金子明日香さんインタビュー「自分でハンドルを握っていい」(後編)
2月13日。
1月7日から芸術村で滞在公開制作をしている
金子明日香さんにお話を伺いました。
作家活動を始めてもう少しで2年。
活動を続けていくために
表現の根幹となるような自分の「軸」を
少しでも掴まなきゃいけないと思っていたところ、
芸術村での滞在制作に行き着いたのだとか。
行き着いた西会津で、
金子さんはどんなことを感じ、
西会津は金子さんにどんな作用を
もたらしているのでしょうか、、🔍
前編に引き続き、金子さんの声をお届けします。
私の好きが前提にある、
私の美しいという感覚が軸にある
そんなに自分を追い込まなくていい
ー
西会津での滞在を経て、今後どう変わりそうですか?
金子さん
どう変わるんでしょうね。
未知、、。未知ですね。
精神的な話からすると、芸術村のスタッフさんももちろんですけど、芸術村に訪れた、ご自身もアーティストとしてやられている方とも何人かお話をさせていただく機会があって、
すごく印象的だったのは、ある方から「すごい気を負ってるんだね」って言われて。
その時にもう泣きそうなくらい嬉しかったんです。
自分でも無自覚だったんですけど、気づいてもらえたと感じて。
人の目が気になる性格なので、SNSを見ればみんなの活動が気になるし、私は何もやれていないんじゃないかって勝手に悪い妄想がどんどん膨らんでいくんです。
常に自分で自分にプレッシャーを与えている状態。
こういう(東京から)離れた場所にいたって、SNSやら自分次第で、自分を悪い方向に追い込むことは全然できて、私はそれを無意識にやってるんだなっていうのをその方の言葉を受けて自覚しました。
常に気を負って、常に緊張していることに気づけたのはすごく大きかったです。
私は自分の軸を見つめるためにここに来たけれど、「もし仮に見つかんなくてもいいと思いますしね」とその方が言ってくださったり。
今回の滞在制作では広い空間で制作ができるので大きい作品をつくりたくて、レジデンス中に100号の作品を完成させるんだ!させなければいけないんだ!と意気込んできたことを話すと、たぶん必死な感じが出ていたんでしょうね(笑)
「もちろん完成したらいいけれど、途中で終わったとしてもいいと思いますよ」と言われて、緊張の糸が緩んで気持ちが軽くなりました。
金子さん
そういう心持ちでいていいんだというのは私としてはすごい発見だったし、今後の活動の上での向き合い方がひとつ増えました。
たぶん私は空気を吸うように、悪いプレッシャーを自分でかけていくので(笑)
その時に「いや待て待て待て」と言える自分が誕生した感じですかね。
そのきっかけをもらえたことはすごくありがたかったですし、嬉しかったです。
自分を認められたから走り出して行ける
金子さん
今後の作品の話でいうと、自分が作っていくものとか生み出していくものがどうなるかは本当に分からなくて、何かを掴むかもしれないし、掴まないかもしれないし。
私は結構、これやってみようというのが突発的に浮かんできちゃうタイプなんです。
(作品を見渡して)
だからこう見てみてもやってることがあんまり統一感ないじゃないですか。
金子さん
作風が定まってないのもあるんですけど、これやったらどうなるんだろう、見てみたい!という気持ちが強くて。
だから明日の私も1時間後の私も何をひらめいて何を思うか全く予想ができなくて。
とりあえずその時々で吐き出していくみたいな作業を今しています。
だから作品を作るというよりは、その時浮かんできたものをとりあえずバーーっとアウトプットしてる感じなので、レジデンスに来る前は想像していなかった表現がいっぱい出てきてるんです、この(教室の)中で。
(作品を指して)
あのコラージュとかすると思ってなかったし、線をずっと引き始めるとか、これやったらどうなるんだろうって思っちゃったからやってみた、そんな集まりなんですよね。
だからほんとにどうなっていくかが分からなくて。
未来の自分が何を考えているかが想像できなさすぎて。
で、最近はそれを楽しむようにしてます。
それが今までコンプレックスだったんですけど。
まとまりがないし一貫性がないし、ほんと迷走してるんですよね。
それこそ軸がないって話に戻っちゃうんですけど、手を動かしていても、ずっとどうしたらいいんだろうと途方に暮れていました。
でもここでやってみて、まあとりあえず出していけばいいか、というか、
その時その時思った自分を受け入れて、あ、これやりたいと思っちゃったんだね、じゃあやってみようか、というふうに自分を認めることができました。
金子さん
今彫刻とかやりたいなって思ってて、彫る作業とかしたいんですよね。
描くというよりも触れたい、とか色んな感覚と欲が自分の中に出てきているので、今は一旦それに従ってみようかと思っています。
たぶん、無鉄砲で無邪気な私と、それを観察している私がいるんです。
やってみたいことや見てみたいことが出てきちゃって、てんやわんやしながら何かしら出している私を
「あ、そういうふうになっていくんだ」
「そういうふうに思うんだ、へ〜」
と、後ろ側で観察している自分がいる感覚。
その性質の違う自分を行ったり来たりしながら、これからも作品をつくっていくんだろうなって思ったりしています。
そういう感覚になれたのはすごい大きかったです。
今までいた場所ではそういう感覚にはなれなかったし、その自分の感覚を信じてあげることができなかったので。
でも自分はこうやってっていいんだと認められるようになって、認められたら走り出してくことができるので、これからは自分なりのこの迷走ぶりを楽しんでいきたいなって思ってます。
共感を求める作品っていうよりも、共有する作品
ー
作品にはどんな思いが込められているのでしょうか?
金子さん
思いはあんまりないかもしれないです。
これもレジデンスに来てから感覚が変わったことですね。
来る前の作品は、思いはありました。
作品によってコンセプトは違うので、もちろんそのコンセプトの中でやっているんですけど、他者、誰かに対してこう感じて欲しいとか、「共感して欲しい」がわりと強いのが今までの作品。
今までは、多くの人が共感ができるような作品をつくらねばならぬと思ってつくっていたところがありました。
作風やコンセプトが変わったとしても、一番根っこの部分は”共感”。
「どんなかたちだと共感を得やすいか」
「どんなふうにするとわかりやすいか」
そういう、鑑賞した方の共感や理解を得やすくするためにはどうしたらいいかを考えながら作品をつくってたんですね。
だけど、レジデンスに来てからはそういった思考がなくなってしまって。
(作品を見渡して)
ここにいる子たちは思いが特にないんですよ。
金子さん
その時の私が、線描こう、木を彫ろう、パステル使おう、紙破ろう、とか
この映像のこの人が美しいと感じたから描こうというような衝動から始まっているので、そういう意味では思いはなくて。
美しいと思ったから、やってみたいと思ったから、見てみたいと思ったから。
それに従ってひたすらアウトプットしていく行為をこの1ヶ月続けていったら、”共感”というキーワードが自分の中ですごく気持ち悪くなっちゃって。
なんで私は共感を求めてるんだろう、なぜ共感というものを作品にねじ込もうと思っていたんだろう、と考えるようになりました。
その代わり、自分の見た、きいた、触れた、食べた、
体験を通した美しいものってあるじゃないですか。
この石めっちゃ綺麗だなとか。
その美しいと感じたこと、心が動いた小さな一瞬見逃さずに”共有”したいと思うようになりました。
子どもが親に「こんな綺麗な貝殻拾ったの〜」って見せたりするじゃないですか。
あれってたぶん共感を求めてるんじゃなくて、とりあえず共有したい感覚だと思うんですよ。
見て見て!って。
私は今その感覚が強いです。
「この時の光がすっごいきれいで描いてみたの!みて!」みたいな。
それで興味がない人がいてももちろんよくて。
でもそこで何か反応してくれたり、興味を示してくれる人がいたらとても嬉しい。
そういう共有するための手段として作品があるのかな、と今は思っています。
共感を相手に求める作品っていうよりも共有する作品。
なのであくまでも自分軸というか、私の好きが前提にあるので、私の美しいという感覚が軸にあるので、モチベーション的にも精神的にも作品と向き合いやすくなりましたね。
金子さん
”共有”の感覚に自分の中で思考が切り替わったのは本当によかったです。
生み出していくものは共感できるものでなければならないという苦しさがずっとあったので。
共感が悪いのではなくて、私の中での表現や作品の向き合い方として、それを前提に置かない方がいいのだと知ることができました。
共感してもらえたらもちろんとても嬉しいですし(笑)。
金子さん
ちゃんとしたものつくんないととか、みんなにとって分かりやすいものをつくんないととか言う自分もまだ少しいるんですけど、
出てきたとしても、「共感じゃない共感じゃない」ってハエ叩きでばん!みたいにできるし、やっていいんだって思いましたね。
たぶんそう思えたのは、西会津の人たちに会ったことも理由としてあります。
自分で自分のハンドルを握ってる方たちなので、あ、私も握っていいんだって。
それでハンドルを握ってる時に「なんかめちゃ面白いもの見つけたー!」って言っていいんだって、ここに来て皆さんと触れてようやく思えたというか。
ずっとモヤがかかっていた景色が少しずつ晴れてきて歩きやすくなってきた、そんな1ヶ月でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
金子さんの前進されていく姿がまぶしくて、こちらもワクワクドキドキします。
そんな金子さんはインタビュー後もどんどんと新たなる作品を生み出しているご様子、、!
3月31日まで芸術村で滞在公開制作をされますので、ぜひ、みなさま足を運んでみてください!