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2017年J1第26節 清水エスパルス対川崎フロンターレ レビュー「人は次にやることや、頼りにしてくれる人がいるから、前に進める」

2017年Jリーグ第26節、清水エスパルス対川崎フロンターレは、3-0で川崎フロンターレが勝ちました。

この試合の勝因は、「試合開始から全力でプレーしたこと」だと思います。ACL準々決勝2ndレグに負けた要因の一つに、浦和レッズが積極的に攻撃を仕掛けてきたにもかかわらず、動きが重く、相手の攻撃を受け止めるだけになってしまい、ボールを奪われてもすぐに相手に囲まれてボールを奪われてしまいました。選手の動きが重かった事が、勝敗に大きく影響しました。敗因の根本的な要因を聞かれたら、僕は「選手の動きが重かった」事が要因だと答えます。

素晴らしいプレーを披露した森谷と長谷川

この試合の川崎フロンターレは、ACLの反省の反省を活かして、「まずはアクションを起こそう」と意識して試合に臨んでいることが、選手の動きから感じられました。この試合のトラッキングデータを分析すると、川崎フロンターレの全選手合計の走行距離は、112.067km。清水エスパルスの112.659kmとほぼ同じです。ボールを保持しているチームが、相手チームと同じくらい走れば、勝利を得るのは難しくありません。

「アクションを起こそう」という意識をプレーで表現してくれたのは、森谷と長谷川です。

森谷のこの試合の走行距離は、11.327km。チーム1位の走行距離を記録しました。中央のMFでプレーしながら、「出して、受ける」を何度も繰り返したことで、他の選手のアクションも増え、ACL準々決勝2ndレグでは見られなかった、テンポの良いパス交換が見られるようになりました。

森谷は他の選手が疲れていたときや、大島や中村のコンディションが悪い時に、中央のMFで起用されることがありました。森谷の持っている能力は決して中村や大島に劣っているわけではありませんが、森谷が試合をコントロールする役割を担った時に限って、森谷は期待に応えるようなプレーを披露出来ていませんでした。ただ、ようやくこの試合でサポーターの期待や、チームの期待に応えるプレーを披露してくれました。

長谷川のプレーも効果的でした。左サイドMFでプレーしましたが、効果的だったのは左サイドから中央に入ってボールを受ける動きです。長谷川は2017年シーズンは、サイドから中央に動いてボールを受ける動きのタイミング、スピード、場所が改善されたことで、スタメンでプレーする機会が増えました。

この試合の清水エスパルスは、ボールを保持されている時の守備に問題を抱えていました。

この試合は、清水エスパルスのFW(特に北川)と右サイドのミチェル・デュークと右サイドバックの村松の3人が、自分からボールが遠い場所にある時に動きを止めるため、彼らが動きを止めている間に、マークを外しておけば、彼らの背後や横といった危険な位置でボールを受ける事が出来ました。この清水エスパルスの守備の弱点を利用して、上手くボールを受け続けたのが長谷川でした。

危険なエリアを守れていなかった清水エスパルスのコーナーキックの守備

この試合の川崎フロンターレは、コーナーキックの時に狙う場所を決めているように感じました。左サイドからのコーナーキックはキッカーに近い場所(ニアサイド)、右サイドのコーナーキックはキッカーにから遠い場所(ファーサイド)を狙って、キッカーの中村はボールを蹴っていました。

清水エスパルスは、ニアサイドに長谷川悠が立ち、長谷川悠を頂点として4人がひし形のような位置を取り、他の選手は相手選手にマンツーマンで守ります。4人もの選手がマンツーマンで立っているのは、ニアサイドというもっともゴールに近い場所でヘディングされないようにするためです。

ただ、この守り方は弱点があります。いくら人数をかけて守っていても、走り込んでくる選手に対応する時、動きについていけずに先にボールに触られてしまう可能性があるからです。特に清水エスパルスのニアサイドを守る長谷川悠は、ボールの動きしか見ておらず、相手選手の動きを把握していないように感じました。ニアサイドを守る人は、ボールを見ながら、相手選手に先にボールを触られないように素早く動ける選手が必要です。

そして、清水エスパルスの選手はマンツーマンのマークが上手い選手が多くないようです。このような優位な状況が揃っていれば、最近の試合でセットプレー時に相手のマークを外すのが上手くなっている谷口によいパスが供給されれば、きちんと決めてくれます。

川崎フロンターレはコーナーキックの時は、小林と中村という2名をニアサイドに立たせて、あとはマンツーマンで守ります。2人を立たせているのは、2人が相手のパスコースを読んでクリアするのが上手いからです。特に中村はニアサイドに供給されたパスのクリアが上手い選手であることは、あまり知られていません。川崎フロンターレのコーナーキックの守り方は、機会があればもっと詳しく調べて紹介したいと思います。

なお、セットプレーに関する事を詳しく知りたい方は、「元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論」という本に詳しく書かれているので、興味がある方は読んでみてください。

人は簡単には切り替えられない

この試合はACLの敗戦から中2日で迎えた試合です。

人はショッキングな事があった時、簡単に次の物事に前向きに取り組めるわけではありません。失恋した時、仕事で失敗した時、受験で失敗した時、多額の損失を出した時など、人生を揺るがすような出来事があった後に、「切り替えて前を向いて進もう」と言っても無理です。じゃあ、どうやったら切り替えられるか。僕も色々試しましたが、結局3つの方法しかない事に気がつきました。

1つ目は、「身体を動かす」事です。岩政大樹さんが「メンタルの問題は身体を動かして解決する」と語っていましたが、メンタルや身体の疲れを完全に休んで解決しようとしても上手くいきません。むしろ、適度に身体を動かして、汗をかき、身体と頭が疲れると、次第に他の事に目が向くようになります。僕は落ち込んでいる時は、フットサルをしたり、ランニングをしたり、ジムに行く予定をいれたり、身体を動かす予定を積極的に入れるようにしました。その方が、何もしないで休むより、よほど気分転換になるのです。

退場した車屋は試合の翌日に、リカバリーと呼ばれる軽いトレーニングとは別に、少し身体を動かしたというニュースを読みました。これは、気分転換にとてもよい効果があったと思います。

2つ目は、「とにかく何でもよいから予定を入れる」事です。人は切り替えようと思っても、切り替えるスイッチが身体についているわけではありませんから、簡単に切り替えられるわけではありません。じゃあ、どうするか。僕がおすすめするのは「とにかく何でも予定を入れる」事です。好きなことでなくても良いと思います。こんなときこそ、むしろ嫌いだけれど、面倒だけれど、やらなきゃいけないことがあると、無理矢理にでもやらなければならないので、嫌なことを忘れて取り組まなければなりません。無理矢理にでも何かをやっていれば、次第にショッキングな事を上手く消化できるようになります。

僕は意識していたわけではありませんが、ブログを書くということ、日本スポーツアナリスト協会の活動をすること、セミナーに話を聞きに行くことなど、こうした活動が日々の仕事のストレスから切り替える助けになっていたのかもしれないと感じる事がありました。ブログを読んだ方の感想に励まされたりすることもありました。逆にブログを読んだ方に批判されて落ち込んだ時は、サラリーマンとして週5日会社に行くことが、ストレスを和らげてくれていたと思いますし、家族がいることも大きかったと思います。

とにかく身体を動かし、何かをする。何かやっていれば、少しずつ周りの人が支えてくれます。そうやって、人は立ち直っていくしかないし、切り替えるしかない。そう思っています。

川崎フロンターレに既に「勝つ文化」はある

中2日で迎えるアウェーゲームは、チームにとって簡単な試合ではなかったと思います。ただ、チームのスタッフ、選手、そしてサポーターが、ACLの悔しさを晴らしたくてうずうずした状態で迎えた試合でした。たまたま中2日で試合があった事によって、落ち込んだ気持ちを立て直し、悔しさをぶつける事が出来たのかもしれません。そう考えると、川崎フロンターレは目の前に転がっていたピンチをチャンスに変える事に成功したと言えます。

「勝つ文化がない」という言葉を目にすることがあります。しかし、「勝つ文化」の定義は曖昧です。「勝つ文化」がなければ勝てないのであれば、勝ったことがないチームは、いつまで立っても勝つことが出来ないということになってしまいます。僕はそうは思いません。

僕なりに「勝つ文化」があるチームというのは、自分の中にある「動機」を大切にし、何をしたいのか、どう実現させたいのか、誰とやりたいのか、いつやりたいのかを真剣に考え、結果的に人からの「信頼」を積み重ねていけるチームの事です。それは、試合に勝つ、負けるという事以前の話です。

どんなチームでも試合に負けることがありますし、鹿島アントラーズが「勝者の文化がある」といっても、それはJリーグでの話で、レアル・マドリーのようなチームと対戦した時は別の話です。

勝つ、負けるという事は、文化を評価する基準にはなりません。基準になるのは、自分の中にある「動機」を元に起こした行動で、人の「信頼」を積み重ねていけたかどうかです。この考え方はブランディングの基本的な考え方でもあるのですが、この考え方に照らし合わせれば、川崎フロンターレは十分「勝つ文化」を築き上げているチームです。

どんな道のりを歩んだって、どこかにはたどりつく。
はじめに急ぐ者も、あとで走る者も、ずっと歩いていく者も、
どこかにはたどりつくもんだ。
(「ほぼ日手帳」セフティ・マッチの金の言葉より)

次は中3日で再び清水エスパルス戦です。登録メンバーも限られているので、メンバーの入れ替えは最小限になると思いますし、何より3日前に戦った相手に対して、もう一度勝つのは簡単ではありません。今回は清水エスパルスの方が、悔しさをぶつけようと気持ちを高めて向かってくるはずです。楽しみです。

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西原雄一
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