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(第8回 新千歳空港国際アニメーション映画祭感想)(2/6)『シン・エヴァンゲリオン劇場版』におけるデジタル表現のニューフェイズ

まず全体を通して観ての感想はエヴァ・庵野秀明監督だからこそ確立できた手法で、スタッフの方々の狂気じみた熱意を強く感じました。
エヴァそのものも狂気じみた作品ですが、ある意味今回のトークセッションはその裏付けとも言えるようなものでした。
なので、エヴァもそうですが劇場作品だからこそできた(とは言っても多くの場合は制作期間が決められているのでやはりエヴァ以外には厳しいとは思う…)もので、テレビシリーズではかなり厳しいのではと感じます。

小林浩康 2D/3Dを用いたグラフィック表現のモーションデザイン

話はCGIアートディレクターの小林氏の話から。
まずエヴァは通常のアニメ制作とは異なる進行が行われるという点が前述とも繋がります。
通常では絵コンテがあり、それを設計図に監督の中にあるイメージを具体化していくという工程が組まれますが、エヴァではもちろん大筋はあるもののヴィジュアル面については各々のスタッフたちによって逆提案が行なわれるとのこと。
その数多の提案の中から一つを選び出したり、もらった提案からインスピレーションを発展させて更に別の提案を求められたりの繰り返しだそう。
もちろん全てのアニメーション制作において提案が無いわけではなく、大なり小なりそういった工程は存在しているのですが、ことエヴァにおいてはそのハードルと回数が段違いなのだと感じます。

話を戻して、CGIとはエヴァにおける2Dワークス全般を担っており、服のワッペンや車に貼られるステッカー、モニターに投影されるグラフィックなどエヴァンゲリオンの世界のディテールを上げ、実在感を高める仕事だと感じました。
正直あっても無くても良いが、あることで確実にそのものの存在感を高めることができ、結果それは視聴者の没入感になっているのではないかと思います。

その他にも「甲板の穴」も作っているというのが印象的。
本来であれば背景やセルで担いそうな部分だが、元々3Dでレイアウトをとって作画にしていたため、この穴もCGで作ることでパースが正確なものになり違和感なくディテールアップができるということらしい。確かに。
また、前述のように逆提案型という進行のためスタッフ各自がどうやればより良い画面を作れるのかを考え、時には不安になりながら制作しているため自ずとクオリティも上がり、徐々に監督の嗜好も分かってきて打率も上がっていくという話は胃が痛くなる思いだった。

ビジュアルデベロップメントではプラグ内の内壁模様のカットがピックアップされた。
コンテ上は「模様が流れ始める」としかないこの項目をどのようなビジュアルで見せていくのか、それが赤なのか青なのか…といった抽象的なイメージを形作る工程という認識になった。
昨今、このビジュアルデベロップメントという工程は散見するようになったものの自分の中でどういったことを行なっているのかがあやふやであったため、今回のトークである程度腑に落ちた。

松井祐亮 プリヴィズを用いた3Dアニメーション制作

プリヴィズとはプリヴィジュアライゼーションの略でアニマティクスと呼ばれたりもする。
所謂本番仕様の前(プリ)の段階のビジュアルのことを指します。
映像ではVコンテ、イラストではラフにあたるのではないかと思います。

ここでも要になるのはやはりこれまでの工程でエヴァでは(恐らく)作品としての軸やシチュエーションは決まっているが、実際どういう風に見せるかを決めていない。
また、エヴァでは3DCGをレイアウト作成に用いるためプリビズでまずはレイアウトを決めて作画に入るとのことだった。
この手法自体はテレビアニメでも既に多く取り入れられている手法だが、やはりエヴァではその試行回数も担う範囲も膨大で今回のトークで一番衝撃的な内容だったと感じる。

そこで今回挙げられたのがシンエヴァアバンのパリでの戦闘シーンだが、なんと最初は絵コンテはなく5ページのシナリオしかなかったとのこと。
後に共有されたコンテも断片的なもので、それを足がかりに3DCGでパリ全体を用意し、どういったアングルで画角で戦闘を捉えると格好良く見えるかという膨大な試行と提案を行なうらしく、その話を聞くだけで目眩を起こしそうになった。

このように膨大な提案を行なうためスタッフも一人ではない。
そこで更にスタッフ間とのやり取りで印象的だったのが、このようにCGを用いて提案を行なっているがスタッフ間、要するに部下には絵を描いて共有するらしく、その方が何よりも早いしCGで作らなかったとしてもやりたいことや勢いのようなものはちゃんと伝わるとのことで、柔軟な考え方をもっている人だと感じた。

山田豊徳 実写作画デジタルなど多様な素材をまとめる特技の仕事

特技はアニメーションでは珍しい項目でカラー以外ではあまり見ない(多分)
ざっくりすると撮影を細分化したものという認識で、原画でも背景でも3DCGでもない撮影素材、所謂特殊効果・特殊エフェクトを指すらしい。
そう言われると確かに撮影でもやっていることはあるなという認識になった。

アバンを作っていた頃は実は無かったらしいが、できた映像を見ると「何かが足りない…」という状態になり、そこを突き詰めていくと細かいエフェクトの仕上がりやディテールなどの足りなさというか手の回っていなさがそういったイメージに繋がったのだそう。
なので、特技工程を踏むことで「エヴァンゲリオンらしさ」を担保していったようだった。

撮影でエフェクトを作ることも通常はあるが、敢えてその工程を特技で担うことで特技は「エヴァの画面を作る工程」、撮影は「それら全ての素材をまとめあげる工程」とすることでクオリティアップを図っていったのだと感じた。
何事もできるに越したことはないがこうやって分野を分け、尚且それぞれにプロフェッショナルとしっかりした管理体制を組み上げることで成立した見事な制作プランだった。

まとめ

エヴァの制作はやはり狂気じみているの一言だった。
たくさんのスタッフによる何百、何千の試行によって成立したフィルムであり、当然ながらその中のほんの僅かなものだけが実際のフィルムに反映されている。
トークの中で一つ印象的だったのはこのように何度もやり取りを重ね、採用されたものはごく一部ではあるものの自分のものが採用されなかったことに対して落ち込む必要は無いというものだった。
提案というのは最後の絵にたどり着くための積み重ねが重要であり、提案から更に良くなるアイデアが生まれるというのはよくある話で、前述の通り監督はそれを用いて自分の中にないエヴァンゲリオンを目指していたのだと感じた。
なので、仮に自分の作ったものが何一つ最後まで残らなかったとしてもその工程は無駄ではなく、確実に活きてより良い作品になっているというのは多くの制作に活かせるマインドだと思う。

次回はまた後ほど。

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