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ホップソルトが出来るまで⑤「ソルトコーディネーターの青山志穂さん」

ホップソルトを家で試作していたとき、混ぜる塩については、そんなに気にしていなかった。大事なのはどちらかというとホップの方で、そこに美味しい塩を混ぜれば、美味しいホップソルトが出来ると思っていた。
もともと塩が好きだったので(料理は何でも塩味が好きだ)、家にある塩のコレクションから、ゲランドの塩とか、粒の大きい岩塩とか、その時々の気分で組み合わせていた。

しかし、その時からずっと気になっていたことがあった。
ホップと塩を単に混ぜるだけでは、長期間保管するようなホップソルトが出来ない。
塩が細かすぎると、時間が経つと固まってしまう。逆に、岩塩のように、あまりにホップと分離していると、空気と触れる分、ホップの劣化が早い。
作りたては美味しいのに、瓶に入れて一か月もすると、変わり果てたホップソルトになってしまう。
作ってすぐに食べるなら自家製ホップソルトは楽しいが、これでは商品にならない。
まだまだ何か違う方法が必要だと感じていた。


そんな悶々とした先に出会った、救世主のような人。
ソルトコーディネーター、青山志穂さん。
塩の専門家。

青山さんに出会うまでは、そのような職業があるなんて知らなかった。

青山さんは、日本全国や世界中の塩を味わい知り尽くし、製塩所を訪ね、その魅力を発信したり、美味しい使い方の提案をされたりしている。
扱う塩の種類は、2000種類以上。

こんな塩の図鑑も出されていて、とても面白い。

塩好きな私は、これを読んで、全て取り寄せしたくなった。


青山さんと出会えたのは、本当に偶然だ。
お世話になっていた方に預けていたホップが青山さんに渡り、気軽な感じで、ホップソルトのサンプルを作ってくれたのだった。

私はその仕上がりを見て、衝撃を受けた。
頭の中では想像していたけれど、現実では何故かいつも再現出来ない、サラサラのホップソルトだった。

そこからすぐに青山さんを紹介してもらって、ホップソルトの開発をお願いすることにした。
まずはオンライン上でお話させてください、と画面上で初めて会った青山さんは、きびきびとしていて、とてもとても素敵な方だった。
今まで自分で試作してみても上手くホップソルトが出来なかったことや、今回いただいたサンプルで衝撃を受けたことなどをお話すると、
1種類ではなく、色々な塩をブレンドすることによって、今回のようなホップソルトを作ることが出来ることを教えてくれた。
「やっていくうちに、きっと塩の沼にハマりますよ」と、いたずらっ子のように青山さんが言ったことが忘れられない。

そこから何度かオンラインミーティングをさせてもらって、数か月後。
もう冬がやってくるような、寒い風の吹く2023年11月。
青山さんは、遠い沖縄から北海道の我が家まで、はるばるやってきてくれた。
スーツケースに、たくさんの塩を抱えて。

青山さんが持参してくれた、北海道産の塩の一部。
甘い、苦い、辛い、旨い。
それぞれの特徴が書いてある。


その日は、萬谷さんも札幌から駆けつけてくれて、ホップと塩の組み合わせを考える一日になった。
候補の塩は、北海道産の塩のみで、この日に集めているだけでも15種類ほど。
北海道にこんなにも製塩所があり、様々な塩があるなんて知らなかった。

まずは一つずつ味見する。

甘い、苦い、辛い、旨い。
粒が大きい、粒が小さい。
後味があっさり、後味がじんわり。

一つ一つ、解説してもらいながら味わってみる。
こんなにも塩の味にバラエティがあったなんて。
一度に味比べすると、面白さが良く分かる。

さらに、特徴の違う塩同士を組み合わせると、味に奥行きが出てくる。
最初に苦い+後から旨い
最初に辛い+後から甘い
など。

段々と、舌がビリビリとしてくる。
水で口の中をリセットしながら、意識を舌に全集中させる。

そしてここからが本番。色々な品種のホップと合わせていく。
9種類のホップを準備して、塩と合わせて味見してみる。

テーブルに並べられるだけの皿を並べて、
ひたすら塩とホップの組み合わせを試す。


面白かったのは、香りが強いと思っていた品種のホップが、塩と合わせて舌にのせたとたんに地味になったり、
ホップ単体では平凡だと思っていたものが、塩数種と組み合わせて味わうことで香りが引き立ったりしたことだ。
また、苦みが強くてどうだろう・・?と思っていた品種のホップも、
苦い塩をあえて合わせたり、藻塩という海藻を含む塩を合わせたりすると、全体的にまるい味に変わっていく。

即席に作ったホップソルトを揚げたてのフライドポテトにかけて、皆で試食して、あれこれ言い合いながら、ブレンドを考えた。
「美味しい」を作る作業は、とても楽しい。

想像と違う味わいになることが楽しい。


散々試してみて、最終的に4種類のホップに絞ることにした。

そもそも、商品にするのは、まずは1種類のホップでも良いのでは?という考えもあったが、
せっかく色々な品種のホップがあり、苦みも香りも少しずつながら違い、私としては、ぜひ皆さんに好みのホップを選んでもらえるようにしたかった。
また、クラフトビールを好きな人なら苦みも香りも強いものでも大丈夫かもしれないが、普段ビールを飲まない、単純にお料理好きな人にも気軽に手に取ってもらいたいから、初心者向けのホップもあった方が良い。

このホップソルトは、最終的には私が自分の加工所で、ひとりコツコツと製造するものだ。
どこかに委託で作ってもらうなら、最小ロットなど考えなければならないし、在庫とかどうするの・・?となってしまうだろうが、
今は、商品として品種がたくさんあることは、そこまで問題ではなかった。
そんなことよりも、楽しさ優先だ。

品種は、カスケード、ファッグル、ソラチエース、センテニアルの4種にした。
カスケードは定番。クラフトビールに詳しくなくても知っている人が多い品種だし、グレープフルーツのような香りも苦みもほどほどで、初心者の人にも最適。
ファッグルはカスケードよりも柑橘香が少なくて、一般的なビールの香りに近いと思う。こちらも苦みが少なくて、初心者向き。
ソラチエースは、上富良野で生まれた、うちの中では唯一の国産品種。レモングラスやヒノキのような、非常に個性的な香り。苦みも強い。最近は知名度が上がっているので、ホップとしての問い合わせも多い。個性的な味なので、試食の時点では、どんな料理に合うのだろう・・?と皆で悩んだが、外すわけにはいかないなという品種。
最後にセンテニアルは、私が最も気に入っているホップ。カスケードの強化版、スーパーカスケードと言われるように、香りが鮮烈。苦みも強い。クラフトビールやホップが好きな人には、激推ししたい品種だ。


商品にするホップの品種が決まり、塩の組み合わせは、これからおおまかに青山さんが決めてくれることになって、今後は本格的に試作品を作っていくことになった。
塩とホップにまみれた一日が終わった。


塩、ホップ、フライドポテトばかり食べた1日だった。
夕方には、口の中が痛いほど。


楽しい余韻のまま、せっかくなので、中富良野の素敵なお店で、晩御飯を青山さんとご一緒させてもらった。
どうして塩の仕事に行きついたのかという、これまでの人生の熱いお話や、塩の生産者の方々のお話を、たくさん聞かせてもらった。
私が「塩沼にハマりました」と言うと、「嬉しい!」とびきりの笑顔で応えてくれた。

夜も更けて、外に出ると、星空がとても綺麗だった。
別れ際、「塩をたくさん摂ったから、今日はたくさん水を飲んで下さいね!」と、キラキラした笑顔で、青山さんが手を振ってくれた。







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