伝えるべきを形にする
『伝えるべきを形にする』
人はある時期から、そのために人生を捧げていくのかも知れない。
母はこの1か月もまた、大部分の生活を古布を繋ぎ合わせる事に費やしている。
その古布は小林家に生きた代々の祖母、曾祖母らが残した衣類や日用品の端切れ。
酒蔵を支えてきた代々の女性達の想像も届かぬ労苦、情念、そして生きた証。
言葉に出来ないその想いを繋ぎ、伝えようとしている。
僕は正直、これらの古布をいったい、どこの何人が興味深く見てくれるのだろうかと思う。
けれども母にとって、受け継いだこの古布を残す事は『今を生きること、その確信』でもある筈だ。
僕は母の『伝える姿』を、ずっと見ている。
それだけでも『伝える事』の意味、かけがえのなさを充分に教えてもらっている。