FIFA女子ワールドカップ 2023 日本代表対スペイン代表 レビュー
FIFA女子ワールドカップ 2023 日本代表対スペイン代表は4-0で日本代表が勝ちました。
プレータイムをコントロールしながら選手を起用
まずこの試合のポイントを上げるとするなら、選手を入れ替えたことです。予選リーグ3試合を通して感じたのは、選手の起用については、対戦相手を見据えつつ、ある程度決めていたのではないかということです。
山下、熊谷、南はフル出場、右の清水は2試合ほぼフル出場なので、この試合は60分を目処に守屋と交代。右センターバックは相手によって、スピード対応なら石川、ビルドアップで押し込むなら三宅、対人なら高橋と使い分けます。
長谷川と長野のコンビが優先順位は高いものの、ボールを奪う相手なら林を使い、この試合は2試合ともに12kmほどを走っている長谷川はベンチスタートにする。左ウイングバックは遠藤と杉田を併用。藤野、宮澤、猶本の3人のローテーションは本来は浜野がいれば4人で回していたと思いますが、浜野が怪我をしたので3人で回し、フィットネスで一番無理が効く猶本のプレータイムが増えたのは対戦相手との兼ね合いもありますが、チーム事情も大きいと思います。猶本がチームにフィットしているのは好材料です。そしてFWは田中と植木を使い分けています。
こうした選手起用からは、プレータイムと強度をコントロールしながら、コンディションを損なうことなく勝ち上がろうとするチームの考えが見え隠れしますし、元々決めていたことのような気がしました。浜野が起用できなかったことは大会前からは想定外だと思いますが、ある程度計算したとおりに選手を起用できているのではないかと思います。
素晴らしかった植木と林の守備
この試合で素晴らしかったのは植木のボールを持っていないときのプレーです。スペイン代表の中央のDFがボールを持った時、植木は必ず相手のアンカーと呼ばれる中央のMFとの間に立ち、パスコースを限定します。このプレーによってスペイン代表の中央のDFは自ずとサイドもしくはインサイドハーフへのパスを選択せざるを得ず、選択肢が制限されています。
スペイン代表の中央のDFが植木を外したり、自らドリブルでボールを運ぶと、今度は宮澤や猶本といった選手が少し距離を詰めて牽制します。パスコースの選択肢もないし、ボールを運ぼうとするとボールを奪われそうな嫌な位置に日本の選手がいる。こうした感覚をスペイン代表の選手は味わっていたはずです。
望んでいるタイミングでパスが出てこないので、ボンマティやプテラスやエルモソといった選手たちは自陣側に動いてボールを受けるようになり、彼女たち中央のエリアでプレーする選手のボールを受ける位置がどんどん下がっていくので、サイドの選手も少しずつ下がっていく。こうしてボールは持てるけど全然運べない、という状況を作りだす起点となっていたのは植木でした。
植木や2得点を挙げた宮澤に注目が集まりがちな試合ですが、僕がPlayer Of the Matchを選ぶとしたら林を選びます。この試合は林の強みである相手からボールを奪うアクションの強度の高さと、強度の高いアクションを繰り返せる実行力が効果的でした。
スペイン代表のような相手と戦うなら、ボールを一度奪いにいって諦めているようではダメですし、奪いにいって奪えなかったら直ぐに戻らないと自分が奪いにいって空けたスペースを相手に使われてしまいます。林が素晴らしかったのは、ボールを奪いにいったあと、素早く戻って自分が空けたスペースを埋めるアクションを怠らなかったことです。
上手くいった試合にこそ課題は散らばっている
4-0の勝利という結果だけに目を向けると、特に直すところもないし、プラン通りに進んでいるのであれば問題ないと思うかもしれませんが、プラン通りに進んでいるときほどネガティブに考えて問題点を洗い出して改善策を考えることが必要です。逆に上手くいってないときほど出来ていることに目を向ける。ファンは逆でもよいですが、チームの中にいる人はファンと同じ考えではいけません。スペイン戦のような試合こそ、何が出来なかったかを考えたほうが良い試合だと思います。
この試合で気になったのは、日本代表がボールをもっと持てると予想していたのですが、予想以上にボールを持つ時間が短かったことです。ボールを持たずとも相手をコントロール出来ますが、ボールを持つことで少し体力を温存することが出来ます。主体的に動くほうが気持ちは疲れないからです。
ボールを奪った後にカウンターは仕掛けることができましたが、ボールを持って、本来日本が得意とする相手の間に立ち、ウイングバックを上手く使いながらボールを運んでいくプレーはほとんどみられませんでした。日本がボールを持ってパスを繋ごうとすると、スペインの選手が取り囲んでボールを奪う。そんな場面が何度かみられました。スペインがボールを保持した後に相手陣内に運ぶ動きが遅かったのでチャンスは限られましたが、ボールを奪った後に時間を作り、自分たちの立ちたい場所に立ち、ボールを運ぶ。そういうプレーが出来たのは、1点目くらいではないかと。この場面ではボールを奪った後に、ダイレクトでウイングバックの清水にパスを出した高橋のパスが起点となりました。このプレーは素晴らしかったです。
ただ、自分たちが立ちたい位置に立てて優位な状況でボールを保持できたとしても、スペインの上手くパスコースを消す守備によって、日本代表はボールを上手く運べませんでした。DF3人にFW3人がマークし、サイドのFWがウイングバックへのコースを消し、中央の林と長野にはボンマティとプテラスがマンツーマンで対応。アンカーがコースを限定しつつ、猶本と宮澤への縦パスはDFがカットする。日本のDFがボールを持ったときのスペインの守備は素晴らしく、日本代表に対してどのように対応すればよいのか、対戦相手にとってはよいヒントになったのではないかと思います。
次の対戦相手のノルウェーもスペイン同様に4-3-3を採用してきます。スペインのようなパスワークはありませんが、FCバルセロナfeminiで10番を着け世界最高の右ウイングだと思っているグレアム・ハンソンがいます。1人でチャンスを作れる選手がいるので楽な相手ではありません。
ここまで順調に進んでいるチームだからこそ、細かい破片のような課題が散らばっています。こうした課題は見つけづらいのですが、今のうちに見つけて除去しておかないと、大きくなってからでは遅いのです。
ここからは選手の力が急激に上がることはないので、持っている力をいかに回復させるか、相手の力をいかに発揮させないか、といったスタッフの力も問われます。ここからがスタッフの腕の見せ所。少しでも長くこのチームのサッカーが観たいし、次の試合も楽しみです。
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