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第1回美郷文芸エッセイ賞 入選作品「変わらない、私の青春」

「美郷文芸エッセイ賞」とは

宮崎県の美郷町が昨年よりスタートされた、エッセイのコンクールです。
第1回のテーマは、ずばり「コロナ禍」でした。
(ちなみに文字数は、2400字以内。)

初回にして、208作品もの応募があったそうです。
20の入選作の中に、ありがたいことに選んでいただきました✨

運営の皆様に快くご了承いただき(この度はありがとうございました!)
以下にエッセイ本文を公開いたします。

この作品は、人生初エッセイだったので、温かい目で読んでいただけると嬉しいです……!

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「変わらない、私の青春」 にしの桃子


「青春って、すごく密なので」

コロナ禍の夏の甲子園での、とある監督の言葉が記憶に新しい。

2019年から流行した新型コロナウイルス。人々は距離を取り、大勢で集まるイベントはことごとく延期された。

そんな中、私は「密」の代表格であるような舞台の有り方と、正面から向き合うことになった。
それは、結婚式という舞台だった。



新卒で結婚式場に就職し、ウェディングプランナーとして働いていた。
多い時には100人を超える列席者が、密閉された会場で飲食を共にした。裏側にはスタッフがひしめき合い、結婚式当日は表も裏もまさしく「密」な舞台であった。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、結婚式場は大打撃を受けた。

ちょうどその当時、私は第一子の育休中だった。
現場の様子は同僚から聞いた話に過ぎないが、一時は延期の相談の電話が鳴り止まなかったそうだ。
式場スタッフは感染リスクがある場面を全て洗い出し、行動を制限せざるをえない葛藤の中で、徹底的な対策を講じる他なかった。

世間から置いてきぼりの私をよそに、「新しい結婚式の様式」が徐々に出来上がっていった。


育休から復帰すると、同僚たちはマスクやフェイスシールドを着用しての結婚式に慣れた様子で臨んでいた。
流行当初は、マスクを付けて結婚式に臨むだなんて、接客業たるもの白い歯を見せて笑顔で対応と骨の髄まで染み込まれていた私たちには、考えられなかったのだ。

だがコロナ禍では、バージンロードを歩く父でさえも時にはマスクを着用すると聞く。
常に白い歯を見せることが許されるのは新郎新婦のふたりだけと、結婚式の常識が大きく変わっていた。

驚くべきことはまだまだあった。
これまではケーキ入刀などの見所の場面では、司会者から積極的にゲストに案内を入れていた。それが真逆のアナウンスとなり、距離を取るよう促すまでに変わっていた。
ゲストの席の間にはパーテーションが置かれ、ビール片手に挨拶に回るのは控えるよう求められていた。


私の記憶に残る結婚式は、もっと濃密な触れ合いによる感動があったのだ。
フィナーレを迎えるにつれ、歓声と熱気に包まれる会場。お開きのあと、感極まった新婦と泣きながら抱き締め合うことさえあった。

そんな結婚式の仕事が私は大好きで、自分とっての第二の青春とまで思っていたのだ。

もうそんな時代は、過去のものになってしまったのか。私は、コロナ禍の結婚式に向き合うのが怖いと思う気持ちさえあった。


復帰してしばらくして、ある結婚式に携わることになった。
その式は、二度の延期の末、緊急事態宣言の合間を縫ってやっと開かれた結婚式であった。高齢の祖父母に配慮して規模を縮小し、本当に近しい友人と家族のみで執り行うことになったそうだ。


挙式が始まり、新婦と父が入場した。
出番がある際はマスクを外してもよいとお伝えしたが、父親は頑なにマスクを外そうとしなかった。
バージンロードの先には、緊張した面持ちの新郎が待っている。
このときを、新婦はどれだけ夢見ていただろうか。結婚式の予約をしてから今日まで、実に2年の時が経ったと聞いた。
父と新郎は、固く握手を交わし、見つめ合った。父の手で、新婦が引き渡される。

すると父の肩が、上下に小さく揺れ始めた。その目元は、マスクをしていても分かるくらい、くしゃくしゃに濡れていた。
新婦は切なさが混じったような優しい笑みで父を見つめたのち、新郎とともに歩みだした。

私は心のどこかで、マスク越しでは感動的な式なんてなりえないと思っていた。
なのに、このとき見届けた父と娘の想いは、確実に私の心を揺り動かした。


挙式が結び、披露宴の友人スピーチへと進んだ。
新婦の友人がマイクの前にピンと立ち、手紙にしたためた文をゆっくりと読み上げた。
これまでの親友としてのエピソードとともに、やっと式を挙げられたことを自分のことのように喜ぶ思いが涙ながらに語られた。

スピーチの後、新婦が迷いなく高砂から立ち上がった。慌てて介添え人が椅子の背を支えた。
友人も新婦に歩み寄り、二人は引かれ合ったかのように抱き締め合った。「コロナ禍」なんて言葉が存在しなかったかのように。

そこには人間としての、大切な人と触れ合いたいという本能だけがあった。その密を止めるものはその場に誰もいなかった。
会場中が、暖かい拍手に包まれた。


私は、大きな思い違いをしていた。
コロナ禍だからと言って、結婚式の本質は何も変わっていなかった。むしろ、コロナ禍だからこその重みがあった。
祝意を伝えたい列席者一人一人のもどかしい気持ちが、これまで以上に伝わってきたのだ。

大声でお祝いすることがご法度になったって、大袈裟なまでの拍手をしたり、万歳をしたり、身振り手振りで心からのおめでとうを届けようとしている。
人は全身に、行動に、想いが滲み出るのだ。


今は結婚式での感染対策もかなり緩和されてきているが、コロナ禍を経て私は自分の考えの浅はかさに気付かされた。
制限の中で諦めることばかりでない。より磨かれ、より密になる想いもあるのだと知った。
人の想いが持つ力。強い想いは、時に状況を跳ねのける力を持つ。



人と人との密な想い合いは、いつの時代も変わることはない。
私の大好きな、結婚式という舞台。
私の青春は、きっとこれからも続いていく。(2139文字)

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作品集をいただきました

入選作の作品集に、私の作品も入れていただきました🍀

初めて活字となって、宝物になりました

最優秀賞の作品を始め、20作品も掲載されている、読み応えのある作品集です。
「コロナ禍」というテーマですが、ほっこりできる作品ばかり。
講評も詳しく書いてあるので、エッセイの勉強をしたい方にもおすすめです。

一冊800円だそうです。ご興味がある方は、下記の公式サイトにてお問い合わせください🌸

今年も挑戦したいなぁ


振り返ると、作品に反省点は多々ありますが……
(語尾が連続していたり、地の文が多すぎたりetc)
粗削りでも、審査員の方に響くものがあったのだと思うと、自信になりました✨

まだ詳細は発表されておりませんが、担当者様によると「第2回の開催も予定しております」とのことです。
(ちなみに昨年は8月10日~11月30日が応募期間でした。)

こちらがエッセイ賞の公式サイトです。

今年のテーマは、何になるのかもドキドキです。

テーマが自由なエッセイ賞も多いですが、決めていただけていると、自分の過去をその角度から深堀りできて、思いもよらなかった作品が仕上がっていくのが楽しいですね。

次回は上位入賞目指してがんばりたいと思います!

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