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チームのナレッジマネジメントの伸びしろを可視化する4つのレベル

MIMIGURIの西村です。自分が所属するコンサルティングチームで実践し始めた、チーム単位でのナレッジマネジメントの話をいたします。MIMIGURIはスモールチーム制をとっており、コンサルタントからファシリテーター、デザイナーなど様々な職能を持つ、3人-10人程度のメンバーが1つのチームで活動しています。

自分の本所属は知識創造室という全社のナレッジマネジメントを推進する部門ですが、昨年よりコンサルティングユニット2-1というチームにも兼務しています。10人単位の大所帯のユニット2が、2-1と2-2というより小さいチームに分化しています。正式名称が学校っぽいのに引きずられて、「2年1組」とか「1班」などと呼ばれたりします。

このスモールチームが力を入れて取り組んでいるのは、知識創造活動です。特に、コンサルティングサービスなどの無形商材を扱う企業においては、自社ならではの知識や技術をいかに創造し、蓄積していくかが重要な課題となります。こうした知識を活用することで、オリジナルなサービスや価値を提供することが可能になると考えられるためです。さらに、得られた知識をもとに、「自分はどのような専門家なのか」という自己のアイデンティティを再定義していく機会としても、この活動を位置付けることができます。

早速2-1でも知識創造活動に取り組み始めたのですが、いきなり「じゃあ、今日から皆で、知識創造頑張っていきましょう!」といっても何をすれば良いかはわからない状態に陥ります。ここで生じている困惑は、おそらくチームでの知識創造活動の中長期的な見通しを立てずらい(計画策定をどうすればいいかわからない)という点にあるのではと考えました。

そこで、小規模のスモールチームでの知識創造活動が成熟状態に至るまでの中長期的なロードマップづくりを支援することを目的として『チームの知識創造活動の成熟モデル』を描いてみました。

このモデルは、「自分のチームが知識創造活動に取り組む共同体としてどの状態にあり、次の伸びしろはどこにあるのか」を見立てるために使うフレームワークです。Level1からLevel4までの4段階があり、この4段階は「チームのみんなで登っていくもの」という前提となっています。とはいえこのモデルはMIMIGURI、ひいてはコンサルティング企業のチームビルディングだけでなく、3人から10人チームでのナレッジマネジメントでは汎用的に活用可能であると考え、このモデルについて紹介する記事を書くことにしました。

チームの知識創造活動の成熟モデル

注1:ただしこのモデルも暫定版です。自分のチームで活用したり、そして皆様の声も取り入れつつ、アップデートをしていきたいと考えています。

Level1:関心可視化

Level1は「関心可視化」の状態を指します。これは、メンバー同士が互いの知的関心を可視化し合っている状況を意味します。例えば、「私は○○に関心がある」「こういった専門性を学びたいと思っている」といった知的関心がチーム内で共有され、開かれた状態を想定しています。そのために互いの知的関心を共有しあうことを目的としたチーム定例や、知的関心を掘り起こすことを目的とした1on1をチーム内で実施するなどの方法が考えられます。

Level1:関心可視化

そもそも知識創造の起点はあくまで個人にあります(Sarwat&Abbas,2021・Nonaka, 1991)。そして、その個人が「自分の知的関心についての探究を始めたい」と感じている状態をチームで後押しすることが、共同体としての知識創造活動を進める出発点となるのではないかと考えます。

ただし、これはあくまでLevel1に過ぎません。この段階では「知的関心が深まっているものの、関心が散逸している」という状況が起こりがちです。例えば、先週は「Aを探究したい」と言っていたのに、今日は「Bに興味がある」と話しているけど、何があったの?というような状態です。

もちろん、自分の関心がどこにあるのかを知るために「当たりをつける(探索する)」ことは否定しません。しかし、自分自身やチームの血肉となるのは、断続的ではなく連続的な知的探究であってこそです。この点「関心を可視化する」のは、知識創造の共同体としては初期段階にあたりますが、より腰を据えた知的探究が可能となっている状態としての、Level2へ歩みを進めていく準備も整えていく必要があるといえるでしょう、

Level1クリアライン
メンバー同士が自分が知的関心を持っている事柄について開示したり、考察するチームの習慣・ルーティンができていて、定期的に運用されている。

Level2:連続的探究

Level2は「連続的探究」です。つまりメンバーの知的関心に基づく探究が連続的なものになっている状態を指します。ここで出てくるのがMIMIGURIではお馴染みの「探究テーマ」です。この探究テーマについては安斎さんなど個々のメンバーによって定義や解釈は異なりますが、自分は「連続的な知的探究を駆動させる関心軸」として捉えています。

Level2:連続的探究

人間だれしもが、興味関心とは移ろいやすいものです。ただし自分の専門性を深めたり、独自性を開拓していく際には、ある程度の長い期間、テーマに浸からないことには「深淵」に到達しないという側面もまた存在します。したがって「自分のキャリア的にこの関心軸にどっぷり浸かろう」という、ちょっとした覚悟が要求されます。Level2はこの覚悟のもと、ある関心にどっぷり漬かって連続的な探究に取り組み、実践知を蓄えているメンバーがチーム内に見られている状態ともいえます。

特定の関心にどっぷり浸っているメンバーは、その活動の中で次々と新たな知識を生み出し始めます。知識には様々な種類がありますが、主に職業人が仕事の経験を通じて熟達する上で獲得される知識とは、日々の活動で直面する困難に取り組み、それらの経験に向き合った自己を内省(リフレクション)することで得られるものを想定します(ショーン・柳沢・三輪, 2007)。

この内省では自身の関心のレンズと、日々直面してきた日常的な現象を結びつけて深く考えることが行われます(安斎,2024)。その結果として、日々の取り組みの中から多様な知識やヒント(Tips)が自然と蓄積されていきます。このプロセスは、単なる作業の繰り返しではなく、自分自身の関心や課題意識を軸に据えた思考の積み重ねによって成り立っていくものです。

MIMIGURIで代表的なのが臼井さんです。現在臼井さんは「ピアマネジメント」という、「マネージャ―」にチームマネジメントの役割を全部担わせるのではなく、チームメンバーがみなで「マネジメント」の役割を持ち合う手法についての探究を行っています。実際臼井さんがマネジメントしているチームにおいても「ピアマネジメント」を実践しています。

その実践が蓄積される中で、臼井さんは社内Slackやnoteなどでも自分の関心に紐づいた知見を発信することが増え、また協働的なチームマネジメントについて相談するミドルマネージャーが見られるようにもなっています。すなわち探究テーマを持つことは、「ある一定領域について詳しく、(そのテーマについて)困ったときに相談できる人」としてチーム、ひいては社内にそのパーソナリティが浸透していく特徴があります。

すなわちLevel2は、「ある知識領域の探究者」というパーソナリティを持った個人がチーム内で芽生え始めている状態を指します。そのためにチームで「このテーマを探究してみるといいんじゃない?」「考えたことを来週も聞かせて欲しい」というように、連続的な知的探究を促していくコミュニケーションの場ができていると良いのではと考えます。またその結果としてチーム内(もっとそれが進むと社内)で「このテーマといえばこの人!」というようなキャラ立ち(Know who情報の浸透)が促進されていきます。

このLevel2に挑戦しているチームルーティンとしては、別のユニットで実践されている「かるちゃべーす」という事例があります。チームメンバーが皆で自分の探究テーマをもとにした社内1on1をポッドキャスト番組にしちゃって社内発信するというものです。

ただし、Level2では、個人の探究テーマが立ってはいるものの、社内で有益なものとして活用される知識であるかはまだ確実ではありません。ここで不足している観点を考える上で有益なのが、川山が職業専門知に関する議論の中で提唱している、「知識」だけではない、新しい知識を創造し、伝達し、活用するための「メタ知識」です(川山,2020)。「知識の使い方に関する知識」とも呼ばれることもあります。

個々の知識(Tips)としては「Aという場面ではBをするといい」という文脈依存的なハウツーはポンポンと出せます。たとえば営業職だったら「顧客が迷ったときは選択肢を絞るといい」「値引きを求められたら付加価値を提案するといい」みたいなものです。しかし実際の営業の現場では、お客さんの性格や志向性、経験、所属組織など多様な変数が入り乱れます。そして細やかに断片化されたハウツーでは処理できない、不確実な問題が次々と発生することがあります。それらの不確実な問題に対峙したときに、個々の知識を組み合わせるなどして、柔軟、適切に対応していくために活用される知識が「メタ知識」にあたります。

この点、Level2では「こういう状態のときは、こうした方がいい」という一問一答のような知識は導かれやすいものの、教科書の範囲を超えた不確実的な状態に直面した際には応用が利かず、陳腐化してしまう知識になってしまいがちです。したがって不確実状況に直面したとしても柔軟に対処できるようになるための「知識の使い方に関する知識」としての「メタ知識」も併せて創造していくことが、Level3までの積み残された課題なのです。

Level2クリアライン
チームのメンバー同士が、連続的な知的探究を駆動させる関心軸としての「探究テーマ」を持ち合い、そのテーマに関する知識(断片的なTipsレベルでも可)が創造され、チーム内で共有され始めている状態。

Level3:知識体系形成

Level3は「知識体系形成」です。この段階では、Level2で見られた連続的な探究をさらに深め、断片的な知識同士が結び付きあい、より体系的な知識を構築していくようなプロセスがチーム内で進んでいる状態を表します。

少し説明が小難しくなりますが、具体的なものでいうなら「探究テーマに関する教科書(著書)」が作られていくイメージといえるかもしれません。

Level3:知識体系形成

たとえば、弊社の安斎勇樹著の『問いかけの作法』は、「“問いかけ”を通じてチームの眠っているポテンシャルを発揮するための教科書」と位置づけられ、ミーティングやワークショップで使えるような、問いかけのノウハウが無数に記載されています。また、それらの無数のノウハウを「問いかけも3つのサイクル(見立てる・組み立てる・投げかける)」と「問いかけの基本定石(①相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する。②適度に制約をかけ、考えるきっかけを作る、③遊び心をくすぐり、答えたくなる仕掛けを施す、④凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す)」という体系的な知識となるように編集されています(安斎,2021)。

編集とは何か?(Ikeda,2019)

ここで「編集」という言葉を用いましたが、知識体系形成のキーワードは「編集」にあると考えます。「編集」とはどういうことを指すのでしょうか。ここで先行研究として、Ikeda(2019)で論じられている「編集思考(Editorial Thinking Process)」を紹介します。本論文では編集のプロセスをモデル化し、新たな価値を創造するために活用する方法論を紹介しています。このプロセスでは「物事を見る視点の設定(a.Perspective of Viewing Things)」と「文脈の可視化(b.Context Visualization)」の2つのステージで構成されています。

Ikeda, M. (2019). ‘Editorial thinking’ for design research. In Proceedings of IASDR 2019: Design Revolutions (pp. 1–10). Manchester, UK: Manchester School of Art, Manchester Metropolitan University.をもとに筆者が和文化したものである。

a.物事を見る視点の設定の中には、

  • 視点を決定する(テーマとそのアプローチの視点を特定する)、

  • 資料を収集する(視点に基づいて関連する情報や物を集める)、

  • 文脈を決定する(収集した資料をつなげ、テーマの展開やメッセージを定義する)

という3つが内包されます。

b.文脈の可視化の中には、

  • 資料を整理する(収集した資料を文脈に沿って整理し、一貫性のある構造にまとめる)

  • 物語を語る(編集された資料を物語形式で提示し、効果的にメッセージを伝える)

の2つが内包されています。

知識体系形成へ編集思考の応用

その上で「知識の体系を形成する」というプロセスとして「編集思考」を捉え直すと、Level2(つまり探究テーマの設定と連続的な探究)の中では、

  • 視点を決定する(自分が探究したいテーマが決まっている)

  • 資料を収集する(探究テーマに基づき自分の経験における暗黙知や外部知見を収集する)

という点まで出来ているのではないか仮定します。しかしまだまだ知識は断片的なままなので、Level3以降で取り組むべきなのは、その先の行為であると位置づけられます。具体的には、以下3つの行為に注力する必要があると考えられます。

  • 文脈を決定する(収集した知識をつなげ、知識の集積から語ることができるメッセージを定義する)

  • 資料を整理する(収集した知識を、知識が活用されていく現場の文脈に沿って整理し、一貫性があるように体系的にまとめる)

  • 物語を語る(編集された体系的知識を物語形式で提示し、効果的にメッセージを伝える)

そもそも、企業組織において知識が価値を持つのは、それを活用する「使い手」がいる場合に限られます。しかし、その使い手が散逸した個々の知識(Tips)をその場その場で道具的に活用していくだけでは、前述のような不確実な問題に直面した際に、適切に対処することが難しくなります。この課題に対処するには、実務現場で生じうる文脈に沿って知識を整理し、それらの知識を相互に結びつけて、知識の受け取り手を意識して体系化を図ること(つまり編集)が大切です。

例えば前述の『問いかけの作法』を例にとるなら、本著に記載されている無数のhow toナレッジが「問いかけの3つのサイクル」として、安斎さん自身が保有している「メタ知識」を基に整理されています。この「3つのサイクル」という編集により、受け取り手の読者も「この3つのサイクルを回すという本なんだな」と大まかに掴むことができます。

またそのメッセージが伝わっていることで、ミーティング、対談、面接などの個別具体的な状況に合わせて、「今の時間は見立てフェーズに当たりうるはずだから、この本に書いてあったこの知見が使えるのではないか?そしてその次は・・・」という判断を、効果的に実践できるようになると考えられます。このような、受け取り手を意識して編集するという行為を通じて、知識が体系化され、不確実な状況にも応用できる「メタ知識」をも伝えられるようになっていくのです。

知識体系形成に向けたチームコミュニケーション

知識体系の形成に向けてチームでできることは、「発信機会」をつくることにあると考えています。外部向けにはイベント登壇、著書執筆、記事執筆、ホワイトペーパー作成、学会発表などが、社内向けには総会での登壇、社内イベントでの発表などがここでいう「機会」に当てはまります。

これらの発信機会は、つい「発信したという事実」に価値を置きがちですが、知識創造活動という面では「発信機会に向けて編集するプロセスそのもの」に価値があると考えるようにしています。例えばMIMIGURIにおいても、とあるチームのミドルマネージャーが「全社総会でうちのチームが発表する機会が急遽生まれたことで、チームで団結して発表内容をまとめることができた」と語っていました。

発信機会が明確に決まっていると、知識の受け取り手にメッセージが届くよう、自らの持つ知識を「編集」する必要が生じます。その機会を得るために、社内外で登壇・執筆などの「発信できる場」を探しあったり、またチームの他のメンバーに「このイベントで登壇してみない?」と機会をプレゼントするコミュニケーションが起きると良いでしょう。またチーム内で誰かが「発信機会」を掴むことができたら、チームメンバーが皆で壁打ち(考えを整理すべく対話すること)を手伝うと良いかもしれません。

Level3クリアライン
チームのメンバーが、発信機会などを契機に、自らの知識を体系的に「編集」するプロセスを経験している状態。さらに、このプロセスがチーム内で共有され、他のメンバーも知識の整理や発信に参加している状態。

Level4:価値接続

Level 3 に到達し、発信機会を得ながら知識の体系化が完成したと仮定します。しかし、この時点では、体系化された知識がどのようなインパクトを生み出せるのか、まだ明確には把握できていません。企業組織の中で知識創造活動を行う以上、単に知識を蓄積・整理するだけではなく、それを活用して事業的あるいは組織的な成果を生み出したいという願いが当然あるはずです。

このような状況を踏まえたとき、次に直面する重要な課題とは、「創造された知識が組織に対して具体的にどのような価値を生み出しうるのか」です。知識が単なるデータや情報の集まりに留まらず、組織全体の成果に結びつく形で機能する状態を目指す必要があります。

そこで、このモデルではLevel 4 を「創造した知識が事業活動や組織活動において具体的な成果を生んでいる状態」と定義することにしました。この状態に到達することで、知識創造活動は単なる学びのプロセスを超えて、組織の成長や発展を支える重要な資源としての役割を果たすようになります。ここまでくると企業のナレッジマネジメント活動としては成功事例といえるでしょう。

Level4:価値接続

知識が組織内で体系的に蓄えられていること自体には、すでに一定の価値が生まれています。例えば、特定の課題に直面している社員がそれを解決するヒントを得たり、あるテーマについて学びたい人が活用したりする教材として機能します。しかし、企業における知識とは単なる情報の集合体ではなく、価値を生み出す可能性を秘めた「資源」としての側面を持っています。この資源を活用することで、業務プロセスの改善や新規事業の創出、組織開発、さらに顧客やユーザーの課題解決といった多様な成果が期待されます。

しかし、多くの企業において、このような可能性を持つ知識が実際に活用される機会を失い、社内で埋もれてしまう問題がしばしば発生します。これでは企業は折角自社内で生成された資源が使われず、誰も知らない場所に放置されているのも同然です。知識資源が「埃を被る」状態を防ぐためには、いくつかの重要な取り組みが必要です。

まず必要なのは、その知識が社内外でインパクトを生み出せる具体的なケースをチームで模索することです。知識とは意思決定の場面、問題解決の場面などで活用されるものです。組織内で知識の波及を目指す場合、どのような場面でその知識が活用できるのか、誰にとって価値があるのかを具体的に考え、仮説を立てることが求められます。たとえば、「この知識は特定の組織課題の解決に役立つのではないか」や、「あるクライアントの課題解決に応用できるのではないか」といった視点で検討を重ねます。加えて自分がオーナーシップを持てているプロジェクトなどでは、ここで立てた仮説の有効性を確かめるために、その知識を日常的に使用することでユースケースを増やしていきます。

次に重要なのは、知識を社内で積極的に発信し、その価値に共感する仲間を増やすことです。主に社内でその知識の「エバンジェリスト」として、知識の有用性や可能性を具体的な事例を交えて共有したり、学習できる場を整えることによって、自チームだけでなく、他チームにも活用を後押ししていきます。この過程では、チーム外のメンバーとの対話を重ね、「この知識が解決に役立つ場面」を具体的に提案することがポイントです。その際には知識そのものを紹介するだけでなく、実際に自分が活用してみたユースケースを紹介することも、他者の知識活用の後押しとなるでしょう。

これらの広報活動を通じて知識が社内に知れ渡ると、自然とその知識が、良い意味で「独り歩き」を始めることがあります。たとえば、他の部署のメンバーから「この間教えていただいた知識を、自分のチームの組織開発ワークショップで活用してみました」といったフィードバックを受けることがあります。また、クライアントの課題解決に役立てられたり、新規事業のアイデア創造の場面に役だったり、社内の業務の見直しに役立てられていくことも考えられるでしょう。このような具体的な結果を積み重ねる中、知識は組織内外での評判を受け、価値の源泉として参照されていくことが考えられます。

Level4クリアライン
チームのメンバーが創造した知識が、事業活動や組織活動において具体的な成果を生み出しており、さらにその知識が社内外で広く活用されることで、新たな価値創出の循環が生まれている状態。

大事なのは「みんなで登る」こと

ここまでで『チームの知識創造活動の成熟モデル』をご紹介してきました。このモデルは、自分が所属するチームにおける中長期的な組織づくりのロードマップを描くという、実務的な目的のために作成したものです。まだ完成してから日が浅いものではありますが、社内で何人かの方に試しにお見せしたところ、「小規模チームのナレッジマネジメント活動の目標設定に使えそう」「知識創造がどのように組織成果に結びつくか説明する際に役立ちそう」といった嬉しいフィードバックをいただきました。

このモデルの一番好きなポイントは、「個人の努力だけではLevelが上がらない」という点です。各Levelごとにクリアラインを設定していますが、その達成条件の主語は常に「チームのメンバーが」であり、チーム全体で「当たり前」とされる状態が問われます。つまり、知識創造活動の成熟度を高めるためには、個人の頑張りだけではなく、チーム全体が足並みをそろえることが重要なのです。

大事なのはみんなで登るってことです!

では、どうすれば「チーム全体で成熟度を上げていく」ことができるのでしょうか。重要なのは、スモールチームとしての「ルーティン(仕組み)」そのものを意図的にデザインする視点です。個々のメンバーが自然に活動に参加しやすい仕組みをつくることで、チーム全体の成熟を促すことが可能になります。

とはいえ、Levelを登るスピードは急ぐ必要はありません。例えば、私が所属する「ユニット2-1」では、今期の目標としてLevel 1 をクリアするための施策を始めました。このユニットは2024年9月に組成されたばかりで、まずはメンバー間でそれぞれの知的関心を開示し合うところからスタートしています。そのために、毎週テーマを決めて話題提供やディスカッションを行う場として「探究定例」を設けました。探究定例を継続する中で、徐々に「この人はこういうテーマに深く関心を持ち続けると面白いのではないか」という議論が生まれ、Level 2 のレディネスが作られ始めている感覚があります。

仮に、ユニット結成直後に一足飛びで「探究テーマを決めましょう!」とLevel 2 の活動を求めていたら、個人差が生じたり、一部のメンバーがついていけなくなる可能性がありました。そのためまずは「全員が登れる状態」を目標にしたルーティンを設計し、足並みを揃えています。このように、チーム全体が一体となって、着実に一歩ずつレベル上げをしていく取り組みが重要だと考えています。

『チームの知識創造活動の成熟モデル』は、自分(西村)が所属しているチームのナレッジマネジメントの現状を確認し、次に目指すべき目標を設定するツールにしたいという実務的な課題に則して作成したものです。そのため学術的は厳密性に基づく議論はまだ行えていない点はご了承ください。しかしこのモデルに関心を持ってくださる方や、より良い改善に向けたご意見をいただける方を心よりお待ちしています。特に各レベルのネーミングに関してはまだまだ改善できる余地を残していると思っています。ぜひこのモデルをきっかけに、皆さんのチームが新たな実践に進む一助となれば幸いです。

参考文献

  • Sarwat, N., & Abbas, M. (2020). Individual knowledge creation ability: Dispositional antecedents and relationship to innovative performance. European Journal of Innovation Management, 24(5), 1763–1781.

  • Nonaka, I. (1991). The knowledge-creating company. Harvard Business Review, 85(7/8), 69–104.

  • Ikeda, M. (2019). ‘Editorial thinking’ for design research. In Proceedings of IASDR 2019: Design Revolutions (pp. 1–10). Manchester, UK: Manchester School of Art, Manchester Metropolitan University.

  • 川山竜二. (2020). 専門職とプロフェッショナルスクール: 現代社会における専門職業知の誕生と脱魔術化. 社会情報研究, 1, 1–7.

  • 安斎勇樹. (2021). 問いかけの作法: チームの魅力と才能を引き出す技術. ディスカヴァー・トゥエンティワン.

  • 安斎勇樹. (2024年5月22日). 複数の人格を持つ時代/探究テーマとは「レンズ」×「対象」の掛け算 [音声配信]. Voicy. https://voicy.jp/channel/4331/779130

  • ショーン, D. A., 柳沢, 昌一., & 三輪, 建二. (2007). 省察的実践とは何か-プロフェッショナルの行為と思考. 鳳書房.



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