チョビヒゲとTシャツ
先日僕は悩んだ末、Tシャツを買いに出かけた。
今この時期にTシャツを買いに行く事が正しいのかは分からない。
外出自粛中いつの間にか一気に暑くなっていて急にTシャツの出番がやってきた。
今現在の僕のTシャツのレパートリーは非常に心許ないものだった。
どれもヨレ〜とくたびれているのである。
"デブのTシャツの消耗速度は中肉中背より早い"
僕が35年デブをやってきて得た答えである。
僕はシャープマスク、手ピカジェル、消毒スプレーをフル装備しTシャツを買いに出陣した。
僕がTシャツを買う店はいつも同じだ。
チョビヒゲの店長がやってるセレクトショップだ。
チョビヒゲは服を選んでいる時めちゃくちゃ話かけてくるタイプの店員だ。
普通に考えると結構うざい。
聞いてもない服の情報をバンバン入れてくる。
最初は「なんだこの絵に描いたようなうざいチョビヒゲは!?」とびっくりしたものだ。
しかしいつしかそれが居心地のいいものに変わっていた。
気づけば僕は10年以上の常連になっていた。
チョビヒゲの勧める服が全て信用出来るかというと実はそうとも言い切れない。
基本的にチョビヒゲは5回に1回ぐらい微妙なものを勧めてくる傾向があった。
その1回をどう見抜けるか。
僕はいつもチョビヒゲとの危険な駆け引きを楽しんでいた。
騙し騙されあう関係。
ここでいう僕の騙すは「買いそうな気配をめっちゃ出しといてやっぱり買わない」である。
チョビヒゲと僕は強敵と書いて「とも」と読む、そんな関係だった。
今回チョビヒゲは奇抜な色のTシャツを勧めてきた。
今までの僕のレパートリーにはない色だ。
僕は即座に思考した。
これは5回に1回のハズレかそれともアタリか
答えはすぐ出た。
「これはアタリだ」
これはオシャレだ。
このアイテムがあれば今年の夏を色鮮やかに彩る事が出来る。
僕はそのTシャツをほとんど広げる事もなく即買いした。
「ありがとうございました!」
見送るチョビヒゲを背に僕は確信した。
勝った。
今回のチョビヒゲとの勝負は俺の勝ちだ。
帰る足どりが軽かった。
家に帰ってすぐそのTシャツを着てみた。
?
?
?
ある言葉が僕の脳裏によぎった。
「これめっちゃダサない?」
まず色が僕に絶妙に似合ってない。
青と水色がメインなのだがどっからどう見てもドラえもんにしか見えない。
オシャレな人が着ればいいのかもしれないが完全に僕の手に負える代物ではない。
そして一番の問題は左胸にしっかりと入った謎のマーク
太陽のマークの中に顔が描いてあってニッコリ笑っている。
↓こんな感じ
このマークを一言で表すなら
「わんぱく」である。
35歳のおじさんがわんぱくなTシャツを着ている。
とても見れたものではない。
ふと鏡に背中を映した。
僕は驚愕した。
左胸のわんぱくマークが背中にもどデカく入っている。
大きさでいうと孫悟空の胴着の背中の「亀」ぐらいのデカさである。
背中に大きなわんぱくを背負っているっっ!!
そういえばこのTシャツを買う時あまり広げて見なかった。
折り畳んだ奥底にこのBIGわんぱくは潜んでいたのだ。
あの野郎、確信犯である。
これで街に出たとしよう。
絶対に誰にも背中を見られてはならない。
見られたが最後「BIGわんぱくおじさん」として町の名物おじさんとなってしまう。
僕がこのTシャツを着て外に出るにはゴルゴ以来の背後を取らせない男にならないといけなかった。
僕は拳をギュッと握りしめ
心の中でこう叫んだ。
「チョ〜ビ〜ヒゲ〜〜〜〜〜!!!!!」
来月、僕はチョビヒゲとの最後の勝負に挑む。
僕のレパートリーが増えるか、チョビヒゲが在庫整理できるか。
息を飲む頭脳戦が繰り広げられるであろう。
"最後に笑うのはどっちだ!?"