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保田與重郎

今、保田與重郎を知っている人は、どれくらいいるのだろう。
私がはっきりその人だと認識したのは、岡潔集の編纂者だと知った時からだ。
過去に、私に知っていると答えた人も、よくよく聞くと名前を知っている程度で、作品はあまり読んだ事が無いという人がほとんどだった。

しかし、人生とは面白いもので、折々、事毎に人に薦めていたら、会ったことがあると云う人に出会えた。
とても驚いたが、貴重なお話が聞けて嬉しかった。
元々、自分が好きなことや興味があるものは他人には理解され難いだろうという自覚はあったので、誰かに伝えたいとか知って欲しいと思うことはあまり強くはなかったけれど、こんな事もあるのか…と、発信していく事の大切さを知った。

もしも今、興味を持って読んでみたいと思っている人がいたら、代表作はオススメしない。
何故なら難しすぎるから。
保田與重郎の為人を知らずに読むには、分かりにくい比喩や表現が多すぎるから。
検索で出てくるのはきっと『日本の橋』や『芭蕉』などだと思うが(今「保田與重郎 代表作」でググッたら『後鳥羽院』『木丹木母集』『南山踏雲録』が出た)それらから入れば、多くの人は厭気が差してしまうのではないかと思う。
若い頃よりも晩年の作品の方が、平易な言葉が多く表現も分かりやすいので、『戦後随想集』や『日本の美術史』、『日本の文学史』などから読まれることをオススメしたい。

ああ、それから『規範国語読本』という、昭和38年頃に初版された国語の副読本がある。
これは中高校生向けの国語教科書だが、佐藤春夫の監修で、よくよく厳選された古今東西の美しい文章が載っている。
です・ます調の解説が附してあるが、全て保田與重郎の筆によるものだ。あれほど丁寧で分かりやすい説明は、保田作品全てを通しても貴重ではないかと思う。
棟方志功の表紙も嬉しい。
この一冊を通読すれば、日本の国語というものがどういうものかが分かるので、文学好きの方には是非手に取っていただきたい。

この本は、GHQとそれに追従した御用学者や、文部省による戦後の教育瓦解の企みに、心を痛めた先生方が「子供達にまともな教科書を」との想いで編纂された。
日本の未来を担う子供達に向けて、心ある先生方の慈しみの情から生まれた教科書である。

子供の頃『ポピー』という学習教材を、母がとってくれていた。
その国語の小冊子を、私は毎月楽しみにしていた。
嵩張るので、読んだ端から捨てられて、どんな作品だったかは、何一つ覚えていない。
しかし、心が温まるような、時に切なく哀しいような、そういう読後感は今も心の奥に残っている。

この『ポピー』が『全家研』という団体の通信教材で、『全家研』は『新学社』という会社の中の組織だと知ったのは、保田與重郎を本格的に読み始めた後だった。
新学社の初代総裁は、佐藤春夫。
全家研の初代総裁は、第16代京都大学総長の平澤興である。
そしてこの新学社を創ったのは、保田與重郎とそこに集った若者達。

私は子供の頃から、知らず知らずに、先生方のお心に触れていたのかと思うと、「教育」というものがどれほど大切かを、しみじみと実感した。

#教育 #国語 #文学
#日本のこころ #日本に祈る

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