拝啓、べラール様。

ミュージカル『えんとつ町のプペル』大阪公演。
千秋楽の朝です。

泣いても笑っても今日で最後。

一ヶ月半の集大成。2週間以上通った劇場とも、えんとつ町とも、大阪キネマ倶楽部ともしばしの別れ。

大阪キネマ倶楽部は今日でひとまず店仕舞いだし、大阪キネマ倶楽部バンドも今日で活動休止です。

万感の想いがありますが、連日(勝手に)続けているキャストハックシリーズがあとお一方残っているので、千秋楽の朝といえど何ら変わらず書きたいと思います。

と思ったのですが…

今まで通りの流れじゃなくて、なんとなくここは純度100%の私信を不特定多数が見れてしまう場で綴ってやろうと思い立ってしまいました。

なので今日は、ただただべラール(下村青さん)に向けたレターになります。

どうぞお付き合いください。


下村青さま、いやべラールさま。

あなたと出会って早ひと月半が経とうとしています。

初めてあなたにお目にかかったのは11月1日の本稽古開始日の顔合わせでございました。

「おはようございます」と現れたあなたはなんとも言えない覇王色を醸し出しておりました。

その姿は見るからに「大御所」でございました。
(そう呼ばれるのすっごく嫌だろうけどその時はそう思っちゃったから許して)

明らかに一人だけ格が違う感が満載で、べラール役というのも納得でございました。

共演する方々のパーソナル部分は事前に知っておきたい性分なので顔合わせまでのタイミングでウィキ先生にいろいろ教えてもらっていたのですが、そこに書かれている事象はとんでもないキャリアの数々でした。

そして現在進行系で第一線の方でした。

なのですぐに合点がいったのも事実です。

翌日から歌唱稽古の時間が始まりました。

僕は稽古ピアノとして帯同していたのですが、事前に「バンドが入るまでは音源データのある曲は音源で稽古するからそれ以外の部分をお願いします」と言われていたので、べラールのナンバーはどちらとも音源があるものですから完全にノーマークでした。

そこであなたはこう言いました。

「ピアノだけで歌稽古をしたい」と。

当時の僕ときたら若輩者のくせに「…なんで?」と思いました。

本番仕様の音源データがあるからそれでやればいいのにって。

とはいえそうやってハッキリ言うわけにもいかないので「分かりました」と了承してピアノ一本であなたの歌稽古に向き合いました。

その翌日だったか翌々日だったか…唐突に稽古場以外の場所であなたとお話をする時間がいきなり訪れました。

開口一番、あなたが僕に仰ったことを覚えてますでしょうか?

「歌稽古の時にずっと"なんだよっ!"みたいな弾き方してたよね」って。

全て見抜かれていました。

僕としてはそういう感情はシャットダウンしてただただピアノを鳴らしていたつもりだったのですが、全て完全に見抜かれていました。

烏滸がましい言い方で申し訳ないですが「ああ...この人には絶対に勝てないわ」と観念した瞬間であります。敬意の念を持って。

そしてそれを歌稽古中にその場で言わず、オフの場で優しくお伝えしてくれる懐の深さにも感服しました。

その時はあなたの意図があまり分からず「なんで?」と思っていた僕ですが、時が経ってあなたと接する時間を経て今振り返ってみればどう考えても僕が浅はかだったなと思える部分が多分にあります。

なぜあなたがあの時、音源がある曲にも関わらずピアノ一本から始めたかったのか…今ならばあなたの意図が汲み取れていると思います。

これはまた飲みの場で答え合わせでもさせてください。
(嫌だよと言われてもさせてください)

若輩者の芝居素人がこんなことを言うのは烏滸がましいことなんて重々承知ですが、伝えさせてください。

あなたは本当に役を生きていると思います。

今日で千秋楽ですしもういいだろって思うんで書かせていただきます。

べラールはずっと片目が隠れていますが、エンディング曲の大円団直前の最後にあなたが現れる際にずっと隠れていたもう片方の目が露わになる瞬間があります。

そのタイミングでウインドチャイムの音が鳴るんですが…
(※ドラムの人がたまに設置してるキラキラした棒がたくさん並んでてシャララランって鳴るやつ)

そこでべラールに風を吹かせているのがウインドチャイムの音だとあなたは仰いました。

そしてその風はべラールが「あの日」に帰るための風だと。

そのウインドチャイムの音は僕たちが演奏しているパート以外で流れているオケに既に組み込まれているんですが、僕たちバンドもガンガン音を鳴らしていますしどうしても埋もれてしまって、あれでは風が吹かないとあなたは仰いました。

なので稽古途中からドラムの杉山に本物のウインドチャイムを急遽持ってこさせました。

そして驚くほど綿密にウインドチャイムを鳴らすタイミングや間(ま)に拘られてました。

「それでは風が吹かない」と。

正直、当時のドラムの杉山の頭の中は「????」だったと思います。

かく言う僕もです。

僕たちはどうしたって音楽的な発想が先行してしまいますので演奏という部分に気持ちがフォーカスされるんですが、ここで先ほど書いた部分に辿り着きます。

あなたはべラールを生きている。

リズムだ拍だといった理屈ではなくここだという瞬間に鳴るウインドチャイムで「あの日に帰る風」が吹くかどうか。

本質はその一点だけ。

僕もそこそこ長いこと音楽をやってきましたが…

ウインドチャイムの一音にここまでの意味を持たせた人を知りません。

そして、ウインドチャイムの一音にここまで心を揺さぶられる自分も初めてです。

物語の中で最初から僕はずっとプペルやルビッチ、スコップといった異端審問官側ではない人たちに寄り添って音を鳴らし続けていますが…

物語のクライマックス直前にウインドチャイムの風と共にベラールが「あの日」に帰って僕のピアノと共に歌い出すあの瞬間がこの物語で僕が一番感情的になる場面なんです(知ってました?)。

そして気付いてますか?

当初は「????」となってた杉ちゃんが気付けば今ではなんとも言えない想いのこもった表情でウインドチャイムを鳴らしていることを。

あなたに風を吹かせていることを。

彼もまた長いドラム人生の中でこんな深い意味を持ったウインドチャイムを鳴らしたことなんて絶対にないと思いますよ。

なんせあのウインドチャイムはあなたに風を吹かせる時しか鳴らないんですから。

本当はもっともっと書きたいことがあります。

初めてゆっくりお話させてもらった時に、僕が事前にgoogleでリサーチしていた情報を会話の取っ掛かりとしてお話したら…

「あ〜、あれよく間違われるんだけど違う人なんだよ」と真顔で本気のトーンで言われました。

その時の僕はあまりにも真顔でそれを言われたもんだから鵜呑みにしましたが、しかし明らかにその情報の記事の顔も名前もあなただったのでかなり混乱しました。

しかしずっとそう言われ続けるもんだから、そう信じてその日は散会しました。

そのエピソードを後日、あなたとこれまでも付き合いがある別の方にお話したら言われました。

「下さんのジョークですよそれ」と。

僕は思いました。

「なんやねんっ!」と。

でもちょっと笑ってしまいました。

そんな感じで人間「下村青」の魅力はこの日までにどんどん湧き出ていて、本当にまだまだ書き足りないくらいです。

しかしあなたは今日もべラールとして生きていると思うので。

べラールの話のまま終始しようと思います。

最後の夜、どうかよろしくお願いします。

今日もあなたに最高の風が吹きますように。

西村

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