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金子明日香さんインタビュー「自分でハンドルを握っていい」(前編)

2月13日。
1月7日から芸術村で滞在公開制作をしている
金子明日香さんにお話を伺いました。

作家活動を始めてもう少しで2年。
活動を続けていくために
表現の根幹となるような自分の「軸」を
少しでも掴まなきゃいけないと思っていたところ、
芸術村での滞在制作に行き着いたのだとか。

行き着いた西会津で、
金子さんはどんなことを感じ、
西会津は金子さんにどんな作用を
もたらしているのでしょうか、、🔍



軸を掴みたい

金子さんは東京に拠点を置き、制作を始めるきっかけとなった恩師のもとでアシスタントをしていたそうです。




西会津国際芸術村に滞在しようと思ったきっかけを教えてください!

金子さん 
順を追って話すと、その恩師はアーティストとして生活をしている方で、その方がアシスタント募集をしていて、それがコロナ始まってすぐくらいかな。

私はそれまでその方の作品を実際に見たことはなかったんですが、インスタで「綺麗だな」と見ていたところに、その(アシスタント募集の)投稿がやってきて。
あんまり何も考えずにやりたいですってDMを送ったら、じゃあ来てみなよって言ってくださって、それが3年前くらい。

そこからお仕事しながら休日はその方のアシスタントとして制作のお手伝いをするという日々が始まりました。

金子さん
他にもアシスタントはいて、その中には現役の美大生や、これからアーティストとして活動していきたい方もいたので、どうやって活動を広げていけばいいかなど、「アーティストとして生きていくためには」ということを指南してくれる場所でもありました。

でも私はそういうのはなくて、純粋にお手伝いができればいいだけで、その時は作家になりたいと思ってなかったんです。

私は建築デザイン専攻ですが美大出身で、アカデミックな美術は勉強していないけれど、受験のために基礎的なデッサンは習ったり、小さい頃も絵画教室は通っていて。
その恩師に、そういうのはやったことあるんだし、アシスタントにくるってことは、少なからず何か作ることに興味があるってことだからやってみたらいいじゃんって言われて。
じゃあやってみますって感じで、ほんとそんな感じなんですよ。

なので、これを描いていきたいんだとか、こういうのを作っていきたいんだってモチベーションでは始まってないんですよね。


その後、表現の根幹となるような軸を見つけられていない状態で、毎月のように新しい作品をつくって展示をするという1年間を過ごし、苦しくなっていた金子さん。
活動を続けていくためには自分の軸となる部分を少しでも掴まなきゃいけないと思っていたところ、個展をしたギャラリーのオーナーからレジデンスでの滞在制作を勧められたのだとか。
数あるレジデンスの中で西会津国際芸術村を選んだのは、一番融通が効くと思ったことと東北の山あいへの親近感と安心感だったそうです。


金子さん 
今平日はリモートでお仕事していて、他の時間を制作にあててるんですけど、そもそもそれをしていいのかっていう。
滞在制作って、ずっと制作にまつわるものをしてなきゃいけないと思っていたし、そういう場所と時間であると思うんですよね。
仕事をする場じゃなくてあくまでも滞在制作をする場として提供していただいてると思うので。

でも仕事をしながらがよかった。
生活もありますし、今の会社はだいぶお世話になっているので、すぐお仕事を辞めたいとは言いたくないと思っていた時に、(芸術村が)それもオッケーだよと言ってくれて。
そこにいてくれればいいというふうに言ってもらえて、このゆるさが私はちょうどよくて。

やっぱり新しい環境に飛び込むときは緊張するじゃないですか。
知らない人に会うし知らない土地だし。

でも、ゆるくやってくれればいいからみたいに言ってもらえたのはすごく気持ち的に楽で、じゃあここにしようと思って来ました。

あとは、ほんとは雪を期待してここに来たんですけど、(今年は)全く降らなくて、降らないまま終わるんだろうなって思って(笑)。
それだけがちょっと悲しいですね。

西会津に来たのは初めてなんですけど、大学が山形で東北という地に親近感はあったので、突然沖縄!とかっていうよりはまだこっちの方が安心できるというか、
行ったことないけど少し、こういう山あいの雰囲気なんだろうなっていうのは、なんとなく(大学時代の)山形ののどかさを通じて近しいのかな、なんて思ったりしたので。
そういう土地へのたぶん大丈夫じゃないかなあみたいな安心感があってここを選んだ感じですかね。


西会津に来てみて

どれくらい不自由だとちょうどいいのか



約1ヶ月西会津で過ごされてみて、どんなことを感じていますか?

金子さん 
ディスってるわけでは決してないんですけど、”なんもないな”っていう(笑)。

私、田舎出身なんです。
埼玉の上里町っていうお隣群馬県の県境で周りは田んぼだらけの小さな町で。
大学も山形市だったので、すぐ近くに山はあったしとてものどか。

だけど(西会津は)さらに来たか、と(笑)。
スーパー行くのに車でこんなに下らなきゃいけないのか、近くにスーパーとドラックストアはここしかないのか、っていうのが衝撃的で。
ある程度田舎耐性はあると思ってたんですけど、娯楽的なものは特に、何もないんだなと純粋にびっくりして。
車があるので移動は自由にできますが、そういう生活をしたことがなかったのでそれはすごい新鮮でしたね。
今はもうすっかり慣れましたけど。

でも今まで10年くらい東京をはじめ都会にいて、良くも悪くも何でもすぐに手が届く環境から唐突にこっちに来てるので、最初はやっぱりカジュアルに色んなものが手に入らない不自由さっていうのは体感しましたね。

でも、その不自由さが面白いなって思ったし、なんでも手に入る状況というのが当たり前だったけど、その感覚がバグってた気もします。

「なんでも手に入る」と「全然手に入らない」っていきなり切り替わったので、どれくらいのものがどれくらいの距離で手に入ったら嬉しいんだろうな、どれくらい不自由だとちょうどいいんだろうな、みたいなバランスが自分の生活の中で、生きていくうえで必要なんだな、と考えるきっかけになりました。     
まだ答えは見つかってないんですけど。


働いてるっていうより、生きてる感じ

金子さん 
まだそんなに町の方に接したり、西会津自体を巡ったりと深くコミットしていなくてまだあんまり交流ない方だと思うんですけど、少ない交流の中でも確実に思ったのは、みんな色んなことしてますよね。

1人の人間が、お仕事もそうだし、お仕事じゃないこともそうなんでしょうけど。
それこそ矢部さん(芸術村の代表)はランドスケープデザイナーでありながら宿をやっていたり、建築の仕事をやりながらシェアハウスを営む方がいたりとか。
それが結構当たり前のようにやっているのはすごい新鮮。

やっぱり社会人になるとどうしても仕事/プライベートみたいなライフワークをどうバランスよくとるか、というのを考えると思うんですけど。
仕事は仕事、プライベートはプラベート、このバランスをどうとってどう賢く生きるか、というのを考えて実行することが生きていくうえで大事であると強く感じていたんですよね。

でもこの町の、少なからず私が関わっている人たちは、それがグラデーションで一直線というか、勤怠に縛られていないというか。
仕事の開始と終了の時間はあるんでしょうけど、自分の人生の中に働くこと、食べていくこと、楽しむことなりが全部組み込まれている状態で1日を過ごしている方が多いなと思って。
それは今まで接してきた人たちと違うジャンルというか、違う空気とか意識を持った人たちだなっていうのはすごい感じました。

だから田舎ってよくスローライフっていうけど、全然スローじゃないじゃん、めっちゃ働きまくってますやんって(笑)。
だけどそれはたぶん、しんどい時はもちろんあると思いますけど、”働いてる”というより、”生きてる”感覚に近いんだろうなと思います。

今までイメージしてた田舎で暮らすこととか、生きていくことの価値観が結構変わった。
みんな働き者だし、よく飲むし、よく食べるし、いいところも悪いところも全部含めて、人間らしく、、
というか動物らしく生きてる感じがすごいしました。


ハンドルを自分で握って、自分でどこに行くかを決める

金子さん 
でも、流れている時間はやっぱり緩やかな感じがするんですよね、町全体が。
個々の人間を見ていった時にいい意味で緊迫感がない。
責められてる感じが焦りがいい意味で、ない。

金子さん
私は結構、すごい心配性なんです。
10年間色々な業界で仕事をしてきましたが、器用貧乏なので、色んなところに行ってもある程度のベースのところはそつなくこなすことができるんです。
だから仕事における適応能力がある程度高いんですよ。

なんですけどそれってやっぱり、相手が何考えてるとか先読みしすぎたりしてめちゃくちゃ辛い時もあるんですよね。
これでよかったのかなとか、こういうふうにしようと思ってるけどこれじゃ嫌だって言われるかもしれないからこれも練っとこうとか、すごい準備をするんですよ。
相手を安心させるために、環境を万全に準備する性格で。

それって基本的に不安からきているんですよね。
だから「焦り」で、やっぱり。
情報や考察が足りないと思われたら嫌だから、相手が困ったりガッカリした顔を見たくないから。
そういうプレッシャーからきてるんです。

それがデフォルトなのを10年間続けていると、なんかもうそれが染み付いちゃってて、基本的に何かいつも緊張している状態。
それは仕事とかプライベートとか関係なく、もうそういう性質になっちゃってるなって思ってるんですけど。

(西会津の人たちは)なんかプレッシャーに飲まれてない感じがしましたね。
そういう意味ですごい軽やかだし、考え方とか動き方とか。
他者からの何かに対して、どうこうしていこうと思ってないというか。

私は結構他人軸なところがあるんですけど、いい意味でここの方たちは自分本位。

自分がこれをやりたいから、こういうふうに暮らしたいから、そういう自分本位なモチベーションがたぶん根っこにあって、それをやっていくためにやりたくないことももちろんやんなきゃいけないんですけど、
しんどくてもやりたいって言ったのは自分だし、自分で自分の責任をとる、というところに立ち戻っていっているなというのは感じました。

車でいうと私はわりと他者にハンドルを握らせていると感じたんですが、この人たちはちゃんと自分で握って、自分で行く方向を決めているんだと思った時に、純粋にすごいな、かっこいいなって思いました。
私と真反対の感覚で生きてる方が多いなぁって。

だから時間の流れは緩やかなんだけどよく働くっていうのはそんな感覚。
自分で運転しなきゃいけないじゃないですか、ハンドル握って。
運転しなきゃいけないわけだから疲れるし、そういう意味でもずっと働いてはいるんですけど、
でも、どのスピードで進んでいくかは、自分で握ってるからなんか急かされてない。後ろから、他人から煽られていない。
自分でやりたい、自分でここに暮らすって決めたから、ここでどう楽しく、というか、どう生きていくかを考えているのかな、と思いましたね。



後編へつづきます!

金子さんは3月31日まで滞在公開制作をされます。
ぜひ芸術村まで足を運んでみてください!

金子明日香さんプロフィール

金子 明日香  Asuka Kaneko
埼玉県生まれ。
2013年、東北芸術工科大学 デザイン工学部
建築・環境デザイン学科卒業。
卒業後は、空間設計・教育・IT業界にて
ディレクターとして勤務し、
2020年よりフリーランスとして活動する。
2022年より作家活動を開始。
「拠りどころ」をテーマに、
風景や文化を分解しながら
自身のフィルターを通して再構築した
作品を制作する。
https://www.instagram.com/kasuka_k/



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