3-3-6 字素の名前
初めてかん字を学ぶ者にとって,繰り返し出てくる字形が将来習うであろうかん字かどうかは不明である。よく見る形はすべて「字素」として扱う方が良いだろう。
この場合,ナカカナや知っているかん字には呼び方で困ることはない。しかし, 禾,夂,爫,𠂉,䒑,隹,
のような形はどう読んだらば良いのだろう。
「禾」を「ノギへん」と言う人は多い。しかし,「禾」は音読みで「カ」と読むかん字である。(植物を意味している。読み方を知らないので「ノギへん」と言っている)しかし,「ノギへん」と言ったらば,「委」の時は「〈ノギへん〉をかんむりに書く」と言うことになってしまう。・・・? へんをかんむりに書く?
同様に「夂」も「すいにょう」とか「ふゆがしら」と言う人が多い。これも,音読みで「スイ」「シュウ」と読むかん字で辞典に収録されている。
もともと,「へん」「つくり」「かんむり」「にょう」・・・等の名称はかん字における相対的な位置(⿰⿱⿺・・・等)を表すことばである。そして,字素はどの部分にくるかは決まっているわけではない。
「夂」は「処」の時,「にょう」の位置であっても,「夏」では「あし」の位置になり,「冬」では「かしら(かんむり)」の位置だ。名称に「へん」「つくり」「かんむり」「にょう」・・・等のことばを入れるのは混乱する。しかし,あまりにも「へん」「つくり」「かんむり」「にょう」などの名称を入れた呼び名が普及している。
そこで,使い分けとして,よく知られている字を元にして,「○の上」とか「○の下」と言うことを提案する。「へん」「つくり」「かんむり」「にょう」などの名称は使わない。
「夂」は「冬の上」となる。(または「夏の下」)
字を左右に分けた時は,「○○の左」「○○の右」となる。
従来からの名称でも「○の〜」と呼ぶようにすれば意味するものが明確になるだろう。
以上のことから命名してみる。
禾・・・ノギ(ノ木),私の左
夂・・・ノヌ,冬の上
爫・・・ノツ,受けるの上
・・・ツワ,栄えるの上
𠂉・・・ノイチ,毎の上
・・・ナニ,青の上
䒑・・・ソイチ
隹・・・集まるの上
字素の名称は統一して決めたわけでなく,多くの人が使うものが残っていく。使い始めは多くの人が納得のいって連想ができるものだった。しかし,時代とともに理由が判らなくなった。「隹」が「ふるとり」なのも,昔の人にはそれなりに判った。
(「トリ」を意味するものが3つあり,「鳥」は〈(比較的大きな)トリ〉,「隹」は〈(比較的小さな)トリ〉,「酉」は〈暦につかわれるトリ〉だった。そこで,「〈奮(ふる)い立つ〉に使われるトリ」が「ふるとり」と言われた)
初学者にとって判らないのならば,教育的には分かりやすい名称にしたい。
「へん」「つくり」「かんむり」「にょう」などの名称を入れる呼び名が必要とされるのは,「○を〜」の場合だ。
「イ」は「人をへん」と言う。かん字を変形させるときに使うのだ。