このまちをふく風
抜けるように大きな空がある。長い道を行く限り、圃場が続いている。
ついこの間、新幹線がやってきた。空を行くように、早く駆けていく。その足元では、ただ訥々と、圃場が続いている。
土を耕して、水で満たす。苗を植える。道を行く限りの緑が続く。苗が伸びて、青々と繁る。日が短くなるころ、稲穂が実る。黄金色の稲穂が、まだ暑い風に揺れる。
稲穂が刈り取られると、また土を耕す。種を蒔く。赤い根をした蕎麦が、すっと伸びては白い花を咲かせる。朝夕冷やりとする頃、白い花が揺れる。
蕎麦が刈り取られる、また土を耕す。種を蒔く。白い冬を超えて、麦が育っていく。草木の青々と繁る頃になって、黄金色の麦穂が揺れる。
麦穂が刈り取られると、また圃場は水で満たされる。稲の青、沢潟の花、空を駆ける燕、湿った土、実る稲穂、畔に咲く決明子、こぼれ稲、頼りない蕎麦の茎、白い花の香り、しんと冷たい風、降り積もる雨、雪、春の空、伸びていく麦、鮮やかな夏の光、麦秋、ストロウの香り、澄んだ水。
このまちを風が吹いている。これまでも吹いていたし、これからも吹いていく。
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