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ウルトラマラソンを語ろう #5 八ヶ岳野辺山ウルトラマラソン

 5月に開催される八ヶ岳野辺山ウルトラマラソンは、「野辺山を制するものは、ウルトラを制する」と言われるほどの、日本屈指の難コースです。これを初参加・初ゴールの後、「もう二度と走らない」と心に決めました。とはいえ、2025年も申し込んだので、次で3回めの参加になります。

 ネガテイブなキツさばかり言われがちですが、八ヶ岳・野辺山は高原リゾートですし、コースからの眺めはとても魅力があります。序盤は美しい山々や白樺の林、清々しい渓流を横目に走り、中盤以降は山村の風景や高原野菜の畑などの中を走れます。力試しもかねて、ウルトラランナーなら一度は走ってみたくなるコースです。

新緑の頃なので、森がとても綺麗。

■野辺山の難易度

 私の感覚ですが、私を含めてアラウンド4時間あたりの人が、調子が良ければゴールできる位です。フルでサブ4.5位の力量がないとキツいと思います。野辺山はどれだけキツイのか。コースの難易度は主観的になってしまいますが、客観的に見る場合、完走率と累積標高が適切な指標だと思います。

○完走率

100kmの部の、ここ3年間の完走率は次のようなものです。数あるウルトラマラソンの中では、完走率はやや厳し目。ただ、この大会は腕(脚?)に覚えのある猛者しかいないので、フラットな大会とは単純比較ができません。

八ヶ岳野辺山ウルトラマラソン100kmの部の完走率

 私が走ったのは2023年と2022年です。最初の2022年は、序盤が小雨でその後曇りだったと思います。馬越峠の上りで足を痛め、その下りは腸脛靭帯痛でほとんど走れませんでした。ゴールの2〜3km手前でGPSウォッチの電池が切れ、並走する人に時間を聞きながら、制限ギリギリにゴールしました。

 2023年は、最高気温が22度と、季節外れの暑さに見舞われた年でした。そのため、例年より完走率が低いです。このときの私は不調のオンパレードで、便秘・嘔吐・転倒・熱中症(脱水症状?)で、馬越峠の手前まではいつリタイアしてもおかしくない状態でした。脱水症状は、頻尿(ただし、出ない)を誘発するようで、途中、トイレを見つけるたびに駆け込みました。そんな状況でも馬越峠の上りで体調が復活し、その下りからは絶好調となって、15分程の余裕を持ってゴールできました。ウルトラマラソンは3回復活するといいますが、本当にそんな感じでした。

○累積標高

 公式HPでは、「累積標高は2000mを超える」と書かれています。いろいろな人が野辺山の累積標高に言及していますが、2080mといのが一番正確っぽい。今年の飛騨高山ウルトラマラソンの累積標高は、公式HPに2529mと書かれています。しかし、私のGPSウォッチの記録では、野辺山が2100m、高山(スキー場に行った旧コース)が1850mでした。私の感覚的なキツさを言えば、野辺山は高山の3割増程度にキツい。高低差については、今年高山100kmにエントリーしたので、今年確かめてみたいと思います。

100kmの部、スタート地点

■野辺山の走り方

 「地球の歩き方」っぽい書き方ですが、完走記ではなくてtipsです。

○大雑把なコース構成

 持論ですが、100kmの大会の場合、50kmまでが序盤、80kmまでが中盤、そこからが終盤、という3部構成がしっくりきます。20km地点でその日のペース(平地ペース)を掴みます。42.195km5時間、50km6時間を一つの目安(目標値)として序盤を走り、80kmの終盤で、最終関門に対して3時間残してたどり着けば、ギリギリでも完走できるという感じのざっくりしたペース配分です。

 野辺山の場合は、10~20kmあたりに平地がありません。なので、制限ギリゴールの力量の人(自分を含めて)は平地6:30ペースに決め打ちするしかない。そして、42.195kmと50kmの目標タイムは15分くらいは遅れても大丈夫。馬越峠までに挽回可能。ただ、80km地点で3時間を残すことは絶対のノルマと思った方が良いです。80km地点で2時間半残しだと、ほぼゴールできない。2時間45分残しだと無理とは言わないまでも、メーッチャクチャキツい走りを強要されます。具体的な走り方は次のような感じ。

○序盤(〜50km小海町エイド)

 スタート地点の標高が1350mで、序盤は1500mを越えるところが主戦場となります。20km手前の最高地点を越えるまでは、空気が薄く馬力が出ません。ここで変に焦らない方が良いです。また、ここの登り区間は舗装のない林道なので、少し走りにくいです。まあ、トレイルではないため、シューズは普通のロード用で大丈夫。

 最高地点から降りきると、約50km。急激な温度変化があって暑さが堪えます。スタート時点で寒いからと言っても暑さ対策は忘れずに。まあ、序盤はさほどキツイ訳ではありません。余裕を作っておかなきゃいけない区間。野辺山の地獄は中盤からです。

○中盤(50〜77km馬越峠頂上エイド)

 55km手前から始まる北相木村エイドの往復は精神的にキツイ区間。このあたりで完走できる・できないが判りはじめます。このコースの最初の踏ん張りどころ。できるだけ走りましょう!

 馬越峠は最大の難所です。長い長い上り坂が待ってます。本格的な登りが始まるのが68km以降。ここだけ全歩きも仕方ないと思いますが、歩き過ぎると脚が固まります。たまに現れる走れる区間は少しでも走ったほうが良いです。また、この区間は次のエイドにたどり着くまで時間がかかります。手前のエイドでしっかり給水するか、小さいボトル(150mlくらい)を持って走るのをおすすめします。

 これまでなら、馬越峠の頂上に11時間以内(3時間残し)でたどり着けば、完走が堅いといえました。2025年からコースが変わったことで、多分15分くらい前倒しになると思います。

○終盤(77km〜ゴール)

 馬越峠を超えてからの下りはとにかく急で長い!長い上り坂を超えてすぐなので、足の筋力がなくブレーキが効きません。下りが苦手な人は馬越峠のエイドでしっかり脚を休ませてから挑んだほうが良いです。また、否定的な意見がありそうですが、ロキソニンなどの鎮痛剤を服用するのも良いと思います。その場合、馬越峠にたどり着く1時間前(馬越の中腹あたり)で服用しましょう。

 馬越峠の下り坂を降りると、しばらくフラットの道が続いた後、ダラダラと長い上り坂が現れます。勾配はたいしたことないのですが、このあたりになると脚は疲労しきっていて、坂を走れなくなります。「こんなはずでは」と思ってしまう区間で、なかなかキツイです。

 野辺山の最後の試練は、「遠ざかるゴール」です。最終盤、一旦ゴールに近づいてから遠回りを強制されます。ゴールの声援が聞こえるのに、まだ距離は残るし、しかもゴールから離れていく。2025年のコースは、この区間が長くなる代わりに、ここに見どころを一つ置いてくれます。これが、吉と出るか、凶と出るか、走ってみて確かめます。 

■設定ペース

 私が2023年に走ったときのペース表です。基本は、高低図を見ながら上り坂、下り坂、平地で設定ペースを変えながらエイド間の時間設定をしています。終盤に走れなくなることを見越して、ちょっと前半がきつめのペース設定です。ギリゴールを目指す人向けですが、終盤が苦手な人向けだと思います。42km5時間、50km6時間、80km11時間という目安に忠実に作ってます。これを耐洗紙という水に強い紙に印刷し、本番では2~3枚持って走ります。なぜ、2~3枚かというと、耐洗紙でも汗でボロボロになるから。

2023年の八ヶ岳野辺山ウルトラマラソンのペース表

 この時は、23kmエイドで手持ちの塩ジェルとエイドのオレンジを食べたら急に胃が壊れて、林道端で嘔吐してしまいました。完走証の記録を見ると、こんな感じです。

10km 1:03、20km 2:27、30km 3:45、40km 5:05、50km 6:16、60km 7:54、70km 9:25、80km 11:01、90km 12:12、100km 13:43 

 20kmから70kmまでがダメダメで、70kmから90kmが復活&絶好調、最後の10kmはキロ9分ですが、歩き混じりだとこんなものです。せっかく作ったペース表とはぜんぜん違う走り方ですが、こんなものです。事前の計画通りには走れないことは判っているんですが、こういう作業をしてコースの特性を頭に叩き込むことが大切。

■野辺山完走のヒント

 野辺山はとにかく時間が足りないコースです。上で書いた設定ペース6:30は、ウルトラマラソンでは相当速くいです。エイドでも時間を浪費しないよう、手早く補給して出発すること。各エイドで1分ずつ切り詰めれば、トータル30分弱節約できます。そうでもしないとゴールにたどり着きません。

 林道の下りも馬越峠の下りもとにかく長いです。膝を壊さないように下りの練習はしておいたほうが良いです。不整地があると言うことで、シューズに悩む方もいると思います。大多数の方はロード用のシューズを使っていますし、本当に辛いところは上りの林道ではないので、トレランシューズはお薦めしません。

 エイドではしっかり食べたほうが良いです。胃が弱い人(私もその手合い)は、素直に胃薬を飲むことをお薦めします。走ると胃がチャポチャポ揺れて固形物が食べられなくなる人、そんな人にはガスター10がおすすめ。スタート前に1錠、あとは4時間毎に1錠ていう感じ。水無しで飲める錠剤もあります。私はこれだけで終盤の失速がなくなりました。

 薬で言うと、鎮痛剤を飲むかどうかはご自身でよく考えてください。一応、ロキソニンの効用には、筋肉痛や関節痛が含まれているので、飲めば一定の効果はあります。しかし、病気でもないのに鎮痛剤を飲むことには大いに疑問があります。このあたりは各自のご判断に任せます。私の場合、幼少時からの持病に足底筋膜炎があり、併せて腸脛靱帯痛の緩和のために、効果持続時間を考えながら鎮痛剤を服用します。身体に悪いのは重々承知ですが、そもそもウルトラマラソンって身体に悪いものなので、何を今更って感じです。

 上に続きますが、「故障した、もう無理だ、今日は運が悪い」とか思わないこと。痛いとか気持ち悪いとか脚が動かないとか、それが普通なんです。それらを予防しつつ、起こってしまったら未練がましく対処しながら走るのがウルトラマラソンです。「ウルトラは3度復活する」と言われるので、一度や二度の不調は治せます。ジェルより薬を持って走りましょう(飲まぬに越したことはないが)。

当時の持ち物(すべてランパンに収納)

■終わりに

 とにかくウルトラマラソンを走って頂きたいとの思いで、色々・長々と書きました。ハードルの高さもあって、超マイナー競技ですが、ゴールしたときの達成感はどんな競技よりも上だと思っています。それに、コツさえわかれば、フルマラソンより楽ですよ。

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