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運に嘆くガチなカードゲーマーに「グウェントに運要素はない」(No RNG in GWENT)という聖句の真意を教えたい

この記事はかつて存在していた朝日新聞系ゲームメディア「GAMEクロス」に寄稿した初心者向けのグウェント解説記事(2021年4月)を再編集したものです。最後に2024年10月現在の視点からの増補を加えてあります。

「土地カードが来なかった」「10連続後攻かよ」「なんだこの運ゲー」

そんなカードゲームにつきものの運要素を嘆くデジタルカードゲーム(DCG)愛好家が、日本だけでも3000万人ぐらいはいらっしゃるのではないでしょうか。

軽口はさておき、「グウェントに運要素はない」(No RNG in GWENT)という言葉を聞いたことはありますでしょうか。これはグウェントというゲームを嗜む紳士淑女が自信と若干の皮肉をこめて使っている言葉です。

「グウェント」というのは「GWENT: The Witcher Card Game」(以下、グウェント)のことです。この記事を見つけてしまうようなカードゲーマーの皆さんなら、グウェントについて知ってはいると思います。もしかしたらプレイしたこともあるでしょう。

しかし、カードゲームにつきものの運要素を「ない」と言い切ってしまう、この言葉の真の意味と奥深さを知っている人は、おそらくほとんどいらっしゃらないと思います。

そこで、グウェント公式パートナーの一人として、日夜グウェント情報を発信しております、わたくし 日本グウェン党 が「運要素はない」の真の意味をご説明させていただきたいと思います。


DCG として異質なグウェントの基本ルール

最初にグウェントをご存じない方のために、簡単にグウェントについてご説明します。
グウェントは RPG史に残る屈指の名作として知られる「The Witcher 3: Wild Hunt」内のミニゲームとして生まれました。

元祖グウェント:このころはRPG要素の強いミニゲームであった。とにかく強いカードを集め、密偵カードを使ってそれらをデッキからより多く引っ張ってきたほうが勝てるというわかりやすいゲームだった。冒険そっちのけで元祖グウェントにハマるゲラルトさんは多かった。

その人気ぶりに、スピンオフ作品として生まれたのが「GWENT: The Witcher Card Game」です。2016年秋からクローズドベータが始まり、2017年5月24日にオープンベータが始まり、日本語のサポートもここから開始されました。

現在のグウェントは、ベータ時代から飛躍的に発展し、PC版・iOS版・Android版のマルチプラットフォーム展開を果たしていますが、基本的なルールは元祖グウェントから変わっていません。

  • 3ラウンド中、2ラウンド先取で試合に勝利

  • 両者がパスした時点で、盤面にあるカードの総得点(合計戦力値)の多いほうがそのラウンドを取る。

  • 初期手札は10枚

  • 1ターンに1枚しか手札からカードをプレイできない

これが現在のグウェントにも受け継がれている基本ルールです。

現在のグウェントはヴィジュアルが大きく進歩し、上記のようにワイルドハントの帆船「ナグルファー」上でワイルドハントと北方諸国&ウィッチャー連合軍が戦うというシーンも再現できる。カードのアビリティも大幅に増え、ただ強いカードを出せばよいというゲームではなくなった。

主流の DCG との違い

主流派のカードゲームと異なり、グウェントは「相手リーダーの HP をゼロにすると勝利」という勝利条件がありません。また一般的な「マナ・コスト制」を採用していませんので、初手から好きなカードを使用できます

そのかわりに1ターンに1枚しか手札からカードをプレイできないという制限がかかっています。さらに毎ターンカードをドローするということもありません。今ある手札をどうやりくりするかというゲームになっています。

さきほど「初手から好きなカードを使用」と書きました。主流派のカードゲームの一般的な試合展開から考えるとイメージしにくいのですが、グウェントの一般的な試合展開ではデッキ内のカードの8割前後を使いきります。あなたも対戦相手も、使いたいカードのほとんどを試合中に使えるという状態で対戦します。そして、その条件で、3ラウンド中2ラウンド勝利を目指します。

したがって大事なのは、どのラウンドに強いカードやコンボを投入し、どのラウンドを捨てるかという戦力管理になります。この「戦力管理こそが勝敗を決める」という大原則は元祖グウェント時代から変わっていません。これがグウェントの魂であり、カードゲームに絶対的に存在する「運」の影響を下げている最も重要なコンセプトです。

数字にも出ているプレイスキル差

グウェントはカードゲームの中では異質な技術介入度を持つゲームです。

「異質」とはどういうことでしょうか。

主流派のカードゲームは、毎ターンのカードドローと互いの盤面状況にあわせて臨機応変に戦うことが求められるわけですが、グウェントでは、もう少し長期的で俯瞰的な視点が求められます。

まず、どのように勝つか(勝ち筋)を決め、そこから逆算するように序盤のプレイングを決める必要があります。そのため、かなり先の相手の手を読んでプレイすることになります。その駆け引きの中で、一見するとベストではない選択肢を取ることが勝利につながったりもします。

こうした戦略的思考の重要性が、交互に1枚ずつカードを出し合うというシンプルなゲームにも関わらず、大きなプレイスキルの差につながっています。

このことは数字にも出ており、最も強いプレイヤーはプロランクという最上位のランク帯の対戦でも7割程度の勝率を獲得しています。これは数十試合の結果ではなく、数百試合行ったうえでの勝率です。

こうした強いプロ級のプレイヤーが、下位のランク帯にいる一般プレイヤーと対戦した場合の勝率は9割程度にまでなります。

具体例をあげましょう。「無課金でのプロランク昇格」の最速記録を保有しているロシアの KusokStula 選手は新アカウント作成からプロランク昇格までの約16時間を95勝4敗(勝率:約96%)の成績で達成しました。

カード資産がまったくない状態で、かつ、課金でカード資産をブーストしなくても、ゲーム知識を駆使し、対戦相手のプレイングを読み、不利なマッチアップでも勝ち筋を見つける思考力があれば、勝つことができるのです。

グウェントには「報酬手帳」と呼ばれるカード資産獲得システムがある。無課金でもカード資産が比較的稼ぎやすいように設計されている。KusokStula 選手は「報酬手帳」を駆使して、効率的にプロランクまで使える強いデッキを組んだ。また、スクリーンショットでわかるように、ウィッチャーの流派のひとつである「熊流派」の創設者《アルナガード》など、Witcher シリーズに登場するキャラクターの物語を報酬手帳を通じて読むことができるのもグウェントの売りのひとつである。

グウェントにおいて、運要素は「戦場の霧」である

戦争は不確実を本領とする。軍事的行動の基礎を成すところのものの四分の三は、不確実という煙霧に包まれている

カール・フォン・クラウゼヴィッツ著『戦争論』第一篇「戦争の本性について」第三章「軍事的天才」(岩波文庫)より

軍事学の古典的名著「戦争論」を著したプロイセン王国の将軍カール・フォン・クラウゼヴィッツは、戦争において偶然に左右される不確実性を「霧」になぞらえ、その霧を見通す知性を「精神的瞥見」、霧の中を進むことで必然的に生じる迷いに打ち勝つ果断さを「精神的勇気」と説明しました。

相手の手札の状態はどうか、何を狙っているのか、こちらは必要なタイミングで必要なカードが手札にあるか、本当にこれが勝ち筋なのか……。「運要素」の本質は不確実性なのです。そして、あなたは指揮官として不確実性という名の「戦場の霧」に立ち向かう必要があります。

「そんなカッコいい言葉を使ってるけど、結局は運でしょ?」と思うかもしれません。しかし、戦争において兵站を整えて確実に戦力を供給できるようにしたり、諜報活動により敵戦力を分析することで不確実性を下げられるように、グウェントにも不確実性を下げる方法があるのです。

「グウェントに運要素はない」という言葉の真意は「知性で不確実性を下げて見通しを良くし、霧の中でも勝ち筋に向かって進む勇気を持て」なのです。確かに、最終的に運が勝敗をわけてしまうことはあります。しかし、「運が悪かった」といえるのはすべての努力をした後です。運要素を下げようとするプレイヤーの努力に報いるのが、グウェントなのです。

さて、説教臭くなってしまいましたが、今日はそんなグウェントのプレイヤーがすべき努力のうち、2つをご紹介しましょう。

「コンシステンシー」と「16枚ルール」

「Consistency」という英単語があります。日本語では一般には「一貫性」と訳されます。グウェントではこの「Consistency」という言葉がよく使われます。カードゲームにおいて「一貫性」とは何でしょうか。それは、どのようなときも同じように戦える確実性を指します。

原則25枚で構成されるのがグウェントのデッキです。そして、1試合は基本的に16ターンになっています。この16ターンで組んだデッキの戦力を確実に引き出すのはどうしたら良いでしょうか。

カードゲームでは「キーカードが引けなかったから負けた」とよく言われます。厳しい言葉になりますが、グウェントでそれを言うことはデッキ構築の努力を怠ったともいうことでもあるのです。

そのデッキ構築の努力はいわゆる「サーチカード」(Tutor Card)と「圧縮カード」(Thinning Card)」の採用です。

サーチカード:デッキ内から特定のカードを探してくることのできるカード。
圧縮カード:グウェントの場合は特定の条件で、デッキから盤面に飛び出してくるカードを指す。この結果、デッキが圧縮され、目的のカードが手札に来やすくなる。

デッキから任意のカードをプレイできる《夢占い》はサーチカードの鉄板である。「残響」効果を持っているため、次のラウンドでも確実に手札に戻ってくる。

ここで少し昔話をしましょう。

ベータ時代のグウェントは「サーチカード」と「圧縮カード」が豊富で、どの試合もほぼ確実に狙った通りのプレイができました。しかし、製品版になる前の大規模アップデートプロジェクト「ホームカミング」で、「サーチカード」と「圧縮カード」が大幅に減らされた時期がありました。

このため「ホームカミング」直後のグウェントは不確実性が非常に高く、不満が噴出し、ベータ時代の多くのプレイヤーがグウェントから離れてしまいました。

しかし、これは製品版になるにあたり、ゲームのデザインスペースを増やすための一時的な措置でした。その後、拡張でカードが追加されると、ベータ時代のようなカードチェイン(サーチカードを使ったカードの複数枚同時プレイ)も復活しました。

現在のグウェントはベータ時代と同じようにほぼ確実に狙った通りの試合ができるコンシステンシーの高いデッキを組むことができます。

一方で、現在のグウェントは、ベータ時代よりも戦力管理の概念が高度になっており、デッキのコンシステンシーの高さと戦力算出力はトレードオフの関係にあります。確実性を増すためにサーチカードや圧縮カードを増やしすぎると、デッキ自体が弱くなってしまうのです。

では、コンシステンシーの高さと戦力算出力のちょうど良いバランスというのはあるでしょうか。はい、あります。それが2021年初頭に広まった「16枚ルール」という考え方です。

Team Leviathan Gaming の Gorflow が提唱した「Rule of 16」はデッキ構築において、指針となる考え方である。英語だが、非常にゆっくりと丁寧に解説しているため、グウェントに慣れてきたらぜひ確認してほしい。

詳細は上記の Youtube ビデオ(英語)を確認してもらいたいのですが、基本的な考え方は下記です。

  • 1試合は多くの場合、16ターンで行われるため、この16ターンでデッキの構築コストを上手く吐き出せれば効率的である。

  • したがって、実際にプレイしたいカードはデッキに16枚に設定するのがよい。

  • 残りは「サーチカード」や「圧縮カード」、数合わせの4コストカードにする。

ここで、あえて説明していなかった「構築コスト」(Provision Cost)という言葉が出てきました。

グウェントは好きなカードをいつでも使えるゲームです。何も制限がなければ、とにかく強いカードだけをデッキに入れればよいことになってしまいます。それではバランスのとれた対戦ゲームになりません。

そこで「構築コスト」という制限が課されています。強いカードはコストが高く設定されており、定められた総構築コストの範囲内に収まるように弱いカードと強いカードを組み合わせてデッキを作らなければなりません。

カード絵の右下の数値が「構築コスト」である。Witcher シリーズの主人公《リヴィアのゲラルト》のカードの構築コストは10である。コストが10を超えるような強いカードはデッキ内に4枚程度しか入れられないバランスになっている。

「16枚ルール」は、あくまでデッキ構築の指針です。コンシステンシーを下げてでも、戦力算出力の高いデッキにしたほうが結果的に勝てる場合もあります。

強いカードと弱いカードをどのように組み合わせ、コンシステンシーと戦力算出力のバランスを取るか。それがグウェントにおけるデッキ構築、そしてデッキ選択の腕の見せ所なのです。

今回、「16枚ルール」を紹介するにあたり、動画制作者の Gorflow とYoutubeチャンネル「The Council」の主催者 Saber97 に「グウェントの魅力はどこだと思うか?」という質問をしたところ、二人は以下のように答えてくれました。

プレイの決断面において自由度が高いところだと思う。プレイングだけでなくデッキ構築においてもたくさんの選択肢が与えられている。プレイヤーに介入する余地がたくさんあるので、プレイスキルの天井が高い。

Gorflow - 16枚ルールの提唱者

自分がグウェントを長くプレイしているのは、運要素がかなり限られていて、上手なプレイに報いてくれるゲームだから。

Saber97 - The Council主催 

二人とも世界的に名の知れた強豪です。二人が共通してあげているのが技術介入度の高さです。この事実に気付くことができれば、あなたはグウェントの初心者を卒業したも同然です。

上級者が絶対にやっている習慣:「相手の墓地」チェック

さて、もうひとつのグウェントのプレイヤーがすべき努力は、努力というより習慣といえるものです。この習慣を身に着けることで、グウェントの腕前と、ゲームに対する理解が飛躍的に上がります。

それが「相手の墓地」の確認です。

グウェントはゲーム中に「お互いのカードのプレイ履歴」「自分の墓地」「相手の墓地」「自分のデッキ」を確認できる。上級者ほどこれらの確認を怠らない。なかでもとくに「相手の墓地」を確認する習慣を身に着けることが上級者への第一歩である。

なぜ「相手の墓地」の確認が重要なのでしょうか。それは決して墓地を使うようなデッキタイプに対応するためだけではありません。

グウェントは「戦力管理」のゲームです。相手がこれまでにどれだけの戦力を使い、どれだけの戦力を温存しているか。それを見抜く手段が「相手の墓地」の確認なのです。

先ほど説明したように、グウェントのデッキは総構築コストの制限を受けています。ゲーム知識と経験から、相手の墓地を見ることで、相手の手札と相手の狙いが見えてきます。それを知って初めて、自分がどのような戦い方をすべきかを決められるのです。

グウェントは、相手を無視して、ただ自分の手札を最適な順番でプレイすればよいだけのゲームではありません。相手の狙いを見抜き、それに対して自分の勝ち筋を見つけ、そこに向かって逆算して今すべきプレイを決めるゲームです。

だからこそ、技術介入度が高く、「グウェントに運要素はない」とまで言われるのです。

新しい才能の登場を待っています!

いかがだったでしょうか。グウェントをプレイしたことのない方や、あまりカードゲームに慣れていない方にはピンとこない部分があったかもしれません。今回は、デジタルカードゲームのガチ勢向けに、グウェントの魅力の一端をご紹介しました。

グウェント初心者が知るべきテクニックや定石はまだまだあります。いつかご紹介できる日が来るでしょう。

もちろん、グウェントはガチ勢だけがやるゲームではないことは強く申し上げておきます。Witcher シリーズが好きで、好きなキャラになりきって遊ぶ人、とんでもないコンボを見つけ、それを対戦相手に披露することに命を賭けている人など、勝つことを至上命題にしていないプレイヤーもたくさんいます。どんな人もウェルカムです。

グウェントは基本無料のゲームで、PC版・iOS版・Android版とマルチプラットフォームで展開しています。ぜひプレイしてみてください。プレイしたうえで、気づいたこと、疑問に思ったことがあれば、Twitter(現X) で「#グウェント」とハッシュタグをつけて投稿してみください。新しい仲間をいつも心待ちにしている先輩グウェント民たちがあなたを見つけてくれます。

では、最後に、この言葉で締めさせていただきます。

「それじゃ、グウェントでもやらない?」


増補:「グウェントフィニティ」1周年によせて

2024年10月現在、グウェントは最後の「公式アップデート」を終えてから1年が経ちました。現在のグウェントはプレイヤーが民主主義的にバランス調整を行う「グウェントフィニティ」の時代に入っています。

勘違いしている人も多いですが、サービスは終了していません。むしろ、インフィニティ(無限)です。永遠に続く環境が整えれました。また、現在もカード資産の購入や「ジャーニー」と呼ばれるシーズンパス的な有料コースの加入もできます。各季節のイベント(バレンタインなど)も行われています。

維持費が必ずかかる運営型のゲームが維持され続けるというのは珍しいことです。さらにバランス調整がコミュニティの手に委ねられているという条件も加えるとほとんど存在しないのではないでしょうか。

このような対応をとった CDPR は本当によい意味でぶっ飛んでるなと思わずにはいられません。「ゲーム」が「文化」に変わった瞬間をこの1年間でグウェント民は体験したと私は考えています。

「グウェントフィニティ」後のグウェント

さて、「グウェントフィニティ」後のグウェントは、この記事を寄稿した当時とほとんど変わっていません。変わったところといえば:

  • 新カードが追加されなくなった

  • 公式の競技大会が開催されなくなった

の2点ぐらいとなります。バランス調整や大会運営はコミュニティ主導で現在も続けられおり、それを考えれば変わっていないともいえます。

むしろ、新カードの追加がなくなったことで、カード追加に追われることなく自分のペースでゆっくりとカードを集めたり、報酬手帳を解除したり、ジャーニーを進めることができるといった利点もあります。

ただし、商業的な露出が減ったことからプレイヤー人口の減少は避けられませんでした。とはいえ、2024年8月時点では、通常ランクマッチの順位から、月間10試合以上やる人が2万アカウント、30試合以上は1万アカウント程度存在していると推定されます。1年前と比較して規模が3分の1ぐらいになった印象です。

Witcher シリーズの止まり木として

CDPR が新しい Witcher シリーズのゲームを世に出すまで、少なくとも3年はかかるように思います。

グウェントは、その間もそれから先も、Witcher シリーズに触れた人たちの止まり木として、場を提供し続けるゲームだと思っています。いつでも帰ってこられる場所です。

かつてグウェントを遊んだ人たちも「久しぶりすぎて意味わからない」「カード増えたなあ」「遺存種デッキかわいい」などと、軽い気持ちで再び遊んでくれることを期待しています。

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