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《写真詩集》ともしび

桜の道

毎朝歩き続けたこの道
夏は汗をかき
冬は凍えながら
 
春になると桜が咲く
かつて線路が敷かれていたこの道に
桜並木が続く
 
一斉に咲いた桜の下に立ち止まり
空を見上げた
桜は過去も未来も知らずに
今咲き誇る
 
一つの花が宙を舞う
桜の終わりが春の始まりを告げる
春風が吹いて
桜の花が流れ落ち
 
この場所で
十年前と変わることなく
同じ時を繰り返す
いつまでも
いつまでも



花火

夜の闇の中に
きらめく花火
一瞬だけ光を放ち消えていく
その間にもうひとつ花開き
消える前にまた別の花火が上がり
一瞬の連鎖が
夜空に描く物語
 
歓声が鳴り響く中
煙が星空の下を流れていく
 
花火が終われば
遠くまで続く街の光
道端に続く出店
途切れることがない人の列
 
ひとりひとりが世の光
暗い夜の道を照らすともしび



はるか遠い昔に
この星で命は生まれた
それは記憶をつなぎながら
長い時を歩き続けてきた

自然の摂理に逆らいながら
歩き
飛び跳ね
群れを作り
敵を滅ぼし
 
新しい世界を求め
ただ歩き
歩き続けて
歩き疲れて
座り込んで
ふと前を見れば
通り過ぎていく
無数の人の波

ああ歩き続けなくても
風は吹き空は青く
世界は変わらないのだなと
気づいた時

一羽の蝶が宙を舞う
自由に
あまりにも自由に

蝶を追いかけて走り出す
赤い花畑をかきわけながら
日は傾き
世界が赤く染まる
蝶に手が届いたその時
世界が夜の空に溶けていった



冬の光

冷たい空気をいろどる七色の光
人々は白い息を吐きながら
夜の街に魅了される

一人の子供が
ガラスの壁をのぞき込む
その中では青い舞台の上で
光の円が舞い踊る

母親が戻ってきて
子供の手を引きながら去っていった

慌ただしく優美な夜
夢は自転車に乗って駆け抜ける



雪どけ

屋根を伝って
水滴が流れ
小さな音を立てながら
地面に落ちる
空は青く澄み渡り
柔らかい風が通り過ぎる
耳をすませば
かつて白い雪だった
無数の水の粒が
さよなら
さよならと
笑いながら
流れゆく音が聞こえる



雨の日の記念碑

緑色の街路樹の根元に
赤いけしの花が咲く
曇り空の合唱に濡れた
雨の日の記念碑

私は傘をさして
歩道橋の上に立ち
灰色の朝の霧の中で
友達を待っている

彼は約束した
二年後か三年後の
こんな雨の日に
一人静かに首をつる

ぶらさがった彼の下を
何人もの人が通り過ぎ
錆びついた昼下がりを乗せて
時計の針は回り続ける

その時空は晴れて
街は夕日の色に染まる
駐車場の金網に重なる
街路樹の黒い影

私は傘を閉じて
歩道橋の上に立つ
アスファルトの水たまりに映る
午後の青い空



紫陽花

恵みの雨が通り過ぎた
空は晴れ
日の光が降り注ぎ
木々の葉に残された雨の雫が
光を浴びながら歓喜の声を上げる

草木は伸びる
空へ
空へ向かって

風に揺れる葉の音は
生命の溢れる歌声

紫陽花が花開いた
今この時を待ち望みながら

まだ湿り気が残る
朝の空気の中で揺れる小さな命を
風が優しく包み込み

未来への種を宿しながら
紫陽花は咲き誇る
青空に溶けていくように



地図

世界の果ての
小さな町にある
入り組んだ道のその先を
上って下りてまた上ったあたりに
人知れず残された楽園

角を曲がると
子供たちが駆け回り
老人が微笑む

北の山の向こうと
南の砂漠の向こうに
終わることのない憎しみがうごめく中で

人々は
生き
愛し合い
歌い
祈りを捧げる

繰り返す憎しみの果てに
たとえこの世界が消えてなくなるとしても
今日ここで誰かを愛することには
きっと意味があるのだろう

地図を広げて
世界を細かく切り分けた
思想が崩れ溶けていく

永遠に終わらない今日
世界の中心に立って
ひとり
泣いた



かつて

小さかった頃は
日が沈むと一日が終わった
赤く染まった雲が空に浮かび
夕日が木々の上に燃える

また明日ねと
友達が帰っていく

待って
もう少し待って
まだお別れはしたくない
そうして暗い道を
歩きながら帰った

大人になった今
昼も夜も慌ただしく動き回る
仕事を終えた帰り道
西日に染まった街を見ながら
ふと立ち止まり
昔と変わらない空を見上げると
消えゆく今日を追いかける
子供がひとり



希望

夜の星が輝くのは
暗闇の中にあるから
希望を感じるのは
悲しみの内にあるから

学校に飾られた
小さな光
作り物の星が
子供の顔を照らす

星を手に取り
熱さもない無機質な光を
じっと見つめる

小さくても
壊れかけていても
作り物の希望でも
それに向かって
人は何度でも立ち上がる

何度でも
何度でも



美しさ
無数の糸が織りなした
かたち

双曲線でも放物線でもない
かたち

人はそれを見て言う
あの人は美しいと

美しさは
ものを越えて妖精のように飛び交い
人の心に呼びかける
私は美しいと

ものは何も語らずに
美しさを乗せて歩く
ものが壊れる時に
美しさは地に落ちる

限られた時の中で
咲いては散りゆく美しさが
世界を照らし

地に落ちた
かつて美しかったものは
誰にも聞こえない歌を口ずさみ

空に向かう花にも
道の上に落ちた花びらにも
静かに雨は降り注ぐ


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