江戸情緒の味噌文化
【書けなかったこの2年間のこと⑤】
2ヶ月間の発酵旅を終えた僕は、東京にある『味噌、醤油』の老舗販売店を毎日徹底的に訪ね歩いた。
そして亀戸にある『佐野みそ』はやっぱり凄かった。この店で味噌醤油の世界に触れたいと思った。
絶え間ない来客相手に粋に、手際よく味噌を量り売る、江戸の繁盛店さながらの光景を体現出来る。
右手に、しゃもじ、左手に、へらを持って味噌を桶に移し換え、富士山型に美しく盛る風情は江戸っ子そのものだった。
80種類もの味噌の違いを流暢に説明するスタッフさんも凄かった。
身体の事情を理解して頂き、佐野味噌で働き出した僕は、出勤前に近くの公園で『しゃもじとへら』を持って砂を美しい富士山型に仕上げる練習をした。
砂場の子供達とそのお母さんに怪しまれない様に『これは砂アート』なのだと説明した。
砂場に居合わせた子供に、しゃもじとへらを奪われて押し問答になった事もあった。
けれど毎日、砂場に出没する僕を怪しく見たのか、やがて公園の砂場から子供達とその親御さんの姿が消えていった。
しかし、その代わりに『佐野味噌ご常連のお爺さん達』(公園で鳩に餌をやる人)が僕の事情を知って毎日やって来たのであった。
【※僕はもう佐野味噌さんにはいませんが、是非ご来店ください。素晴らしいお店です。】