アコギ回顧録NEW ⑥「GREVENというギターについて」「共通言語(共通認識)を創りあげる作業」「自分で弾いて、出てきた音が全て」
ギターを道具(弾くもの、使うもの)として捉え、プレイヤーの視点から見た良いギターとはどのようなものか?その答えを追い求めて50年余り。所有したギター本数も3桁に届くぐらい?!
その答えと言えるかどうかわかりませんが、過去~現在を振り返って自分なりの考え方をまとめてみようと思いました。アコギ好きの方、興味のある方にとって、少しでもお役に立つことができれば幸いです。
「GREVENというギターについて」
押尾コータローというギタリストの登場によって、ギターインストゥルメンタル(フィンガーピッキング)が広く世間に知られるようになりました。同時に彼が使用していたGREVENというギターも、一気にその知名度が上がることとなりました。 (押尾さんが使用していることが知られる前に中川イサトさんが使用しておられて、マニアの間ではわりと話題になっていたようです。)
このGREVENさん、個人のビルダーとしてはかなり製作本数が多い方だと思います。そのサウンドはものすごく魅力があるのですが、工作精度はお世辞にも高いとは言えません。はっきり言って、作りは荒いです。このええ加減さは、ホンマにアメリカやな〜と思ってしまいます。バインディングが訳のわからないところで継がれていたり、おまけに幅が違うなどということも珍しくありません。ネックが真っ直ぐセットされていない個体も、何本か見ています。そのサウンドには本当に魅力があるのですが、いざ使うとなると、どうしても手直しやセットアップが必要になります。かなりの費用がかかってしまうということです。
その点、ヒロ・コーポレーションで販売されていたものは、そういった心配はありませんでした。全てきちんとリペア・セットアップがなされていました。ネックのリセットや指板の張り替えなどもしょっちゅうだったらしく、ものすごく経費がかかっていたと思います。今でもヒロで販売されたギターであれば、買っておきたいと思うぐらいです。そう思えるぐらい、当時のセットアップは完璧でした。もちろん個体差がありますので、そこは慎重に選んでいかないといけませんが。
そこまで手間と経費をかけてでも販売していきたい、それだけの魅力がGREVENにあったのは間違いないです。全てのギターが良いとは言いませんが、「これはすごいな!」と思った個体が何本かありました。自分で使ってみて一番驚いたのはレコーディングした時でした。マイク乗りの良さとそのサウンド、録音していたエンジニアもびっくりしていました。アコースティックギターのレコーディングが盛んなアメリカのナッシュビルでも、スタジオミュージシャンに人気があると聞いています。
GREVENはもともと、1933年製のマーチンD-45の音を目標にギターを作り始めたらしいです。ナッシュビルにあるジョージ・グルーンの店で、リペアをやりながらギターを作り始めました。その後独立してビルダーの道を歩み始めます。Somogyiさんにはデータを積み上げて、理論的な裏付けを持ってギターを造っているイメージを持っています。が、GREVENさんはその対極で、ほとんど感覚だけてギターを製作しているように感じています。方やデジタル、方やアナログと言えばわかりやすいでしょうか?自分の勝手なイメージなので、全ての方が同じように思うわけではないと思いますが。
GREVENさんのインタビュー動画です。
もう一つGREVENで特徴的?なことを書いておきます。中川イサトさんの使っておられたJタイプのカッタウェイモデル、押尾さんがアマチュアの頃に愛用しておられたJタイプのノンカッタウェイ、どちらもボディ(サイド・バック)はメイプルでした。そうなんです、メイプルボディのギターをかなりの比率で造っておられます。このメイプルの音がまたいいんです!ハカランダでもローズでも、マホガニーやコアでも出すことができない、甘く優しい音色を持っています。同じメイプルなのに、ギブソンのメイプルとは似ても似つかない別世界の音質です。
友人のギタリスト‟竹内いちろ”さんが、このギターを弾いた感想を自身のブログにアップしてくれました。参考になるかも?です。
竹内いちろさんのプロフィール
少し手前みそになりそうで恐縮なのですが、GREVENのメイプルを使っているギタリストとして"つるみ まさや"君がいます。彼のギター(J-Cutaway Maple 1989)は、10年以上も前に私が彼に譲ったものです。
モーリスのフィンガーピッキングディ 2018で最優秀賞(史上初の五冠を獲得)を受賞。という輝かしい経歴を持っていますが、ライブ活動は少なめです。ですので、あまりその音を知っている方はいないと思われますが、これが凄いんです。もしライブ等があれば、是非見てほしいギタリストです。(ギターの音だけではありません。それを活かせる彼のテクニックも見ものです。)
つるみ君のインタビュー記事
最近のつるみ君の演奏から
「共通言語(共通認識)を創りあげる作業」
竹内いちろさんは古くからの友人です。2005年モリダイラ楽器主催のギターコンテストで最優秀1位になられていますが、それより何年も前から付き合いがあります。機会があるごとに自分のギターを預けて、一定期間弾いてもらうようなことを続けていました。
10年ほど前からアコースティックギターの音(鳴り方)に対する共通言語を持てるようにしようと、ほとんどすべてのギターを数か月間預けるという作業を始めました。多い時には7~8本を、少ない時でも2~3本は彼の家に置いておくようにしました。同じギターを弾いてその評価をぶつけ合い、少しずつ少しずつすり合わせをして行く。そんなことの繰り返しでした。そんなこんなで何年もかかりましたが、ほぼ9割がた共通言語を持てるようになったのではないかなと思っています。
彼はプロのギタリストですから、ギターを弾くこと(ギターの持つポテンシャルを引き出すこと)にかけては私よりもずっと上手いです。なので、部分的には私よりもよくわかる部分があると思います。アコースティックギターの音の評価をさせたら、日本でも有数の存在であると自信をもって言えます。
「自分んで弾いて、出てきた音が全て」
くどいようですが、ここでもう一度書いておこうと思います。
他人の評価は、まったくあてになりません。共通言語を持っていないと、他人の評価は聞かない方が良いぐらいです。
材料の名前(ハカランダ、マホガニー、メイプル、ローズウッド、コア、Etc.)=音ではありません。スペック=音ではありません。
バランスもものすごく大事です。「低音がよく鳴る」ということは良いギターの一つの条件になると思いますが、演奏する音楽ジャンルによっては良くもあり、また悪くもあります。スモールボディで高音がきれいに鳴ったとしても、ブルーグラスなどでは使えないでしょう。同様にヴィンテージのD-28もオープンチューニングで演奏するようなフィンガーピッキングの楽曲には向かないと思います。(使ってはいけない!とは言いませんが。)
ギターの数だけ、違う音があります。ギターは「自分んで弾いて、出てきた音が全て」です。ギターが嘘をつくことはできません。出来るだけたくさんのギターを弾いて、音の情報をインプットしておくこと。音の良いギター、鳴りの良いギターをたくさん弾いておく(弾かせてもらっておく)のもいいですね。ギターの持つポテンシャルを引き出せるように弾くテクニックの方も磨いておくことも、良いギターを見つけるためには大事な要素になります。
拙い文章をお読みいただき、誠に有難うございます。皆様の感想、ご意見をお聞かせください。 またアコギに関する相談等がございましたら、どんなことでもOKです。遠慮なくお尋ねください。
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