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ウルトラマラソンを語ろう #6 村岡ダブルフルウルトラマラソン100kmの部(暫定コース)

追記…崩落のあった林道が復旧される見込み。2025年からは元のコースでの開催のようです。なので、暫定コースをもとに書いたこの文章は古くなりました。復旧、おめでとうございます!

 今回は村岡ダブルフルウルトラマラソンについて、語ろうと思います。初秋に兵庫県で開催される、「西の横綱」とも呼ばれるウルトラマラソンです。ダブルフルと言いながら、メインは100kmで、他に88km、64km、43kmのコース(たまに120km)もあります。とにかく高低差が激しいこととエイドが手厚いこと(食べ物とボラさん)が特徴です。参加するランナーも何度も参加している猛者が多めで、レベルが高いです。

 この大会は2022年に野辺山を完走できたらチャレンジしようと思っていた大会でした。やっぱり、東西両横綱を制覇したいしね。なんだかんだあって、チャレンジは2024年になってしまいました。会場となる香美町は、私が住んでいる愛知県からは距離もあって、時間もお金もかかります。なので、完走・リタイア拘らず、最初で最後のチャレンジと思って参加しました。そうなると、完走のための下準備は必要。同行してくれる友達を誘い、耐暑トレーニングをし、徹底的なコース研究をして大会に挑みました。結局、13時間とちょっとで完走。自分としては好タイムと思いますが、順位としては後ろの方です。

東西横綱制覇!

■村岡の難易度

○大会の概要

 村岡ダブルフルウルトラマラソンは、兵庫県美方郡香美町で開催されるウルトラマラソンです。例年、9月の最終日曜日に開催され、2024年は9月29日開催でした。100kmの部のスタートはAM5時制限時間は14時間です。今回で第27回となる歴史ある大会でして、そのキツさに熱烈なファンがいます。ランナーもボランティアも常連さんが多いようで、エイドでは「また来たね」とか「去年よりキツい」とかの会話が聞こえてきます。古株ほどゼッケン番号が若くなるというのもその一因かも。

 2022年頃の台風による崖崩れのために、従来のコースの一部が長期通行不能になっています。そのため、2023年と2024年の100kmの部は、暫定コースでの開催となりました。一般に林道の補修には(予算措置の関係上)時間がかかることが多く、ここ数年は暫定コースのままではないかと予想しています。一時的なコース変更では、難易度が下がることが多いのですが、村岡の場合は通常コースより累積高低が250mほど上積みされてよりきつくなり、挑戦しがいがありました。運営の方々、我々のことをよく判ってらっしゃる。

○完走率

 八ヶ岳野辺山ウルトラマラソンと飛騨高山ウルトラマラソンも含めて、直近2024年の完走率を比較すると下のような感じです。村岡と高山は曇り時々雨、野辺山はやや低めの気温の晴れ。やはり、曇・雨の完走率は上がりますね。この3大会では、一番完走率が低いのは、だいたい野辺山です。

2024年完走率

○野辺山との比較

 東西両横綱の野辺山と村岡、どちらがキツイかはいくつか考察されています。どうも、村岡のほうがキツイという意見が多めですが、完走率は野辺山の方が低いんですよね。私の感想は、村岡のほうがキツイと感じました。特に、長く傾斜のきついの掘り坂や暑さが応えます。野辺山の方がメジャーな大会なので、参加者層が広いから完走率が低いのかなと思います。いくつかの要因で、野辺山と村岡を比べました。

高低差 累積高低は野辺山が2080m、村岡が2800m(暫定コース)で、村岡の圧勝。ただし、野辺山は正確な累積高低が公表されていません。

 村岡のほうが勾配がキツイです。ただ、村岡はアップダウンが繰り返し来る感じに対して、野辺山は2ピークで上り・下りの距離が長いです。そして、下りの難しさは野辺山の方が上と感じます。

気候 残暑の残る村岡のほうが暑く、体力が必要です。丹後ウルトラほどではありませんが、気候としては野辺山の方が快適です。

エイド エイドの豊富さは村岡の圧勝。メニューのバラエティが豊富で、相当良いです。ただ、野辺山も悪いわけではありません。

走りやすさ 野辺山は標高が高く空気が薄く、すぐに息が上がります。また、野辺山には不整地区間があって、走りにくいです。一方、村岡は、路面などで特に走りにくい点はありません。

■村岡の走り方

 完走記は後にして、まずは完走のためにどう走ればというノウハウです。

○コース分割

 私は、ペースや疲労度の目安として、コースを序盤・中盤・終盤の3分割して挑みます。事前研究では、エイド毎に到着タイムを検討するのですが、本番ではざっくり3分割くらいの方がしっくりきます。村岡の場合、序盤はスタートから蘇武岳の登り始め(〜38km)、中盤は蘇武岳登り始め(38km)〜下り終わり(第三関門76km)、終盤は一二峠(「ほいとうげ」と読む、第三関門76km以降)と分けます。序盤はペースづくり、中盤はペースキープ、終盤は我慢と根性です。

○序盤(蘇武岳の登り始めまで(〜38km))

 スタートからしばらくは香美町の街中を走ります。日の出前のほの暗い道を、軒先につるされた提灯の明かりが道を照らしてくれます。短い区間ですが、とても気持ちよく走れます。その後すぐにハチ北スキー場に向かう、高低差約400mの上り坂がやってきます。早朝の棚田やスキー街を走るのですが、かなりキツいです。無理すれば走れる坂だし、脚を痛めない程度に走った方が良いのですが、序盤なので無理は禁物。ギリギリ完走ランナーは、8割走り2割歩く感じで行きましょう。

香美町のまちなか

 ハチ北スキー街からの下りは、傾斜がきつく道が細く、しかも曲がりくねっています。いわゆるハチ北ジェットコースターなので、スピード出しすぎと転倒に注意。ここは極力脚を使わないことを心がけてください。
 しばらくアップダウンがあって、猿尾滝往復のスライド区間になります。ここは木陰の中、清流脇を走るコースです。上り・下りも傾斜が緩く、コースで一番気持ちの良い区間です。次に蘇武岳が待っているので、脚と気分をリフレッシュさせる気持ちで走りましょう。この区間を4時間30分±15分くらいで走れれば良いと思います。

これは道から見える女郎滝

○中盤(蘇武岳登り始めから第三関門まで(38~76km))

 村岡最大の難所、蘇武岳往復の区間です。展望台からの眺めは最高ですが、あとは山中の道で、景色の変化は少な目。午前10時間に上りはじめ、下り終えたら午後3時という感じで、その間はずっと坂道です。この区間は6時間程度で走りきることを心がけてください。ペースでいえば、トータル9分30秒です。

  中盤からはタイムを意識する必要があります。40km地点を5時間展望台エイドのある47.5km地点を6時間30分での通過を目安に走りましょう。第2関門の56km地点で7時間30分(関門の1時間30分前)を超えると黄信号という感じです。ちなみに、この区間はGPSウォッチの表示距離と実際の距離がズレます。坂道が多く勾配が強い時にこういうズレが起こりまして、私のGARMINの場合、最終的に1.6kmほど短い距離を計測しました。

展望台からの眺めは皆無(残念)

 走るにはきつい上り坂ですが、走れるところは積極的に走ったほうが良いです。まあ、蘇武岳展望台までの上り坂は1~2割くらいしか走れませんし、展望台を越えた後も走れる上りは限られます。上り坂は、50歩走って100歩歩く感じで進みました。上り始めは勾配がキツいのですが、最高地点近くになると緩くなります。展望台のエイドを目指して頑張りましょう。そして、展望台エイドでしっかり脚を休めましょう。

 暫定コースの場合、展望台から第2関門まで片道8kmほどの往復があります。この区間も蘇武岳上りと同じくらいきついです。2023年の高低図では、この区間がほぼフラットに描かれていました。往復区間で脚を休めようと思っていたのに、期待を裏切られた方が多かったようです。

 蘇武岳の下り区間では、脚が残っていないことが多いと思います。下り初めは、疲れた脚をいたわりながら走りましょう。そして、下りの後半になると傾斜が急になるので、それまでに少しでも脚力を戻すように努めましょう。長い下りで脚を痛めがちですが、まだ二つ峠を越えなければいけません。

 下り終えたら第三関門の村岡小学校(76km地点)です。この関門は、欲を言えば9時間30分、ギリギリでも10時間(関門1時間~30分前)に通過するようにしましょう。そうすれば完走が見えてきます。

○終盤(第三関門からゴールまで(76km~))

 蘇武岳を下り終えればやっと終盤戦。根性論で走る区間です。ほんのわずかな平坦地がありますが、ここは一二峠往復に向けて脚を休める区間です。ゆっくりでいいので、歩かず走りきりたいです。

 一二峠は高低差200~300m程度、距離にして上り、下りとも約4kmの往峠越えを往復します。小ぶりな峠越えですが、終盤となるとなかなかキツい。「一二峠の往復ビンタ」と言われています。プログラムには、一二峠頂上付近に「萩山エイド」が記載されていたのですが、このエイドは実際にはありませんでした。この峠越えに1時間程度かかるので、水筒を持つか、手前のエイドでしっかり給水するようにしましょう。

  ここの往路の上りは、おそらく相当ペースが落ちると思います。上り坂は約4kmですので、キロ12分を超えないペースで頑張りましょう。走れるところは結構あります。一二峠の往路を終えれば、6kmほどのフラットなスライド区間があります。残り時間にもよりますが、ここも脚を休める区間です。スライド区間の復路の終わりが最後の第4関門(91.2km地点)です。ここの関門はできれば17時15分(関門15分前)通過が理想的ですが、関門ギリギリでも十分完走可能性はあります。

 最後の上りの一二峠復路。残り時間との相談で、この上りの4kmを走る・歩くをしてください。一二峠さえ越えれば、ゴールまで緩やかで走りやすい下り坂です。脚が売り切れていても走れますのでご安心を。

○私のタイム

 私のタイムはこんな感じでした。時間は丸めています。私は上り坂に強く、終盤もあまりペースが落ちない走り方なので、序盤は借金、中盤にわずかな貯金ができ、終盤からゴールには相当余裕がありました。それでも順位的には3分の2ほどの位置です。みんな、どれだけ速いんだろう。

私の関門タイム(2024年大会)

■設定ペース

 私が2024年に走ったときの予定ペース表です。耐洗紙という水に強い紙を使い、(インクジェットではない)プリンターで印刷し、それでも汗でぐちゃぐちゃになるので、2枚使いました。事前に高低図を見ながら上り坂、下り坂、平地で設定ペースを変えつつエイド間の時間設定をしています。ギリギリゴールを目指して、序盤に無理をして貯金を残すように作っています。終盤もペースをキープできる人や上り坂が得意な人は、前半をもう少しゆっくり目で良いと思います。

実際に使ったペース表(2024年大会)

■村岡完走のヒント

 村岡のコースは、終盤のペースダウンを考えれば、平坦地のペースで6分30秒くらいが必要。ウルトラマラソンにしては、かなりの脚力が必要になります。また、コースのほとんどが坂のため、ペースキープが凄く難しいです。自分なりの体感辛さを頼りに、坂の勾配に応じたペースメイクするスキルが必要です。また、脚が固まらないように、たとえ上り坂でも10分以上は歩き続けないことがコツだと思います。

 野辺山の時は、エイドの滞在時間を浪費しない方が良いと書きました。村岡の場合はエイドの補給食がかなり魅力的なので、少しだけエイド時間を堪能しても良いと思います。そのかわり、わずかな平坦部分で脚を休めましょう。ウルトラマラソンは、消耗と回復を意識して走るもの。普段の練習で、どのペースだと脚が回復するかを把握しておくと良いです。

 村岡は初秋に開催されるとはいえ、残暑が残ることが多いです。暑い頃のロング走や耐暑トレーニングが必要になります。7~8月の走り込みは本当にキツかったですが、やった方が良いです。

 つまらないことですが、疲労と暑さで胃がやられがちです。エイド食は柔らかめのもを選ぶ、できるだけよく噛むなど、胃をいたわるような食べ方をしましょう。また、状況に応じて、胃薬を飲むことも効果的です。私は、定期的にガスター10を飲んだので、ゴールまで胃が動いてくれました。

 ウルトラマラソンには故障がつきものです。関節や足底の痛み、胃が動かない、足攣りなど、薬で対処せざるを得ないトラブルもあります。確かに病気でもないのに薬を飲むことには抵抗があると思います。最終的には人それぞれのスタンスに任せますが、私自身、限度はありますが、薬を飲んででも完走したいと思っています。ウルトラマラソンは、事前トレーニングに時間と労力をかけ、参加のために相当なお金を費やしています。ですから、鎮痛剤は3回を上限に飲むことを許容しています。また、鎮痛剤の効果が出るのに1時間ほどかかるので、飲むならば事前に計画的に飲むことをお薦めします。それ以外にも、胃薬(ガスター10とキャベジン)はスタート時と途中1~2回飲みます。そのほか足攣り解消のコムレケアと、下痢止めのストッパは持って走ります。故障の備えはしっかりした方が良いです。

 ウルトラマラソンでは、よくザックを持つかどうかを悩むと思います。私はザックを持つとペースが落ちるので、できるだけ持たない派です。この村岡の場合、エイド間の距離が短く、エイドの給食が充実しているので、手持ちの補給食は最低限で良いと思います。実際、ザックを持っている方は少なかったです。

ゴール後の記念撮影

■2024年、村岡ダブルフルウルトラマラソン100kmの部、完走記

 以下は、完走直後にFacebookに書き込んだものをベースに、重複文章を省いた文章を転記します。なかなかリアルだと思います。

天候は悪くなかった

○序盤

スタート〜ハチ北

 5kmほど走ると、ハチ北エリアに入り、走れない勾配がチラホラと出てきます。当初ハチ北はたいしたことはないと思っていましたが、メチャキツかったです。他のランナーに結構抜かされてしまいました。

 15kmを過ぎると、今度はきつめの下りがやってきます。下りでもペースを上げられません。ただただ時間の借金が積み重なっていくエリアでした。まあ、序盤の借金は心配しなくても大丈夫。なお、途中で温かいピザを提供することで有名な私設エイドがあります。公式には載っていませんが、このピザはとても美味いです。

猿尾滝往復

 ハチ北を過ぎた30kmあたりから、川沿いに上り、猿尾滝を越えるスライド区間です。この区間は涼しくて、勾配も(村岡にしては)緩やかで、とても気持ちの良い区間でした。蘇武岳に挑む前の、一時の安らぎの時間だと思います。蘇武岳上りは40kmあたりから始まりますが、40km地点を5時間ほど(多少遅れても良い)で走るのが良い目安だと思います。

○中盤

蘇武岳

 蘇武岳上りの勾配は前半がキツく、後半は緩くなります。上り坂の距離は、野辺山の馬越峠とほぼ同じです。勾配は、馬越峠よりもキツく、千光寺よりは緩い感じ。これまで走ったウルトラの坂道では一番辛い登り坂でした。周りがほぼ歩いている中、走れるところは走ってタイムを稼ぎ、なんとか貯金生活に戻れました。

 さらに、村岡暫定コースは、蘇武岳最高地点から16kmの往復区間があります。高低図では大したことなく見えますが、なかなかキツイ坂です。下りもあるはずですが、感覚としてはずーっと上りです。一番メンタルが削られたのが、この往復区間です。並走したベテランランナー曰く、「昨年第2関門を1時間前通過では第3関門に引っかかった。1時間半前通過でないとまずい」とのこと。自分がまずいペースだったので、ちょっと貯金を積み増すつもりで、走れるところはすべて走りました。結局、蘇武岳往復に5時間半かけました。蘇武岳エリアは、6時間以内で越えるのが完走の目安だと思います。

蘇武岳〜一二峠

 蘇武岳を越えると、暫くの間フラットなコースです。この区間は、蘇武岳の疲労を抜く区間だと思います。最後の一二峠も相当きついので、あらかじめ平地の場合に設定していたキロ6分半〜40秒くらいで走りました。

○終盤

一二峠往路

 一二峠の区間は、エイドがが少ないです。ボトルを持っている人は、峠の手前のエイドで水の補給をおすすめします。持ってない人は、水分を多めに摂取するのが良いでしょう。一二峠は歩きが多めになるので、多めの水分をとっても走りにくくなることはないと思います。

 終盤にもなると、ランナーも疲労が濃くて、並走していても喋る気になりません。足を引きずるように、黙々と歩くランナーの列は、ゾンビの行進のようです。距離も勾配も蘇武岳程ではないのに、走りきれません。歩いて走ってを繰り返して、なんとか上り切りました。峠を超えたあとの下りは、走りやすくて気持ち良いです。

一二峠を下り終えるとすぐにエイドがあり、しばらくはフラットなスライド区間です。この区間は意外と長くて、かなりメンタルが削られます。

一二峠復路

 一二峠の復路は、すでに走った道だからか意外と短く感じました。傾斜が緩いのか、感覚が麻痺したのか、あまりキツさを感じませんでした。

 一二峠の復路を登りきったら、あとは下ってゴール。気持ちよく走れる区間ですので、最後の力を振り絞りましょう。ちなみに、今回の村岡は気温が低いこともあって、完走率は約75%とやや高めでした。

■最後に

 村岡ダブルフルウルトラマラソンは、歴史こそ長いのですが小規模な大会のため、情報が少なめです。それでも、コース情報を知っておかないとなかなか完走できません。暫定コースなのが残念ですが、ネット上でみられる村岡の情報としては、この文章が一番詳しいと思います。とても良い大会なので、少しでも参加者数が増えれば嬉しいし、少しでもウルトラランナーが増えて欲しいと思い、長文をしたためました。皆さんのランニングライフの足しになれば幸いです。

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