【インタビュー】西本願寺で働く人たち/vol.7
大切な人との別れに寄り添う、大谷本廟(おおたにほんびょう)の仕事
祖父の言葉に背中を押されて進んだ僧侶への道
ーー僧侶をこころざしたきっかけを教えてください。
神戸のお寺の長男として生まれ育ったので、祖父と父がお寺でお勤めをしていたり、ご門徒さん(信者)の家にお参りに行く姿を近くで見ていましたし、母からは「お寺を継ぐのよ」とよく言われていました。反対に父は「やりたいことがあればしたらいい」と言ってくれましたが、私はお寺を継ぐことに違和感はなくて。物心ついた時から、毎日ではないですが、夕方のお勤め「お夕事(ゆうじ)」もしていましたね。
ーー代々、お寺を継がれているんですか。
もともと兵庫県の宍粟郡(しそうぐん・現在の姫路市)に本寺があったのですが第7代目の住職が神戸に説教所を開き、その後寺院となり、阪神淡路大震災の直前に今の場所に移ったと聞きました。幸い、うちのお寺は壁に多少ヒビが入っただけで潰れませんでした。その後は一時的に救援隊の方々の宿泊所及び遺体安置所となり、祖父と父がお経をあげていたそうです。
ーーとても辛い思いをされたんですね…
私はそのとき1歳だったんですが、その日たまたま母の実家の島根県のお寺にいたので被災しなかったんです。しかも父はいつも家族三人で並んで寝ていた寝室に1人で寝ていて。いつも父が寝ていた場所に家具が倒れてきたそうです。1人だったから真ん中に寝ていて助かったと…もし私と母がいたら、きっと父は大怪我をしたんじゃないかと思うと本当に恐ろしいです。
ーー偶然が重なって、ご家族が助かったんですね。僧侶になろうと決意したのはいつですか?
決意したのは、高校生の時です。文系・理系の選択をするときに、今後お寺を継ぐ、つまり仏教や浄土真宗のことを学んでいくことを考えると文系を選択すべきだと思って。その時に自分の進む道が見えた気がしました。
また、お寺の住職だった母方の祖父に言われた言葉も大きかったと思います。祖父は私が高校を卒業する直前に亡くなったのですが、お見舞いに行ったときに私の手を強く握りながら「立派な僧侶になるんやぞ」と言ってくれました。その時、祖父の言葉に応えられるように頑張ろうと心に決めました。今でも握られた手の感触を覚えています。
学び多き西本願寺へ
ーーその後、龍谷大学に入学されたんですね。大学卒業後、お寺を継ぐという選択肢もあったと思うのですが、なぜ西本願寺の職員になられたのでしょうか。
私の父は龍谷大学を卒業した後に「勤式(ごんしき)指導所(現・中央仏教学院 研究科勤式課程)」に入所して、声明(しょうみょう)や作法等について学んでからお寺に戻りました。私も同じ道を進むと思っていたのですが、色々なことを改めて考えた結果、父も元気なので、2人でお寺のことをするほどではないと。しかし、お寺を継ぐという気持ちでここまできたので、今から他の職種に就くというのは考えられなかったんです。
とはいえ、私ももう少し学びを深めたいという気持ちはあったので当時の勤式指導所に入りました。お寺の後継者も多く、話を聞くうちに「西本願寺に勤める」という道が見えてきました。
西本願寺に勤めるということは、地方にある浄土真宗本願寺派の別院(べついん)や教務所(きょうむしょ)勤務になる可能性もありました。西本願寺は大きな組織なので部署ごとに役割が分かれておりますし、日本全国のどこに配属されるか分からないため、決定の時はドキドキしていました。
ー一そして、西本願寺の勤務になったんですね。
そうなんです。西本願寺で働いてみて、たくさんの学びがあると感じています。初めは宗派の寺院活動支援部に配属になったんですが、お寺(宗教法人)を運営する上で必要な事務手続きについて学ぶことができました。
そのあとは、大谷本廟の担当になり、現在は参拝奨励係として参拝に来られた方の応対にあたっています。ご門徒さんと接することが多いため、日々学びだと思って励んでいます。
大谷本廟の仕事
ーー大谷本廟で、建部さんはどのような仕事をしていますか。
大谷本廟には参拝奨励係と納骨管理係があり、私は参拝奨励係をしています。主な仕事は参拝者の対応・受付業務です。受付では、納骨や読経の申込のほか仏事相談などを受け付けております。
仏事相談では、身内やご親族が亡くなられた後どのように納骨すればいいか、また、お墓じまいの相談など主に納骨に関する様々なご相談をお聞きしています。大谷本廟は、浄土真宗の門徒の方のための納骨所ですので、納骨には所属のお寺の証明が必要になります。そういった事務的な手続きの説明なども行っています。
大谷本廟のホームページは下記からご確認ください。
大谷本廟には、三つの納骨方法があります。1つ目は、親鸞聖人のご遺骨が納められている「祖壇(そだん)」のお側への納骨。2つ目は、祖壇左側に広がる「大谷墓地」への納骨。3つ目は、屋内の納骨所「無量寿堂(むりょうじゅどう)」への納骨。受付で読経の申し込みをいただきましたら、読経もさせていただきます。
土・日・祝日やお盆やお彼岸の時期はもちろん、毎年11月の紅葉シーズンは納骨や読経の申し込みをされる方が多いんですよ。
大谷本廟には、全国各地から、本当にたくさんの方々がお参りになられます。職員にとっては毎日行っている仕事でも、参拝者の方にとっては大切な故人の御命日であったり、人生の節目での参拝であるため、もしかしたらその方にとって一生のうちで最後の参拝かもしれないという事を考えながら、懇切丁寧な対応を心がけております。
ーー建部さんはそれ以外にも、基幹システムの刷新業務に携わっているんですよね。
はい、そうなんです。西本願寺の「DX推進プロジェクトチーム」と一緒に大谷本廟への参拝者の情報を管理できるシステムの構築を行っています。今まで経験したことがない業務であるため、一からシステムを構築することの難しさに頭を抱えております。
ーーお寺でなぜ、こういったシステムが必要なのでしょうか?
ご門徒さんが「いつ参拝されて、どんなことをされたのか」などの行動データを集約することで、どのような困り事があるか、今後どんな対応が必要なのかわかるようにするためです。今後は、参拝される方々に寄り添った細やかな対応を、システムの助けを借りて実現していければと思っています。
ーー大谷本廟で働くことで、どのようなやりがいを感じていますか。
無事に納骨が終わって、参拝者の方が「ほっとしました」と言ってくださった時に、この仕事をしていてよかったと感じます。納骨はその方の人生にとって大きな一つの区切り。その大切な場面でお手伝いができてよかったなと思っています。納骨を通して浄土真宗のみ教えにも触れていただけますし、私自身も参拝者の方々からいろいろとお話を伺い、日々勉強させていただいております。そのようなご縁をいただけているのが、やりがいですね。
基幹システムの刷新業務も、ご門徒さんがこれまで以上に本願寺と大谷本廟を身近に感じていただくことを目的に行っているので、少しでも良いシステムが出来るよう、日々業務に励んでいます。
僧侶が推す!京都のおすすめスポット
ーー建部さんの思う、大谷本廟の見どころを教えてください。
総門を入ってすぐの正面に「仏殿」という大谷本廟における本堂があります。内陣中央の阿弥陀様は、蓮(はす)の華の形をした蓮台の上にのっています。仏教では、私たちがお念仏を称える姿は、泥の中から蓮の華が咲く様子に例えられます。泥のようにドロドロとした煩悩を抱える私たちが手を合わせてお念仏を申すうちに、いつしかそこに美しい蓮華が咲いている。そんな様子を思い浮かべながら、ご参拝いただければと思います。
境内には四季折々の植物(桜・蓮・紅葉・ソテツ・牡丹・アジサイ・金木犀・ツツジ等)を楽しむことができますし、花噴水のお花もその時々で変化しています。自然で囲まれた大谷本廟ならではの魅力を堪能しながら境内を散策してみてください。
ーー京都で、おすすめのスポットがあれば教えてください。
私は音楽鑑賞・美術鑑賞が趣味なのですが、気になる展覧会があれば、「京都市京セラ美術館」に足を運んでいます。1933(昭和8)年に開館し、公立美術館として日本で現存する最も古い建築なんですよ。
大谷本廟からは少し遠いですが「大山崎山荘美術館」もおすすめです。印象派の画家であるクロード・モネの『睡蓮』が展示されています。私は印象派の作品が好きなのですが、光を描いた印象派と「無量光仏(はかり知れないほど広がる光の仏)」である阿弥陀如来に、何か共通点を感じているのかもしれません。建築も素敵で、美術館に行くまでの道も雰囲気があります。観光客もあまり多くないため、ゆったりとした時間が過ごせますよ。