人科医の仕事と並行して、男女平等の人権意識の啓発や性感染症予防に関する正しい知識の普及を目的として、教育現場の教師たちと試行錯誤を重ねながら、活動を献身的に行って来た。
その河野医が、激しい怒りを隠そうとしないのが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)である。

「あの団体については、本当に許せないことが長きに渡ってたくさんありました。正しい知識を知ってもらおうとする性教育に対する、酷い妨害やデマをずっと流されて苦しめられてきましたから」

いわゆる性教育元年といわれている1992年以来、30年間にわたる旧統一協会による性教育バッシングを自身の体験を踏まえて語ってもらった。

「文部省(当時)から、きちんと性教育を行いなさいという指示が1992年に出て、私はそれから全国の教育の現場を走り回っていました。ようやく文部省が腰を上げて動いてくれたことがとても嬉しくて、学校の先生方とディスカッションを重ね、それぞれの現場で工夫を凝らした授業や講演を行ってきました。当時は充実した性教育が行われていたと思います。

それに対して、統一教会を中心とした宗教右派からのバッシングが始まりました。特に激しくなってきたのが2002年頃です。私の講演にも、知らない間に信者や関係者の人が入り込んできていました。録音され、一部を切り取ってありもしない中傷を名指しで書かれて撒かれました。

ちょうどその頃、"人間と性"教育研究協議会(性教協)の全国大会を広島で開催することになりましたが、その時に一番気を使ったのが、統一教会に邪魔をされないようにどのように防衛していくかということでした」

団体によるこうした嫌がらせが常態化されていた中、2003年に東京都日野市で七生養護学校の事件が起こった。

同校は、生徒同士の関係で妊娠が起こったという過去を踏まえ、知的障がいの子どもたちに対して独自の性教育プログラムを開発して実践をしており、関係者から高い評価を得ていた。

ところが、これを都議会で保守系議員が問題視し、「異常な授業だ」と東京都教育委員会にも圧力をかけていった。石原慎太郎都知事(当時)もまた非難に加わり、七尾養護学校に対するバッシングは加速していった。その結果、都教委によって、校長や教諭が降格や懲戒の処分の対象にされていった。

「あれも酷い捏造でした。ちょうど国会で山谷えり子議員が活発に動いていた時期で、彼女にも酷い中傷をされました。七生養護学校には、産経新聞の記者を連れた保守系の都議会議員と市議会議員が押し入ってきて、保護者の方と先生たちが、一生懸命作った教材を持っていってしまったのです。

産経の記者は教材で使っていた人形をわざわざ裸にして紙面に掲載し、『まるでアダルトショップの様』と見出しをつけました。山谷氏は『これはセックス人形です、この人形を使って子どもたちに性技術を教えている』と、とんでもないウソの発言を繰り返したんです。

あの人形は、知的障がいのある子どもたちに自分の身体やそのしくみを教えるために使われていました。身体の変化を教えたり、あるいは、おしっこをするときにズボンの前からすることができない子がいるので、その指導をするためのものだったんです。

しかし、山谷氏は『これでセックスを教えている』とデマを流して、世論を七生養護学校へ攻撃するように扇動しました。当時の校長先生は降格させられ、熱心にがんばっておられた先生たちも異動させられ、性教育ができなくなりました。さらに、この影響は全国にまで及びました」

東京都立七生特別支援学校
東京都立七生特別支援学校 令和5年

都教委は熱心に指導をしていた116名の教員を処分した。その処分理由のすべてが授業とは関係の無い別件によるものであり、合理的なものではなかった。元校長や教師は都教委と都議会議員に対して「教育への不当介入が行われた」として訴訟を起こした。裁判は長きに渡り、10年後に校長側の勝訴が確定したが、性教育の現場が失ったものは、あまりに大きかった。

そして大きな反動があったのが2004年。
この前年は学習指導要領が一部、改訂が実施されたのである。
「ここで、教科書から性交という言葉が一斉に消えました。文科省の指導要領が統一教会系の言いなりに変えられてしまったことが背景にあります。それまでは中学校でも工夫して避妊の授業がされていましたが、できなくなりました。『セックス』という言葉や、性器の名称も使ってはいけなくなった。これでどうやって性について教えるんだ、と先生方も途方に暮れたわけです。

セックス、ペニス、ヴァギナなどの言葉が子どもたちを刺激しそそのかすと言うんです。学問は正しく言葉を使うことが原則です。しかし私が中学校に講演に行くと、『性交という言葉は使わないで下さい』『指導要領に沿って話をしてほしい』と保健の先生に言われたことがあります。

こんな風にいろいろと注文をつけられては、私としては残念ながらお断りするしかありません。性交という言葉を使わないで話すことはできませんから。

しかし、ある学校では保護者の方々がそれについて怒り、それなら学校の隣の公民館を借りるのでそこで話をして下さい、と言われたりもしました。保護者はきちんと学ばせたいのですのですね」

このあたりは、2017年に、道徳の教科書に記載されていた「パン屋」という記述が「和菓子屋」に書き換えさせられた事件から、自民党による政治の教育への介入を丹念に描いた映画『教育と愛国』の内容とシンクロする。

2005年に自民党は「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を発足させる。座長は安倍晋三氏、事務局長は山谷えり子氏だった。旧統一教会の内部資料では、山谷氏を「ジェンダー・フリー問題」においてなくてはならない先生と称賛した上で、選挙の応援協力を要請している。

「統一教会は、あらゆるところに進出していました。広島市で6年間PTA協議会を務めた会長が統一教会系の人物であり、信者が役員に名前を連ねていました。当時のPTAの講演会は酷いものでした。統一教会の女性を呼んで、そこでも性教育に対する誹謗中傷をするんですね。

事実を捻じ曲げて伝えるものだから、保護者の方々も不安に感じるわけです。そんな中で、私個人に対する誹謗中傷も散々されました。このPTA会長は、『河野が中学生をそそのかして、セックスさせて、家庭を壊し、革命を狙っている』という記事を書いて拡散していたんですね。そうした酷い嘘が本当に許せなくて、名誉棄損で提訴しました」

「河野はふしだらな人物である」と、デマによる人格攻撃がなされたビラがポスティングされ、バス停などに大量に吊るされていた。ビラを書いたのは右翼の男であったが、配ったのは統一教会系の人物であった。しかしビラの影響は大きく、未だにそのデマを信じている人もいるという。

「旧統一教会の内部文書には『性教育とジェンダーフリーを潰す』と書いてあり、そのために安倍晋三氏と山谷えり子氏の力が必要だとも記されています。2003年に文科省の指導要領が変わってしまったのは、統一教会が政治家を動かし、それによって行政が動いたからです。

ジェンダーフリーに対する攻撃も物凄く行われています。実際、山谷氏は『ジェンダーフリーなどという言葉は日本で勝手に作られた和製英語だ』と主張していましたが、それは間違いです。バーバラ・ヒューストンという学者がしっかりと論文に書いています。

そして2003年頃、各地方議会で『ジェンダーフリー教育に反対する』採択がなされていきます。ところが、その論拠となるものが、これもまたデマだったのです。『ジェンダーフリー教育を行っている小学校は男女ともにランドセルをみんな黒色に統一した』『高校では、男女が同じ更衣室で着替えさせられている』といった『極端』な現場がある、と書かれた書籍が出回っていたんですね。

それを元にして、各地方議会は反対を採択していた。ところが、鹿児島の南日本新聞の記者が、議会に提案した議員に尋ね、その書籍を参考にした学者に訪ね、丁寧に調査していったら、そんな極端な現場などなかったことが分かったんです。ランドセルの色は自由だし、男女の更衣室も別々です。そんなでたらめを書いた本を使って鹿児島だけでなく、全国の多くの地方議会で同じような採択がなされていたのです」

事実無根のデマを前提に性教育やジェンダーフリー教育を攻撃する勢力が、ここまで地方議会に影響を及ぼしていた。また中学校や高校の授業、あるいは市民公開講座に旧統一教会の信者が入り込んで、すでに何百時間も講演を行っているという事実も現在行われている調査報道で明るみに出てきている。

「旧統一教会を中心とした宗教右派の人達が、今、狙っているもの。それは憲法改正です。特に憲法24条、男女平等というところを変えたがっています。昔の家父長制を復活させたいわけです。家庭だけではなく地方自治体や国もそうあることを狙っています。だから、男女の平等は許せないんです。

もうひとつの主張は、結婚するまでセックスしてはいけませんというもの。それでいて最近、山谷えり子氏がインタビューで『避妊を教えることは家族を壊す。(教えるのは)結婚してからですね』と発言していました。でも結婚してから避妊を教えるなんて、一体誰が教えるんですか?

私のデータでも十代の少女たちの性の相手は、圧倒的に社会人の男性たちなんです。社会人の大人たちが若い女の子を妊娠させたり、性感染症を移したりしている。

では彼らは誰から性を教わるのか。せいぜいアダルトビデオを見たり、エッチ本を見たり、そんなところです。しかしそこには妊娠、避妊、性感染症などはまず出てきません。

私は、学生の間にどれだけの性知識を得て、どういう意識を持って社会に出るかが大事だと思っています。全ての若者が学ぶには、義務教育の段階で教えるべきだと思っています。知らないまま実行することの悲しさというものを、嫌というほど見てきているので」

卑劣なバッシングを受けながらも河野医師は歯を食いしばって、戦い続けてきた。そして今、ようやく再び旧統一教会の闇が注視されるようになった。河野氏は最後に学習指導要領の問題に触れた。

「人権意識が高い地域では、怯むことなく私を講演会に呼んでくださるなど頑張っている行政の人もいます。勇気づけられます。しかし私は、変わるべきは文科省だと思っています」

取材・文/木村元彦

集英社オンライン

宗教と性教育について考えたいことがあったので引用しました。
「神秘的な存在」から「家畜」扱いになる場合があって、それにほとんどの女性は耐えられない。
出産後のケアや胎児について。
神道政治連盟の教育は仏道とか茶道の型の話ししか書いてなくて関係ないよなぁと思う。
他の広報誌なども読んでみますが。


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