業界の非常識!? 本物を極めるカシミヤニット専門店ーニッポンのヒャッカ第8回ー
「無理だったら前職の旅行業に戻るしかないと思っていました。いろいろやってダメだったけれど、大好きなカシミヤで失敗したら本望と、覚悟を決めました」。
そう話し出してくれたのは、世界的にも珍しいカシミヤニット専門店、株式会社ユーティーオー(以下UTO)の宇土社長だ。
ウール、アンゴラ、アルパカ、モヘア、コットン、麻、シルク……。1992年の創業当初はさまざまな素材を扱っていたが、小さな資本での薄く広い展開は訴求力がなく、大失敗だったという。そこで思い切って大好きなカシミヤ1本に絞ることを決したのは2000年。どうせなら世界一を目指して突き進んできたという。カシミヤにした理由はカシミヤが大好きだから。究極のシンプルさだ。そして、世界一とは販売枚数や売り上げのことではなく「素敵で高級なカシミヤのニットと言えばUTO」と言われることだと言う。
カシミヤの魅力を問えば「あの、しっとりとした柔らかさ、軽さ、暖かさは着ている人を至福にしてくれます。軽くて暖かい保温効果だけでなく、心も満足させてくれるお洒落のご馳走のようなものです」と言葉の熱量も高まる。「業界では一つの素材に絞ることは非常識でしたが、カシミヤだけに絞れば、能力の低い自分でも世界一になれるはずだと思ったのです」。
実直にしてロマンチストで謙遜家。
それから宇土社長の猛勉強が始まった。
世界一とは?最高のカシミヤとは?
宇土社長が最初に追求したのは「世界一のカシミヤ屋とは何?」だった。
結論は、1.世界最高の素材を使うこと。2.どこよりもカシミヤ製品を作ること。
自分たちは世界の一流ブランドと同等もしくはそれを超えるカシミヤ原料で、毎日毎日カシミヤ製品だけを作り続けることで、カシミヤで最高の経験を積むことだという信念に、たどり着いた。
実際にUTOはどんな会社かと言えば、「カシミヤニット専門店で、世界最高峰の原料と熟練した職人の丁寧な手づくり」と「ニットのカスタムオーダー」が挙げられる。
伸び縮する編み目をひとつひとつつなぐ作業は根気と熟練の技術が必要
「そもそもニット業界は効率よく製造するための分業生産がほとんどで、1枚1枚オーダーすることは不可能だと考えられています。うちはその真逆で(笑)、岩手県北上市の自社工場内で全行程製造しています」。しかも全行程製造に加え、それをカシミヤだけに絞っている会社は、世界的にも珍しく、探してもほとんどないのだ。
製法ひとつでも、北上市の自社工場の商品と海外製品とでは明らかに違いが出る。
「日本人の生真面目さ、東北人の気質も品質に大きく関わっていると思います。職人の仕事ぶりは当然ながらすべて商品に表れますから」。北上市に工場を持った理由は「ご縁」だと社長は笑う。北上市の職人たちを受け入れることになり、その地に工場をつくったというシンプルな理由。それなのに、夢は「北上市をカシミヤの聖地にすること。この地の産業として根づかせたいのです」。社長のカシミヤとスタッフへの思いはどこまでも優しい。
北上市の自社工場のスタッフたち。震災のふるさと納税など復興支援も続けている
素朴な疑問から最高のカシミヤの見分け方を問うと「触ってみればわかります。触ってみてください!清潔な手で、指だけではなく手全体で。高価な原料を惜しげもなく使った、しっかりとした編み地は、握った時の滑り感、弾力感がまったく違います」。高価だからとカシミヤをケチった、スカスカの製品がいかに多いかと宇土社長は嘆く。一方、業界の真逆を行くUTOのニットには、カシミヤ愛があふれんばかりに編み込まれている。
1頭からわずか170グラム!極上品は天使の羽のよう
カシミヤは中央アジアに棲息するカシミヤゴートという山羊の獣毛だ。夏は30度以上、冬はマイナス30度という過酷な環境で生きるカシミヤゴートの冬毛は、ウールなどに比べて繊維が細く、天然の油分もあり、独特の滑らかな肌ざわりと風合いが生まれる。セーターに使われるのは、内側の「うぶ毛」だけで、収穫は5月。熊手のような櫛で梳きとるしか方法がないという。ゴミや砂などをきれいに取り除くと、1頭から採れる量はなんと、わずか170グラム程度!さらに色や長さ、太さなどの毛のグレードがあり、最高級のものは羊毛ウールの10倍もの値がつくほど。本当に希少価値の高いデリケートな素材だといえる。
ごわごわのヘアーの内側にあるうぶ毛だけがセーターに使われる。大人しく毛を梳かれるカシミヤ。右は宇土社長
初めてのカシミヤなら、まずはふんわりと軽やかなストールやマフラーで、至福のぬくもりを実感してみたい。ちなみにUTOで可能なカスタムオーダーは「まずサンプルをご試着いただき、サイズを選んでいただきます。ニットは、どの程度のゆとり感で着たいのかでサイズが違ってきますので、ボディサイズを測ることはありません」とのこと。
一度知ったら手放せなくなり、上質なカシミヤの虜になるのは時間の問題。いずれはニットをオーダーし、ずっとずっと愛用できたらどんなに幸せだろう。
UTO:公式サイト