MS&ADカップ 2023 なでしこジャパン対パナマ代表 レビュー

MS&ADカップ 2023 なでしこジャパン対パナマ代表は5-0でなでしこジャパンが勝ちました。

テレビ放送と女子サッカーを取り巻く環境

試合のレビューを書く前に2点女子サッカーに関するトピックスについて書いておこうと思います。

まずFIFA女子ワールドカップ 2023のテレビ放送について。

結果的にはNHKが放送するということで、多くの人が望む結果になったと思います。関係者の皆様は本当に調整が大変だったと思いますので、御礼申し上げます。

なかなか放送が決まらなかったのは、FIFAが女子サッカーの価値が上がっていることに乗じて放映権料の値段を上げたこと、日本国内の需要の問題など、様々な問題が報道されましたが、この話があまり出ていないなと思ったので伝えておくと、ラグビーW杯、バスケW杯と大きなイベントが続くので、代理店やメディア関係者といった調整を進める人材の稼働が抑えられなかったり、スポンサーがスポーツ協賛に使える費用の枠を抑えられていなかったという点も無視出来ないと思います。アメリカとの違いは認識しておいたほうがいいと思います。

女子サッカーはまだまだラグビーやバスケに比べると優先順位が低く、オリンピック以降スポーツビジネスにかけられるお金や人材が減っているであろう現状で、女子サッカーに確保できる人やお金が少なかったことは想像できます。

本来なら何年も前から準備しておくべきことで、日本のサッカー関係者はWEリーグを設立したりして手を打っていたのですが、なかなか打った手が様々な理由で機能していなかったというのが現状です。関係者としては手一杯だったことは想像できます。こうした現状を踏まえると、関係者の努力不足を叩くのは(特にサッカー関係者が)お門違い。いかに関係者内で女子サッカーが選択肢の上位に入るように、関係者の便益をきちんと作って提供できるか。価値を届ける場所を作って発信できるか。そこだと思います。

そんな状況を踏まえて行われたパナマ戦ですが、観客動員は10,206人でした。

河島さんの問いに、僕は「数ではなく質で判断するとよい」と答えたいと思います。試合中の観客席の映像を観ているとJリーグを普段観ている観客とも違い、家族連れや、サッカーをやっている女性や小学生が数多く座っていました。立ち上がって応援するというよりは座って選手のプレーを楽しむという、Jリーグではあまり観られないが、海外の女子サッカーの試合の観客層にとても近かった試合ではないかと思いました。女子サッカーの今後を考える上で、とてもよい試合だったのではないかと思います。

チームとしてチェックしたいことはチェックできた試合

さて、試合の話を。この試合に臨むにあたっていくつかチームとしてチェックしたかったポイントがあるはずで、その目的は果たせた試合だと思いました。

僕がチームとしてチェックしたかったのでは?と思う点は以下になります。

  1. チームの連携の確認。特にハイプレスとミドルブロックの使い分け。

  2. 石川瑠音にプレータイムを与えてパフォーマンスをチェックする

  3. 遠藤のコンディションをチェックすること

  4. 交代やバックアップで出場する可能性がある選手(清家、田中、林、浜野、猶本、高橋)のコンディションの確認

  5. メンバーが入れ替わるとどのくらい連携が機能しなくなるのか

本当はもっとあると思いますが、この5点は最低含まれていたのではないかと思いました。

まず「チームの連携の確認」ですが、これは想定通りだったと思います。ビルドアップ時にDF3人と長野と長谷川のパス交換で相手を食いつかせ、宮澤と藤野が縦パスを受けてボールを運ぶプレーはスムーズに連携出来ていたと思います。特に宮澤の立ち位置と受け方は素晴らしかったです。

宮澤が上手く受けられるのは、遠藤が相手DFの背後を狙う位置に立っているからだし、田中が背後を狙っているからだし、藤野がわざと下がらずに相手を引っ張っているからでもあります。一方清水は少し低い位置をキープして相手を牽制する。こうしたボールを受ける選手以外の連携を駆使して上手くボールを運んでいるのが今のなでしこジャパンの特徴です。

だから、メンバーが代わったり、ボールを必要以上に持つ選手がいたり、能力が高いけど他の選手と違うテンポでボールを持ったり、「私はこちらがいいと思う」という選手がいると、途端に機能しなくなってしまいます。とても繊細な連携が求められるサッカーなのです。

そして、DF3人のパス交換はその連携の起点とも言えるプレーなので、メンバーを入れ替えるということはなかなかリスクが伴う行為でもあります。この試合では石川がプレーしましたが、U20で池田監督の下でプレーしていたこともあり、上手くプレーしていたと思います。石川が交代した後ライバルのはずの三宅と言葉を交わしていたのが印象に残りました。こういうところがなでしこジャパンの良さだと思います。

遠藤は今週帰国してすぐ試合、という強行日程ではありましたが、45分でもよいので、どのくらいプレーできるのか確認したいという監督やスタッフの意図を感じました。アメリカの整った施設でコンディションを整えたことがプラスに出ていると思います。再発防止のテーピングを巻いていましたが問題なさそうです。

上手くいかなかった点をあげるとしたら、交代選手が入ってからテンポが遅くなったり、ミスが増えた点だと思います。特に左ウイングバックの清家は少し中央寄りの立ち位置を取ったり、浜野との連携があまり上手くいかず、何度かミスを繰り返しました。

林も悪いプレーはしてませんが、長谷川に比べるとどうしてもテンポが落ちるし、前にボールが運べなくなるという課題も出てしまいました。

ただこういうミスをすることが大切で、ミスをしたから改善点も見つかるし、最後の最後までもっと良くしようと試行錯誤出来ます。どう起用すればいいのか。どういう選択肢があるのか。最後の最後まで試行錯誤することが重要です。チームとして現在地が確認できた、という点では良い試合だったのではないかと思います。

なお、本番前に強い相手と対戦するべきでは?という声もあると思いますが、今回はヨーロッパやアメリカでの開催ではないため、ヨーロッパやアメリカ大陸のチームは直接ニュージーランドに入ること、日本は必ずしも早めに現地に入る必要はないこと、強豪国とは2023年に入って、スペイン、イングランド、ブラジル、アメリカ、デンマークなどと対戦しているので十分経験を積んでいること、を踏まえると今回の相手はパナマでよかったと思いますし、パナマも簡単に勝てる相手ではありませんでした。いいマッチメイクだったと思います。

今のなでしこジャパンがどう戦うのか楽しみ

僕は今のなでしこジャパンのサッカーをとてもリスペクトしています。選手同士の細かい連携を駆使してボールを運び、トランジションではどのチームよりも激しくフェアに戦い、最後の最後まで諦めずにプレーする。今の女子サッカーの潮流とは異なるからこそ、十分戦えるサッカーだと思います。

このサッカーでどこまで勝ち抜けるのか。僕はとても楽しみです。


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西原雄一
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