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樫本大進&ラファウ・ブレハッチ

by noriko


 先日の第九の演奏会に引き続き、樫本大進さん(バイオリン)とラファウ・ブレハッチさん(ピアノ)の演奏会に足を運んだ。
 演奏が始まって最初の一、二音で「えっ?」心の中は驚きに満ちていた。バイオリンの音を聴いたことがないわけではないけれど、桁違いの美しさに耳を疑うほどだ。
 最近、タイミングよく樫本さんの演奏をテレビで観ることができ、演奏会に向けてさらにワクワク感が増して、楽しみにしていたわけだが、こんなに違うのか……と改めてホールで聴くことのできる感謝の気持ちがあふれてきた。
 今まで聴いたことのない音色を、何と表現すればいいのだろう。透き通っていて、華やかな音が場をやさしく包み込んでいた。小きざみに激しく、力強い場面でも、決して押しつけてくることがない。──華やかで、力強いのに圧がない。不思議。花に例えるなら何だろう。私にとってはバラの花束というよりは、春の光の中に咲く満開の桜をイメージした。
 世界で活躍されているお二人の演奏をこんなに身近で聴けるなんて夢のようだ。
 今回の演奏会は、文化庁が行っている「子供鑑賞体験支援事業」ということで、十八歳以下の子供は無料で聴けるとのこと。保護者も半額だそうだ。そんなステキな制度があったんだ……。
 聴いてみようという気持ちさえあれば手に入る極上の音楽。たとえ音楽の知識が乏しくたって、ただ聴いて、感じればいい。簡単。もしも子供の頃の私がここにいたなら、人生の指針がまるで違っていたかも知れない、とさえ思った。
 で、今の私はというと、これまでの人生があってこそ出会えた演奏会ということになる。それをじっくり噛み締めよう。巡り合った状況を喜び、人生の糧にし、これからの自分を育てていこう。続けざまに鑑賞した二つの音楽会が、私に何をもたらしてくれるのか楽しみだ。十分もたらされたはずだが、時間差でやってくる宝物だって、きっとあるはずだ。




by reiko


 日が沈んでから家を出て、路線バスで会場へと向かう。建物の灯りがキラキラしていて、わざわざイルミネーションなどで飾り立てなくても、十分に綺麗な12月の夜の街がそこにあった。

 ヴァイオリニスト・樫本大進さんとピアニストのラファウ・ブレハッチさん。2人のコンサート。
 場所は水戸市民会館のグロービスホール。4日ほど前に同じ場所で佐渡裕さん指揮の第九を聴いたばかりだったので、客数2000人が入るホールのステージに、たった2人の演奏者が立っているというコントラストが際立って感じられ、贅沢な空間だなあと思った。
 私はクラシックコンサートにあまり慣れておらず、演奏開始まで体が緊張していたのだけど、演奏が始まると、音の美しさによって強張りがほどけていった。ドキドキして硬くなっていた体の細胞が、ほわっと緩んで、温かくなっていく感じ。綺麗な音色ってすごい。

 途中にあった休憩時間に、ラファウさんがピアノの調律をしていたのが印象的だった。音が合っていなかったのか、休憩後の曲目に合わせて最適な音を調整していたのかわからないが、ご自身で音合わせをしている様子に、なるほど、音楽を極めるプロフェッショナルとはこういうことなのか、と思った。音に対して、丁寧に向き合うからこそ、綺麗な音を奏でられるのだろう。

 音が美しすぎると、異次元を感じるのだな……と聴きながら考えていた。
 例えば、ヴァイオリン。失礼な話だが、そこまでではない演奏を聴くと、ヴァイオリン経験がない私でも『何となくやれば弾けるのではないか?』と、自分がその楽器を弾くことをイメージさせてくれたりする。
 でも今回聴いた音は、もう意味がわからない次元という感じだった。
 こんな音を出すことって可能なの? どんな技術? もはや魔法では? みたいな。
 満点の星空を見ている心地だった。この手で触れることのない美しいもの。
 凄い……と呟くことしか出来ないというか。

 本当に聴けてよかった。あんな音が存在することを知り、体感できたことが何よりありがたい。
 綺麗な音を聴いた翌日は、冬の寒さと乾燥でシオシオ・クシャッとしている肌が、なぜか綺麗になっていた。




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