情け嶋
吉本ばななさんの6篇の小説集。
最後に『情け嶋』を読みました。
主人公 阿蘇美にとって春男は高校の同級生であり、親友。春男が同性愛者であることがかえって二人の絆を強くしています。
阿蘇美が半ば理不尽とも言える、夫の不倫をきっかけに離婚し、住まいに困っていたところをマンションオーナーである春男が『部屋が空いているから、そこにいくらでもいていいよ。一生いたってかまわない』と手を差し伸べます。このような親友関係も実に素敵に描かれていました。
途中から春男のパートナー義人君(7歳年下)が加わった後の関係もコミカルに描写されていました。
義人君が八丈島の出身で、3人で八丈島を旅します。その旅の途中で阿蘇美が感じる人生観が実に印象的でした。
『なんとかなる。悲観でも楽観でもない。目盛りはいつもなるべく真ん中に。なるべく光と水にさらされて。情けは決して捨てず』
『情け嶋』というのは、八丈島の八丈興発さんが作る焼酎のことでした。
親友と言えるかどうかは別としまして、私にも大切な女性の友だちがおります。私にとっては、性別云々よりも、この人と接することで自分が勉強になると想えば、その関係性を大切にしたいと想うのです。
距離感、節度を重んじ、あくまでも『淡交』であることが関係生を維持する鍵のような気がしてなりません。
吉本ばななさんによるあとがき
『少しでも旅に出たくなったり、人生のむなしさが。薄らいでくださったら本望です』も心にしみ渡りました。