「何もない」がある島は、疲れた心を癒す島―ニッポンのヒャッカ沖縄編7―
島民約200名に対して、およそ13倍の数の牛が暮らす沖縄の離島「黒島」。
自転車なら2時間ほどで島中をのんびり巡ることができる、外周12.6kmの小さな島だ。
日本の道100選にも選ばれた島のメインストリート「黒島港線」から見えるのは、どこまでも続く牧場の緑と、赤い瓦屋根と石垣の琉球民家。島には信号もなければ、交番もない。空を遮る大きなビルも、ネオンの看板も、深夜まで明るいコンビニも、話題のスイーツショップもない。
その代わりここには、「何もない」が、ある。
ここは、情報社会に疲れた大人たちの、隠れたオアシスなのだ。
「黒島の大きな魅力のひとつは、“黒島ブルー”とも呼ばれる、青くて透明度の高い海。島には川がないので、生活用水が海に流れ込むことなく、水上からも海の底が見えるほどの透明度が保たれているんです」
と語るのは、「しま宿南来(なんくる)」のオーナー、兼、島の魅力をツアーとして観光客に提供する「ルート黒島」の代表、久貝(くがい)さん。
島のおよそ3分の2以上の外周をバリアリーフが取り囲む黒島の海は、カラフルな熱帯魚が集まり、マンタやウミガメまでも現れる、抜群のフィッシュウォッチングスポットだ。
海の上を歩いているような感覚を楽しめる島のビュースポット「伊古桟橋」や、天然のロングビーチ「西の浜」、シュノーケリングが手軽に楽しめる「仲本海岸」などで思い思いに海を楽しむのもいいが、
黒島の海を知り尽くした地元生まれの船長が、その日の波や風を見て一番良い条件のシュノーケリングポイントへ連れて行ってくれる「黒島シュノーケリングツアー」、船の上から魚影を楽しむ「黒島ブルークルージング」などのルート黒島のツアーに参加すれば、よりその美しさを堪能できる。
そしてもうひとつ、忘れてはならない黒島の魅力が、“黒島ブラック”と呼ばれる星空を臨む、夜の時間。
黒島がある八重山諸島は、日本で初めて「天文学者が選ぶ日本で星空が最も綺麗な場所」として星空保護区に認定された場所。全88星座のうち84もの星座が観測でき、本土では見られない南十字星やカノープスまでも見ることができる、天然のプラネタリウムだ。
「黒島の星空ツアー」では、そんな黒島の星空を、夜の海風にあたり、三味線の音を鳴らしながら、星にまつわる黒島の民話や民謡を聴き、のんびりと眺めることができる。
もっとアクティブに夜を楽しむなら、「ヤシガニツアー」に出かけるのもいい。海岸を歩き、おじいが捕まえたヤシガニを触ったり、ヤシガニ以外の夜の生き物に出会ったりする、貴重な体験ができるはずだ。
県外から毎週のように訪れるリピーターも多い黒島だが、そんな魅力を支えているのが、個性溢れる民宿で過ごす夜の時間。
宿主の三線とおしゃべりが楽しい交流会「しま宿南来」、海人経験のあるおじいが釣りと魚を教えてくれる「民宿あーちゃん」、ゆったりとした“うちなー時間”の流れる「民宿みやよし荘」、新城島へのツアーも含めたマリンサービスが充実した「民宿くろしま」など、慣れ親しんだそれぞれの民宿で過ごす時間が、人々をこの島に惹きつける。
これまでにはいくつかの民宿が提携して、修学旅行の受け入れも行っているという。小さくてのどかな島なので、子どもたちを自由に自転車で散策させることができ、観光地を巡る修学旅行とはまた違った、創造性を育む体験となっているようだ。
挙式会場を伊古桟橋、披露宴会場を島の体育館とした島の挙式プラン「ハートアイランドの結婚式」では、民宿がパーティー会場に早変わりすることもある。
▲島のビュースポット「伊古桟橋」
ほかにも、島の魅力を余すことなく堪能できる一番人気のツアー「黒島面白観光スポット案内」などもあり、「何でもある」に慣れすぎた私たちに、島を知り尽くしたガイドさんが、「何もない」の楽しみ方を教えてくれる。
黒島で過ごす時間は、常に動き続けることを求められる私たち現代人の心を溶かし、本来の人の在り方を見つめ直すきっかけをくれる時間になるだろう。
なんだかちょっと疲れたな、いつかの感受性に満ち溢れた自分に立ち返ることが必要だな、と感じたら、静かに輝く黒島の空と海に、出会いにきてはいかがだろうか。