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[学校おとぎ話] ソーラーバルーンを追いかけろ
昔々の話です。
昔は土曜日でも学校は授業をしていました。
その土曜日の昼下がり、普段なら生徒は入れないはずの屋上に、ぞろぞろと生徒が集まってきました。手に持っているのは、黒い大きなポリ袋とセロハンテープ・延長コード・扇風機と秘密めいています。ニコニコ顔の生徒が全部で20人ほど集まって来るなかで、その準備は進められました。
実はこの生徒たちは、3日前に終了した中学校の文化祭で「ソーラーバルーンをあげよう」の企画で参加したグループでした。しかし、当日が雨だったため、今日に延期したのです。
その年の仮説実験授業の大会で初めて「ソーラーバルーン」を知った先生は「これをぜひやってみたい」と思いました。巨大な気球(?)を空にあげようとする内容でワクワクしたのです。
「授業の中でどう取り上げられるかなぁ」と考えていると、そこへ、中学校の文化祭の企画の話が持ちかけられました。
「今年は3年に1度の大文化祭で、グループごとの参加も計画しているのだけど、先生も何か企画してくれない?」と、文化祭担当より話しかけられたのです。
「しめた! これを利用すれば、どうどうとソーラーバルーンがつくれるぞ! しかも予算を請求すれば、生徒会から出るし、これはチャンスだ!」
考えてみれば、こうやって物を作るという企画は実に文化祭らしい企画になるし、ソーラーバルーンなら遠くからでも目立つから、いいPRになります。何よりも先生の欲望が充たされます。
さっそく、クラスの元気者に「どうだ、先生とソーラーバルーンをあげないか?」ともちかけました。それまで、仮説実験授業を受け、しかも、べっこうあめを作ってきた仲なので、生徒の方も何が何だかわからないけれども、のってきたのです。
文化祭前の土曜日に体育館の半分を借りて,作ったのでした。
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文化祭当日に上げられなかった子どもたちが改めて集まったのです。
天気は少し薄日がさすけれど、曇りです。風が少しあります。でも心配するほどではないでしょう。ソーラーバルーンの口をあけて、扇風機で空気を入れます。風がふくたびにふわふわしてみんなで大騒ぎをしておさえます。そのうちに「どうもこのひっぱられる力は風のせいだけではない」と感じるようになってきました。
「よし、大丈夫だろう」と口を縛りました。上げようとしたら、糸がこんがらがっています。「なおさなければ・・・」と思ったら、風がまた吹いてきました。「飛ばされないように」と糸を持ったときでした。
「ブツン」とソーラーバル ーンをつないでいた糸が切れてしまったのです。
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実はこの糸、柳田くんが「 絶対、大丈夫だよ。こんなにでかい魚を釣っても切れないのだから」と推薦した釣り糸だったのです。
「しまった」と思った瞬間、 ちょうど風下にいた本間くんがすかさず、ジャンプ!
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ソーラーバルーンをしっかりとつかみました。
「やったー」と思った喜びも束の間、しっかりとつかんだのはよいが、ビニルが破けてしまったのです。
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それでも飛んでいったソーラーバルーンが今度は学校のテレビアンテナにぶつかる!
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「あっ、アンテナがこわれる! どうしよう!」と思った瞬間...
ベリベリと(音はしなかったが...)やぶけながら、ソーラーバルーンは、なおもあがっていった!
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起こった事態の重大さに気がつき、すぐに追いかけることになった。屋上から玄関まで階段をかけおり、はるかかなたに飛んでいく、ソーラーバルーンを追い掛ける。
待てー!
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先生も職員室の先生に報告をしてから、すぐに後を追い掛けました。
後から聞いた話では、この時校長は、窓から「やぶけながら飛んでいくソーラーバルーン」を見て...。
「もし、道路の真ん中に落ちて、車がぶつかったら...。交通事故の原因になったら、どうしよう...」と考えました。
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「う~ん、警察から電話が来たら、どうしよう」。と悩んだそうです。
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穴があいているので、〈いつかは落ちてくる〉の予想通り、しばらく上がり続けた後、約30分後、ソーラーバルーンはようやく落ちる気配を見せはじめた。
西に東にゆれながら、そのたびに4車線の道路を左に右に横切りました。
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ほっとしたのもつかの間、最後のピンチが訪れました。落ちてくるソーラーバルーンが電線の上に来たのです。
この時、頭にうかぶのは最悪の事態ばかり...。
ただ、祈るばかりでした。
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しかも、運悪く、電線の上になってしまった!
「ひっかかったー!」と思った瞬間...。
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するりと電線をすべって、下までおりてきたのです。助かったー!
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降りてきたソーラーバルーンは、〈もう2度とおまえを離さないぞ〉とばかりに思わずだきしめてしまうほどでした。
その後もソーラーバルーンは話題になり、子ども達も顔をあわせると、「先生、またソーラーバルーンを作ろう!」とさそってくるのでした。
子どもっていろいろなハプニングがあったほうが、楽しんでしょうね。昔々の話です。
ソーラーバルーンは現在ではテトラポッド型で作るようになっています。
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詳しくは『ものづくりハンドブック2』(仮説社)を見ましょう。
昔々の話でした。