夢の切れ端
なるほどこう来たか。
坂爪さんの声で聴く「BRIDGE」は、何もかもを剥ぎ取った色気に満ちていた。それは隠すことで匂い立つものだと思っていた。天性の獣のしなやかさが、いじらしい人間のことばをねじ伏せて、放つ。
百年あとは、俺たちたぶん、誰ひとり、いなくなって。
ふいに脳裏をかすめたのは、明けの明星を従えてひっそりと咲く百合の花。
ひゃくねんという音の連なりで思い浮かべるには、あまりに遠い物語かもしれない。描きたかったことや伝えたかったことはずいぶん違うかもしれない。それでも見えた、重なった。漱石先生がこの歌をお聴きになったら一体何と仰るだろう。
「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片(かけ)を墓標(はかじるし)に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」
自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。
「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、――あなた、待っていられますか」
自分は黙って首肯(うなず)いた。女は静かな調子を一段張り上げて、
「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。
「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」
―夏目漱石「夢十夜 第一夜」
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