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声優・ナレーターが知って得する音声学。その2

ヨギーニ声優西野いつきのnoteへようこそ。
NARRATIONシリーズでは、ナレーター声優など喋るお仕事に興味のある方へ向けた記事を書いております。

『声優・ナレーターが知って得する音声学』は、私が短期大学や日本語教師のためのレッスンで学んだ音声学について書いています。
この内容は、有料レッスン『ヨガとナレーションのレッスン』でも取り上げていいます。レッスンの参加が難しい方や独学で学びたい方は、ぜひご活用ください(^^)

『ヨガとナレーションのレッスン』については、コチラ

さて、前回は音声学とは何か、なぜナレーターが音声学を学ぶと良いのかや、母音と子音の違い、日本語の発音の特徴、日本語の母音の発音記号などについて書きました。前回の記事を読んでいない方は、コチラからどうぞ。

今回は、母音の詳しい発音の仕方と発音器官、子音の調音の方法について書いていきます。


日本語の母音「あ」

前回は、日本語の母音の発音記号や、世界の基準母音を並べた表のどのあたりに位置するのかについて書きました。あの発音記号をみて「なるほどわかりました!」とすぐに発音できる方はそうそういないと思います。

この記事で、もう少し詳しく口の形と舌の位置を説明していきます。文字なので分かりにくいですが、みなさんスマホやPCでこの記事を読んでいるはずなので検索して口の画像を探して見ながら読むとわかりやすくなると思います。

「あ」…非円唇・広母音で舌は、低い。前舌と後舌の間くらいに位置

非円唇とは、文字の通り唇を丸めないということです。「あ」を発音するときは唇の開きは縦長で円にはなっていないと思います。円にすると日本語の「あ」ではない音になるので試してみてください。

広母音とは、口の開きが広いということです。歯を指2本分くらい縦に開きます。口を横に広げる必要はありません。縦だけです。横に広がっているかわからない方は、鏡の前で口角に人差し指を立てて軽くあて、横幅を変えないように口を開いてみましょう。

これだけでは、「あ」の音は出ません。舌の形、位置が重要なポイントです。

試しに、口の構えをそのままにして舌を上にあげたり下げたり、前に押し出したり後ろにおもいきり引いたりして、声を出してみてください。舌の位置が少し変わるだけで音が変わるのがわかるでしょう。

日本語の「あ」の舌は、後ろにもひかず、前にも押し出さない形です。舌の中央あたりが少し盛り上がっている状態で発音します。舌を前に押し出すと英語の「a」のようなちょっとつぶれた音になります。舌を後ろに引きすぎるとこもったような丸みのある音で、あくびのような音になります。後ろに引く方が日本語の「あ」に近い音なので、この「あ」で発音している方もいますが、日本語の基本となる「あ」は舌を後ろに引かない音です。

あ段の発音をするときには子音の調音から、この「あ」の口まで開きます。必ず!です。あいまいなところで止めると音がつぶれてしまったり、こもった音になります。

日本語の母音「い」

「い」は日本人でも基準と違う発音の方が多い母音です。

まず、口を横に開く発音はNGです。日本語の「い」は口を横に引く力で発音するのではなく舌を前に押し出して、舌と上顎との隙間を狭くすることで発音しています。音色が全く変わるので、子供っぽい声や甲高い声になりやすい方は、特に「い」の発音を気を付けてください。

「い」…非円唇・前舌・狭母音・舌の高さは高い

非円唇は先ほど説明しました。唇を丸めないということです。狭母音は広母音と逆で口の開きが狭いということです。これは縦の口の開きの話で、だいたい歯の間に指一本はいるくらいの口の開きにします。

舌を前に押し出すのですが、この位置がびみょ~な位置です。

「や」の発音は「い・あ」がくっついた音だと習った方がいらっしゃると思います。実はこの「や」の子音は「い」よりも舌の前側と上顎の前側(硬口蓋という固い部分)の隙間が狭くなっていて、摩擦音が出るほどではない接近音という発音です。

つまり、基本の「い」と「あ」を素早く続けて発音してもきれいな「や」にはなりません。もし、「や」になりますけど、という方は、舌と上顎の距離が近すぎます。ちょっとずつ話て調整してください。ある点を超えると「い」に聞こえなくなるので、きれいな「い」だとご自身が感じるところを自分の音にすればよいかなと思います。

因みに、狭くしすぎて息の摩擦が起きると、「や」ではなく「しゃ」になってしまいます。
舌の位置がちょっと変わるだけで、そんなに違うの???と思うくらい変わるので、色々位置を変えながら音を出してみると楽しいです♪

母音は子音のように、息を邪魔しない音であるということを前回書きました。この「い」の発音は、日本語の母音の中で一番口の開きが狭く、舌と上顎の距離も近い音ですが、息を邪魔する子音ほどせまくしないということを忘れないようにしましょう。必ず、子音から「い」の形まで口を縦に開きます。

日本語の母音「う」


この「う」の発音も曖昧で、日本人でもいろいろな発音をしている母音です。日本語学習者が悩まされるところですね。

「う」…非円唇・後舌、舌の高さは高い

日本語の「う」は、唇を丸めないで発音します。ただ、全く丸めないで発音するわけではなく、キレイにまぁるくする発音と全く丸めない発音の中間という、これまた曖昧な形で発音します。
そのため、感情によって丸めたり丸めなかったりすることがあります。
例えば、甘えた喋りや子供っぽく喋るときには、丸めるとそれらしく聞こえます。疲れている感じや眠い感じを出したいときは、ほとんど丸めないで発音すると気だるく聞こえます。

私がわかりやすかった覚え方は「ストローをくわえるとき」の形です。ストローって軽く唇で挟むくらいでくわえると思うので、その感覚が「う」の唇の形です。

舌は後ろにひいて、高くあげます。舌の後ろ側が高く上がることで、肺から喉を通って上がってきた息は上顎の後ろ側(軟口蓋)にあたります。舌をひく感覚が分かりにくい時は、上顎の奥に息を当てるように音を出してみましょう。

口の開きは「い」と同じくらいです。

日本語の母音「え」

「え」は「い」と「あ」の間にくる音です。
「あ」から舌を前に押し出し高く上げていきます。「い」と「あ」の中間で止めます。
口の開きも「い」と「あ」の間です。
ここで発音すると、「え」の音が出ます。

ここでも唇を横にひかないように気をつけましょう。「い」で、唇を横に引く癖があると発見した方は、指で目印をつくって、横に開いていないか確認しながら練習してみてください。

「あ→え→い」の順番で発音するときは、舌を少しずつ前に押し出し、顎を閉じていくことになります。この順番で発音練習をすると、舌の位置を覚えやすいので、ぜひ取り入れてみてください。

日本語の母音「お」

「お」は「う」と「あ」の間にくる音です。
「あ」から舌を後ろにひいて高く上げていきます。
「う」と「あ」の中間で止めます。
口の開きは「え」と同じくらいで、唇を丸くします。

「あ→お→う」の順番で発音するときは、舌をだんだん後ろへ引いていき、唇を丸めながら顎を閉じていきます。「あ→え→い」と同じように、舌を後ろにひいていく練習として、発音練習に取り入れてみてください。

子音の調音器官

母音の口の構えがわかったら、次は子音のお話です。子音は、息を邪魔する発音です。
邪魔を作る道具は、調音器官といいます。


唇・歯・歯茎・後部歯茎・硬口蓋・軟口蓋

唇・歯・舌尖・舌端・前舌・後舌

そして、咽頭

と、調音器官は細かく分けられています。
舌端と歯茎を近づけて摩擦を作る子音のはずが、舌端と後部歯茎で摩擦を作ってしまった……となると、発音が変わってしまうため噛んだり不明瞭になったりします。

母語をしゃべるときは、ほとんどの人が調音器官をどうやって動かしているか意識していません。
走るときに脚をどうやって動かして、どのタイミングで体重移動して、いつ腕を引いて、この高さまで動かして、と細かく分析する人は一般人にはいませんが、走るスポーツをしている選手の場合は分析をしているでしょう。お同じように、しゃべることのプロであるならば、しゃべるために使う器官を自分がどのように動かしているのか理解し、自在に動かせるところを目指していくことが必要だと思います。
そして、なるべく早く動かせるようにトレーニングを重ねることで、様々なスピードの動画にナレーションやセリフをぴたりと合わせられるようになります。

では、その調音器官の動かし方をお伝えしていきます。

子音の調音点と調音の方法

息の邪魔を作る場所のことを調音点、邪魔の作り方のことを調音の方法といいます。調音点と調音の方法の一覧表はこちらです。

白い部分に書かれているのが調音器官、黄色い部分に書かれているのが調音点

それでは、日本語の子音はどのような調音の方法で発音されているのかを一つ一つ見ていきましょう。

前回の記事に添付したPDFをダウンロードしている方は、その表を見ながら確認していきます。

か行の子音


発音記号……k
軟口蓋音・無声・破裂音

軟口蓋音は、後舌と軟口蓋を近づけて発音します。調音の方法は、『破裂音』です。
破裂音は、調音点をくっつけて一度閉鎖を作り息をせき止めてから一気に解放することで発音するという調音です。
軟口蓋と舌の奥の方をピタッとくっつけてから母音に開くと、か行になるのがわかると思います。
無声音なので、声帯の振動は伴いません。

この有声子音か無声子音かは、母音の無声化を判断するうえでとても重要なので覚えておきましょう!

さ行の子音


発音記号……s、ʃ
さ、せ、そ、の発音は「s」という記号の子音と母音が組み合わさっていますが、しの発音は「ʃ」という記号の子音と「i」が組み合わさっています。

sは、歯茎音、無声、摩擦音
ʃは、後部歯茎音、無声、摩擦音

歯茎音は、舌端と歯茎を近づけます。摩擦音なので、摩擦が起きるくらい距離を狭くして発音します。
後部歯茎音は、舌端と後部歯茎を近づけます。歯茎音と同じく摩擦音です。

「さ」の時は、舌を歯茎に近づけますが、「し」の時には、舌を歯茎の後ろ側に知づけます。これが、歯茎音になってしまうと「すぃ」という発音になります。ちなみにこの ʃ は「しゃしゅしょ」の子音でもあります。さ行やしゃ行が苦手な方は、この舌の位置を間違えている可能性があります。確認してみましょう。

た行の子音


発音記号……t
歯茎音、無声、破裂音

歯茎音は舌端と歯茎を近づけて発音します。似ている発音に歯音や後部歯茎があるので気を付けましょう。歯でも後部歯茎でもなく、歯茎に舌端を近づけます。調音の方法は破裂音です。ぴったりくっつけて閉鎖を作ります。


さて、今回は母音と子音の「か、さ、た」の発音についてお話しました。日本語母語話者、特にしゃべりの仕事をされている方は、ほとんどの方が書いてある通りに調音器官を動かしていたのではないでしょうか。
ただ発音できるだけではなく、どうやっているのか理解してコントロールできるように、舌や口をたくさん動かしてさまざまな発音を試してみてください。
意識を向けるだけで、舌の動きがよくなり発音が明瞭になります。
また、今まで言いにくかった音がなぜ言いにくかったのかが見つけられます。

次回の音声学シリーズでも子音の調音について書いていきます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

西野いつき

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