作品「とうふの人」


とうふの人


六月のある日
とうふの上で
寝ころんでいる人を見た
思わず
 気持ちよさそうですね と 
声をかけると
 ちめたくて
 ちもきいいです 
不思議な
答えが返ってきた
 代わってくれませんか と
言うと
 きょうはだめです
きっぱり断られ
とうふの人は
目を閉じて
眠ってしまった

次の朝
七時に起きて
とうふに赴いた
誰もいなかった
白いとうふは
つややかに
うるおっている
くつを脱ぎ
そっと寝ころんでみた
 ああ
 ちめたくて
 ちもきいいな と
思うやいなや
ぬむぬむ
体が沈み始めた
困ったといえば
なるほど困ったことだが
つくづく考えてみれば
とうふの中は
もっと
ちめたくて
ちもきいいだろうと思い
じょじょに
脱力して
今に
至っている







『なんだか眠いのです』(七月堂)
『光ったり眠ったりしているものたち』(BOOKLORE)



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