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やさしい太宰治。「新ハムレット」の感想

7月6日、福岡県の久留米シティプラザにて舞台「新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~」を観てきました。
本作は太宰治版「ハムレット」をもとに、五戸真理枝さんが手がけた演劇です。
シェイクスピアのハムレットを、作家・太宰治の解釈で描いた本作は、主人公ハムレットの持つ苦悩を太宰節で描き、周囲の人物像やその結末すら大きく変えています。

私は福田恆存訳のシェイクスピア「ハムレット」も、太宰治の「新ハムレット」も読みましたが、本公演ではこの「新ハムレット」の持つどこか滑稽な雰囲気を、さらに現代的に楽しめるように演出されており、存分に楽しめました。
特に加藤諒さん演じるホレイショ—や、池田成志さんのポローニアスのセリフや立ち回りは大変面白く、大いに笑わせていただきました。

誤解を恐れずに言うと、私はシェイクスピア作品の登場人物の中でも、ハムレットはあまり好きではありません。
作品としての「ハムレット」や独特のセリフは好きなんですが、主人公のハムレットに対しては、(彼のおかれた不幸で許しがたい境遇は重々承知の上で)そこまでポローニアスやオフィーリアに厭味ったらしく当たらないでよくない?と思ってしまいます。
一方で太宰の「新ハムレット」では、ハムレットは父の亡霊に会うことも信じることもなく、憎まれ口を叩きながらも叔父のクローディアスに同情的な面を見せます。
その分ポローニアスがおかしなことになってしまいますが…

「新ハムレット」のハムレットは、どこか頼りなさげで女々しくて、情けないのだけれど、根はやさしいんだろうなと感じさせる人物になっています。

太宰治という人がやさしいんでしょうね。
テイストは全然違うけど「畜犬談」の超絶ツンデレムーブを思い起こします。

もう一つ、この劇で感心したのは、その独特な舞台です。
舞台左下から右上の方に向かって、なだらかなスロープのようになっていました。
下手な絵ですが下にような感じです。

思い返すとこんなに急ではなかった

木村達成さん演じるハムレットは、だいたい左下の段差のところでウジウジしている。
そして右上の方の椅子に、王となった叔父クローディアス(平田満さん)と王妃ガーツルード(松下由樹さん)がいて、ハムレットはなにやってんだとばかりに見下ろす。
この構図がシンプルだけど、いびつな家族構成にマッチしてて面白いと思いました。
ラストシーンにコロコロ転がる「何か」も、悲劇的なシーンだけど視覚的に楽しかったですね。

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