2-6-1 書き順の原則・・・『筆順指導のてびき』から
昔は公用字としての楷書だけでなく,通用字として行書も使われていた。行書は「行くが如く」書くもので,1字を1画で書いていた。つまり,書き順は見れば判った。
学校教育が始まり,公用字の教育が始まった。本来,書き順は書きやすく,整った字が書けるように工夫されたものだ。書きやすさは人により違っている。そのため,「上から下へ」「左から右へ」の原則が守られていれば,個々の字は人により違っていて当たり前だった。
つまり,学校でも先生により書き順が違っていた。これは,学習者にとって困るものだった。そこで文部省が『筆順指導のてびき』(1958年)を作成して,「学習指導上の観点から,一つの文字については一つ」に示した。この本では書き順の原則が次のようになっている。
大原則1 上から下
大原則2 左から右
原則1 横画がさき
原則2 横画があと
原則3 中がさき(例外あり)
原則4 外画がさき
原則5 左はらいがさき
原則6 つらぬく縦画は最後
原則7 つらぬく横画は最後(例外あり)
原則8 横画と左はらい
特に注意すべき筆順 (8つある。省略)
原則では説明できないもの
原則と言いながら,例外も多く,何がなんだか判らない。合理的なシンプルな体系になっていない。
だから,文部省でも書き順を示しながらも,「正しい」書き順とは言っていない。もともと先生や教科書を指導するものだったので,「従来行われてきたものを誤りとするものではない」とある。それだけ書き順は人により違って当たり前のものだった。
さらに言うならば,この手引きは指導者=教師を束縛するものであって,学習者=子どもを束縛するものではない。〈子どもは違っても良いが,指導者は違ってはいけない〉と言うものだ。学力テストに利用するのは間違った使い方だ。