【復刻版】放射能汚染・5年目のチェルノブイリ 【第3回 放射能の拡散。迷信、デマ、怪しい研究】
【この記事は復刻電子版です。最新の記事・情報ではありません】1990年に取材。同年10月に集英社・週刊プレイボーイで連載した記事を編集しました。※当時の「白ロシア」は「ベラルーシ」と表記しました。
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放射能の人体への影響は不明なことが多く、こうすれば大丈夫、という解決策は少ない。そういう背景から、チェルノブイリ原発事故による放射能汚染地域では、根拠のないウワサや迷信が語られて、人々を苦しめている。今回は、現地で聞いたウワサ話や迷信を検証する。
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ウォツカは放射能を排出する
最初は冗談だと思って聞き流していた。チェルノブイリ原発事故による放射能汚染は人々を極限まで追い詰めてきたので、その反動で語られる話がブラックジョークになっているんだろうと理解していた。
しかし、どうも様子が違う。汚染現場でインタビューするたびに返ってくる説明では、私たちが知っている放射能の常識では理解できない話が次々に出てきて、その次の質問をするのに勇気が必要だったほどだ。
−−−−本気で言っているのですか?
「もちろんです。アメリカのゲイル博士がここに来て、私たちに教えてくれました。ウォツカは身体から放射能を排出してくれるのでどんどん飲みなさいと言ったのです。ワインも放射能にいいらしいですね」(クラスノポリエ地区リピンスキー医師長)
体内に蓄積した放射性核種のうち、一部の核種は汗や尿として体外に排出することは知られている。ゲイル博士は、適量のアルコールは身体の代謝を促すので、健康を維持するのに有益だと言ったのだろう。
しかし、現地の専門家たちは、酒を飲むと放射能が体外に出ていって健康になると公言し、市民にそれが流布されている。医療技術が遅れているソ連では、ウォツカを飲むことが、汚染された自分の身体を守る最良の方法として実践されていたのだった。
さまざまな地区の病院や医療施設を取材したが、そのたびに専門家であるはずの医師が真剣に「ウォツカを飲めば放射能が出ていく」と言うのだった。
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