3-3-8 (昔話)カタカナの化けくらべ
昔々の話です。ある日,カタカナが集まった時に,だれが一番化け上手かと話題になりました。カタカナが化けて漢字ができるからです。
ア イ ウ エ オ
カ キ ク ケ コ
サ シ ス セ ソ
タ チ ツ テ ト
ナ ニ ヌ ネ ノ
ハ ヒ フ ヘ ホ
マ ミ ム メ モ
ヤ ユ ヨ
ラ リ ル レ ロ
ワ ヲ
ン
ア カタカナの化けくらべをするのだろう? ここにはカタカナでないのがいるんじゃないか? 「ヘ」はひらがなじゃないのか?
イ それに「エ」「カ」「タ」「ニ」「ハ」「ロ」は漢字なのにここに来ているだろう。 エ(こう),カ(ちから),タ(ゆう),ニ(に),八(はち),ロ(くち)じゃないか。君たちにはもう出ていってほしいな。
コ まだいるよ。「オ」は才(さい)とそっくり。
エ 何を言うんだ。それはぼくたちがとても上手に化けたからだよ。王(おう)だって,「エ」に横線を入れた形だし,並(なみ)の中にも「エ」は使われている。
カ ぼくだって同じだよ。池(いけ)の中にぼくがいるのに気づかないのかい? 巾(はば)だってぼくとたて線で作っている。
ロ それこそ困(こま・る)よ。ボクは大きくしても困(こま・る)に使えるし,員(いん)のように平べったくしても使える。ボクこそいろいろと化けているから便利なんだよ。
ハ ボクも八(はち)とそっくりとしか言われないのは残念だな。例えば平(たい・ら)と言う字は平󠄁と書いても良いんだよ。まるで向きがちがう「ソ」と同じなんだ。だから半(はん)は半󠄁でも通用する。まるで別のカタカナに化けられる。
ソ そんな〜。ぼくは「ハ」と同じだと言うのかい?
ツ そう思われても仕方ないよ。ボクの形・・・「ノ」くんちょっと手つだってくれる…漢字で使われる爫はもともとは爪(つめ)からきた形なんだ。ボクたちはまるで反対の向きに化けられるのさ。
タ ボクはまだ漢字に化けている。「へ」の言い分を聞いてみようよ。
ヘ ひらがななんて言うなよ。ボクが化けて,↙↘の順に書くから,𠆢の形になる。𠆢は合(あ・う)や金(きん)などに使われている。それに於(お・ける)の𠆢はもともとは𠂉の形だったんだ。𠂉まで化ければ,旗(はた),旅(たび),放(はな・す)と出てくる。
ニ ニ(に)じゃ,カタカナなのか漢字なのかわからないと言われそうなので,ボクも言いたい。=と同じ長さに化ければ,目(め)や貝(かい)に使われている。それに書くときはちょっと斜めになるから於(お・ける)や雨(あめ)の中にもボクはいる。そうだ「ン」だってボクが化けたんだよ。
ン ん? 呼ばれたかな? ボクは50音表の中ではいつも仲間はずれ。でもね,ばかにしないでおくれ。「シ」が漢字の中では流れる水を意味しているなら,ボクは凍った水だ。流れていないから「ン」になっている。「冷」「凍」のように冷たい時に使われる。冬(ふゆ)だって,冷たいのだから,昔は「冬」と「ン」で書いた。それに次(つぎ)だって意味から考えれば二番目を意味している。だから昔は「ニ欠」と書いていた。それが化けて今の形になった。ボクと「ニ」の見分けがつかなくなったろう。
ミ 二(に)の次は三(さん)でしょう。「ミッ・つ」というぐらいだから,ボクが化けて三(さん)になる。春(はる)や王(おう)など使われている。反対向きなら彡となる。参(さん)や形(かたち)などに化けているんだよ。
ホ ホッホッホッと笑いたい。ボクは木(き)に化ける。もともとは保(ほ)という字の木の部分からボクはできた。だからホとよばれている。木(き)はすごいよ。松(まつ)のように漢字の左がわにきたり,東(ひがし),本(ほん),末(すえ),未(み)のようにお腹のところで使われたり,果(か)のように下にきたりする。ホこそ一番化けているよ。
ノ でもなぁ,一番使われているのはやっぱりボクじゃないかな? ボクのような1画の「ノ」「フ」「レ」は人(ひと),火(ひ),手(て)などはば広く使われている。
フ いくら使われていても,ここは化けくらべだから化けなくちゃダメだよ。ボクは1画でも建(けん)の時は,2回続けて使われている。道(みち)だってフだと気づかない人が多いんじゃないかな?
レ ボクも上手に化けているから気づかれていない。㇄と化ければ,山(やま)や直(ちょく)となる。まるくなってはねれば,兄(あに)や色(いろ)になる。心(こころ)だってボクが化けているからできた漢字だよ。
ル いやー,申しわけないけど「ノ」や「レ」ががんばってくれるとそのままボクが化け上手になる。だってボクはその両方からできているからね。四(よん)や西(にし)などはボクが化けたわけさ。
ヤ もともとは也(なり)がボクになっただけれど,信じてもらえないかもしれない。本当にボクそっくりなのは皮(かわ)や波(なみ)の時ぐらいだものな。
セ ごめんね。ボクももともとは世(せ)からできたのだけれど,池(いけ)や地(ち)はボクの方が似ているかもしれない。
ト 「ヤ」と「セ」がもともと似ているし,どちらかというとひらがなに似ているね。
ナ 〈カタカナとは何か?〉をはっきりさせておこう。そうしないと,○×△□といろいろな記号まで参加させろと出てくる。
メ あのー,×はボクのことを言っているのかな?
ム あのー,△はボクのことを言っているのかな?
ロ あのー,□はボクのことを言っているのかな?
ナ ああ,そういえば君たちはもうそうなっているね。
ム 知らない人が多いけど,今だって「ある日」の意味で「○月△日」と書く人がいる。昔も同じ,「ある人」の意味で△が使われた。「私(わたし)」を表すのに△から「ム」となった。
メ 本の中には〈「ム」は「牟」と言う漢字の最初の部分から生まれた〉とか〈「メ」は「女(おんな)」の最後の部分から生まれた〉としか紹介していない。だけど,いろいろな使われ方があった。それだけ化け上手だったんだ。
キ カタカナは漢字の片方…一部分からできたと思っている人が多い。でも,実際には機(き)から「キ」ができて,「須」から「ス」ができた。全体を省略してできたカタカナだって多い。今の形で見ようよ。ボクは今の形が好きだ。だって,牛(うし)や筆(ふで)などボクが化けている。扌と化ければ,折(お・る)や指(ゆび)などもっと使われている。
ス そうなんだよな。漢字の持つ意味と読み方のうちの片方を使っているんで片仮名なんだよ。この形になっても久(ひさ・しい)で使われているから良かった。
イ えー,そうだったの! ボクは漢字の片方だからカタカナだと思っていた。イって伊(い)の片方だろう。それに,「イ」は別名「にんべん・・・人偏」と言われる。つまり,人(ひと)に化けられる。そうなれば,「足(あし)」の最後の2画の部分や,𠂉の形に化けられる。
ウ 上半分でも片方って言うのかな?
ヌ もととなった漢字を言うのはやめないか。ボクなんか又(また)という漢字があるのに使われていない。それを言い始めると,知識のある人がいばることになる。今の形からいかに化けるかで決めよう。冬(ふゆ),夏(なつ)など,「ノ」と一緒になって化けている。
ヨ でもある程度知ってもらわないと,ボクの場合,ズルって言われそう。雪(ゆき)や急(いそ・ぐ)を昔は「雪󠄁」「急󠄁」と書いた。つまり,「ヨ」も「
」も同じあつかい。書(か・く)や筆(ふで)など他でも使われている。下を長くしても「彐」は緑(みどり)と使われる。ボクは普段は短いけど,化ける時はのばすんだ。
ナ 「
」ならば,ボクだって化けられる。右(みぎ)も左(ひだり)も同じ「ナ」じゃないんだよ。右(みぎ)のときは右手を表している「
」が化けて,「ナ」となった。左(ひだり)のときは「
」と左手を表していたんだ。書き順で先に書くのは「コ」の部分と決めたから,右(みぎ)と左(ひだり)の「ナ」の書き順が違うんだ。
ヲ 字の由来と書き順は別だからな。同じ形なら同じ書きじゅんでいいと人は考える。ボクの書きじゅんを知っている人なんかほとんどいない。
リ えっと,「フ」に「一」じゃないの?
ヲ ボクもそれでいいと思っている。そうなれば,臼(うす)でも使われる形になる。でも,「ニ」に「ノ」と3画で書くように教えられている。
ワ 書き順なんか書きやすいように書けばいいんだよ。これからのデジタル社会は手書きをする人がほとんどいない。欧米社会を見てみろ。日本より先にタイプライターが普及していたから手書きで書くのなんかサインの時だけだぞ。
マ ボクの化け方は手書きを活字として生まれた。手書きでは「
」と「マ」となっているけど,もともとは「令」だった。「令和」の公示の時に習字の「令」を見て〈アレッ?〉と思った人がいたようだけど,「卩」の方が正字。命(いのち)だって,口篇に令をつけた字だったのに,空いているところに口が入ってこの形となった。
リ 「刂」に化けたぐらいではバカにされそうだけれども,「刂」は「りっとう」と言われる。「りっとう」とは「立つ刀」の意味。つまり,「刂」は「刀(かたな)」に化ける。分(わ・ける)や切(き・る)などボクが化けているんだ。
・・・未完