日本型経営とホスピタリティ
我が国は一時期、地方までが満遍なく豊かで格差の小さい、ある意味の理想的な社会を実現していた事をご存じの方も多いと思います。一億総中流社会とも称された、バブル期以前のお話です。経済面では資本主義の競争原理が、福祉面では社会主義的な政策がバランスよく機能し、以下のヒストグラフですと中央値付近に最も人口が分布している状態でした。因みに同グラフによると今や6割以上の世帯が平均額を下回っていますね…。
ほんの一時とはいえ、なぜ上記のような社会を実現することができたのでしょうか。近年、散々批判されてきた日本型経営ですが私はこれこそが、特に日本特有の雇用システムが成功の大きな鍵であったと考えています。構造そのものを深く掘り下げると恐ろしい分量になりますので、ホスピタリティに関わる部分にフォーカスしてみました。
終身雇用は言うまでもなく個人の労働環境に長期的な安定をもたらします。人生と労働が結びついている状態と言えますね。ホスピタリティ的には、勤め先の事業が成長すればするほど自分も豊かになるので、利己イコール利他という理想的な関係が構築されているのです。大きな失敗さえしなければ安泰という環境ですと業務怠慢が蔓延しそうなものですが、実際には過労死が問題化するなど、むしろ超過勤務者が続出していましたので、働きアリの法則に収まる範囲内であったと言えます。
更に、年功序列ですと基本的に後輩は出世のライバルになり得ませんので、育成にあたって惜しみなくスキルを分け与えることができます。後進の成長は自分の成果でもあり、会社の更なる発展につながるので、一体感のある組織文化が醸成されてチーム力も高まります。欧米型の流動的な雇用形態ですと同僚は競争相手ですから、こういった効果はあまり期待できません。
このように、日本型雇用システムとして代表的な2つの制度はホスピタリティにおける「共創」という要素を構造的に組み込んでいたのです。
もちろん、何にでも良い側面と悪い側面がありますから日本型経営にも欠陥はあります。しかし、今どうしてこうなってしまったのかというと、それは日本らしさを捨て去ってしまったからではないのでしょうか。そもそも家族主義的な雇用形態が我が国の特徴であり、中途半端な成果主義や業績評価、雇用者VS被用者のようなプチ階級闘争的な構図などを無理矢理パッケージ的に輸入した所で上手くいく筈がなかったのです。実際、前者は評価する側の能力不足により評価される側の不満が高まり、後者については従業員を単なる駒として扱う会社や和を乱すモンスター社員の存在など、軋轢が次々と表面化しており枚挙に暇がありません。
日本型雇用形態は決して情緒的なものではなく、経済面で合理的であるという見直しの動きが各所で見られ、業務遂行において効率を最も重視している私でさえも同意するところです。弱点を克服して現代版に昇華したホスピタリティ精神あふれる日本型経営、期待できそうですよね。
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