「三十一文字(みそひともじ)(短歌)で綴る世界見て歩き」Ⅲ.スペイン・ポルトガル紀行(2004/2)


・シベリヤ(2004.2.6)
○機窓より見下ろす白きシベリヤに黒く蛇行すレナ河ひとつ
○シベリヤは先のいくさで父、叔父が捕虜の辛酸なめし処ぞ
○今もなお白き大地の下に眠る抑留兵らの御霊安かれ
○シベリヤの上空飛ぶとき哀悼の思い込み上げいつも合掌
○常の日は忘れ果ているメロデイと歌詞甦る「異国の丘」の
・ヒースロー( 〃 )
○成田より13時間の空の旅ヒースロー空港に着く6年ぶりに
○空港の整備と充実いっそうに進みしごと見ゆヒースローは
○知り人の声聞きたしと久々に電話かけるも叶わず口惜し
○乗り換えの便待つ4時間ヒースローの安眠イスに仰臥しウトウト
○昼過ぎに成田より着き待ち待ち薄暮の中をヒースロー発つ
○ピレネーの山脈やまなみ見んと窓外を見透かすも闇のみ広がる
○早朝に福岡を立ち一昼夜やっと夜更けのマドリッドに着く
『マドリッド』(2004.2.7)
○スペインの首都なりとうマドリッド街イタリアに似るそこかしこ
○王宮の他はどことなく雑然と見ゆマドリッドの街
○久々に三銃士をば思い出すドン・キホーテの像を見上げて
○セルバンテスがスペイン人とは知らざりきスペイン広場で像を見るまで
○石造の建築物とコンクリのビルがちぐはぐマドリッドの街
○三越のマドリッド店に連れ行かれ早くも土産のチョコ買わさるる
○店員らしきり薦めりブランドのバッグや服を似合いますよと
・プラド美術館(2004.2.7)
○プラドて世界3大博物館訪ね終えたり駆け足ながら
○スペインの王家の絵画八千点を基に創るとうプラドは
○半日で見回るは無理とエル・グレコ、ゴヤ、ベラスケスに絞り鑑賞
○エル・グレコの傑作とう「聖三位一体」絵の価値を吾はわからぬなり
○複製の絵で見しマルガリート姫を原画見て知るベラスケスの絵と
○エル・グレコ、ベラスケスの絵はイタリア絵画に似たると思う
○機会あらば数日かけてゆっくりと見て回りたしプラド美術館
・トレド(2004.2.7)
○中世の佇まいをば濃く残すトレドの街は世界遺産と
○タホ川の清流隔てて対岸のパラドールより見るトレドの全景
○今見おる景色はグレコ描きし絵と違わぬすがたぞトレドの街の
○丘ののカテドラルの塔頂点に古色を帯びて民家蝟集す
○凹凸の石畳道に足とられ杖欲しと思うトレドの細道
○迷い子になりたる時は空見上げカテドラルの塔を探せとガイド
○建物や軒を連ねる土産屋にイスラムの香り色濃く残る
○記念にとダマスキナートの皿求むトレドの伝統工芸品とぞ
○近ずきし茶会の菓子器に使わむか金象嵌の皿を撫でつつ
○シリアより伝わりしとうダマスキナートは肥後象嵌のルーツなりとう
○エル・グレコの代表作の一つとう「オルガス伯爵の埋葬」を見るサント・トメ教会
○彫金や金銀細工のアクセサリー数多売りおるトレドの街中
○エル・グレコはスペイン語でいうギリシャ人クレタ島生まれでトレドに住みしと
『ラマンチャ地方』(2004.2.8)
○染五郎の「ラマンチャの男」で言葉知るラマンチャ地方をバスで駆け行く
○緩やかに起伏する丘一面にブドウ畑の広がり続く
○枯れ色の丘に風車の数基見ゆラマンチャ地方の観光の目玉と
○漆喰の白き胴持つ十字の風車 中では地元のワイン売りおり
○丘の上に立てば二月の強き風ラマンチャ地方を吹き渡りゆく
○枯れ色の畑のあちこち満開の桜に似しはアーモンドの花
○バス道の左右さうに広がる畑にはアーモンドの花真っ盛り
・コルドバ(2004.2.8)
○中世にアラブが支配すコルドバはイスラムの名残りそこ此処とどむ
○イスラムのモスクとキリスト教会の融合を見るメスキータ寺院
○彩色の円柱が林のごとく立つメスキータ寺院の広き堂内
○白壁に挟まる小道は入り組みて迷路のごときユダヤ人地区
○家々の窓辺に花置く「花の小路」でビーズの財布を土産にと買う
○世界史の授業でかすかに記憶するウマイヤ王朝はコルドバにありしと
・セビリア (2004.2.8~9)
○大航海時代に交易都市として栄えしセビリア 内陸に在るも
○イスラムとキリスト文化のせめぎ合いを色濃く残すセビリアの街
○セビリアはコロンブスの故郷にてカテドラルにはその墓もあり
○スペインの四人の領主に支えらる柩しますカテドラルの裡
○カルメンの舞台となりしタバコ工場はセビリア大学の建物になる
○セビリアのスペイン広場とう場所はアーチの柱の円形広場
・フラメンコショー(2004.2.8)
○セビリアのフラメンコショウ劇場で踊りと歌をしばし楽しむ
○配られしワイン片手に半円の舞台囲みてフラメンコ見る
○唄踊り激しかりしにフラメンコ もの悲しさの伝わり来たる
○ジプシーの民族舞踊がスペインを代表したる歌舞となりおり
○髪黒く眼光鋭く浅黒き肌もつ人らジプシーなりとう
○またの名をロマとうジプシー東欧の流浪の民びと住む着くスペイン
○スペインでジプシー被差別の扱い受けいる印象つよし
・ミハス(2004.2.9)
○この海の真向いの地はアフリカぞジブラルタル海峡は右手の先とう
○地中海に張り出す山の中腹に白壁の家蝟集するミハスの街は
○岩山の崖に張りつき這い登る如くに白亜の家々蝟集する
○家々の外壁白く塗りたるは強き日差しを防ぐ知恵とぞ
○石灰を溶かして白く壁塗るはスペインの主婦の大事な仕事なりとう
○ゼラニウム. ブーゲンビリア. ベコニアの花々映える白壁の家
○革製の民芸品を売る店でバッグと眼鏡のケースを買いたり
『グラナダ』(2004.2.10~11)
・アルハンブラ宮殿
○丘のに建つアルハンブラ宮殿はイスラム文化の精華なりしも
○内外の壁面すべて精巧なタイルのモザイク模様で埋まる
○バルコニーの池の面はくっきりと左右対称の白柱を映す
○宮殿の窓より見下ろすグラナダの街の家並みは白く陽に
○庭園の冬バラ見事に咲きいたり如月の午後の日を浴びながら
○日本のテレビドラマの撮影で島田陽子に出会いたり
○缶ビール「クアー」でなじむシエラネバダスペインの山脈やまの名と初めて知りぬ
・バレンシア(2004.2.10~11)
○海沿いの道ひた走るバスの窓にオレンジ畑はどこまでも続く
○緑濃く茂る葉っぱと色ずきてたわわのオレンジ午後の陽に
○休憩のパーキングエリアで特産のオレンジ求めて存分に食ぶ
○正午過ぎにグラナダ発ちて5時間余夕闇迫るバレンシアに着く
○この処 日々500キロ余のバスの旅 疲れ溜まりて食欲もなし
・タラゴナ(2004.2. 11)
○地中海のバルコニーとうタラゴナの海岸散策ベンチに憩う
○陽を受けて¦黄金《こがね》に輝く海面うなも見て黄金海岸コスタ・コラダの名まえ諾う
○如月の季節なりしにこの海は眠気を誘うポカポカ陽気
○海見つめ黙せしままに陽を浴びる老夫婦ありベンチに並びて
○愛しげに女の幼に頬寄せていだきて歩く父親もあり
しろがねの大皿の上で湯気と香を立ているパエリア久々の美味
『バルセロナとガウディ』(2004.2. 11)
○バルセロナ・オリンピックで整備するか近代的な海岸通り
○コロンブスの塔近くにあるレストランでシーフードの昼食をとる
○NHKのTVで知りぬ建築家ガウディの作品をバルセロナで見る
○ガウディの作品蒐める丘ののグエル公園見学したり
○建築家ガウディの作る建物 曲線と壁面が個性的なり
○爬虫類に皮膚思わせるガウディの作品見るも我は馴染めず
○ガウディの聖家族聖堂を見るためツアーに参加せし人も有りとう
○ガウディの作品とう聖家族聖堂は20世紀の今も建築半ばなり
○着工から百二十年余経し今も完成6分がたサグラダファミリア聖堂
○その完成2,030年頃と言うまたも訪はむか命の有らば
○完成する4本の塔の1本に上りて眺むバルセロナの街
あかときのバルセロナの街走り抜け帰国の途につくスペインの旅
聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラ(2017.2.14)
○名のみ知る聖地サンチャゴ・コンポステーラ初におとなう念願叶いて
○石造の巨大の堂や前庭の石畳広場に圧倒される吾は
○聖堂は修復中とて鉄骨とテントに覆われ堂内なかに入れず
○聖堂に祀らるヤコブはキリストの弟子十二使徒の一人とう
○サンチャゴはセントヤコブに由来してコンポステーラは墓場意味すと
○回廊の隅では粗衣の男が一人バイオリンをば奏でていたり
巡礼じゅんれいが踏み固めしか土の道日本の遍路道が頭をよぎる
『ポルトガル』(2017.2.14~20)
・ポルト(2017.2.16)
○若き日にコンパで馴染みし赤玉のポートワインの故郷を訪う
○仲間らは湊の観光 足弱のわれは独りで高台に待つ
○眼の下で輝く海は大西洋はるばる来しと感懐しきり
○葡萄酒の醸造工場見学しホンものポートワインを試飲
○そのワイン甘味と雑味が舌に残り吾には美味しと思えずなり
・リスボンへの道(2017.2.17~18)
○大西洋の強き海風ひねもす受けてバスは行きたりリスボンに向けて
○バスに見ゆポルトガルの国柄はインフラ整備行き届き内懐の豊かな国と
○教会や途中で立ち寄る図書館の内部に驚く金ピカピカに
○この金は南米インカの収奪か人間悪の証左と不愉快
○この国の今の斜陽は著名なる過去の不徳か奴隷貿易とう
○日本に西欧文明・キリスト教を最初に伝えしはポルトガルなり
○仏教で言う因果応報の思いがこみ上がるイベリア旅して
あとがき(2024.10)
・日本の世界地図で見る左端のイベリア半島、そのスペインとポルトガルには一度は訪れたいと思っていたから2度も行けて念願叶った。スペインは一見のどかな農業国だが、奥に多くの歴史を秘めユネスコ世界遺産も世界一、日本の奈良のような国だと思った。また観音霊場巡りが趣味の私には少しだけでも巡礼の道を歩けて嬉しかった。
・ポルトガルは日本にキリスト教と鉄砲を伝えた国として知られるが、南米インカから金の収奪、奴隷貿易による富の蓄積を思うと因果応報の複雑な思いが募る。(了)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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