デザイン性を追求しない究極のバッグ ーニッポンのヒャッカ第3回ー
「The Container Shop(コンテナショップ)」というブランド名のバッグがある。色鮮やかなビタミンカラーの帆布バックに、シンプルなヌメ皮の持ち手とアクセントのタグ。「入れ物」というシンプルな意味からオーナー夫妻が命名したブランドだ。デザイン性を追求せず、バイヤーからのリクエストも鵜呑みにしない。いったい、どんなブランドバッグなのか。
バッグづくりで扱う牛革一枚は、牛一頭の半分でできている。そのため牛の大きさに応じて一枚のサイズは違いがある。革は10cm四方で1デシンという単位で入荷するが、現状のアパレル製品バッグの加工時にはデザインの都合で捨てる部分も多い。同じように布も日々出る端切れは、廃棄せざるを得ないのが業界の実情だ。
日常生活では「断捨離」や「エコ」を心がけている一方で、仕事だからといって社会のゴミを出し続けていいはずはない。ムリをせず、自分たちなりに取り組めるコトはないのか-。
エコにお金をかけるのではなく、バッグづくりをする自分たちが世の中に発することができる何か。ライフワークとして取り組める仕事がしたいというオーナー夫妻の思いが形になったのが「The Container Shop」の始まりだ。
タグひとつ、素材ひとつへの愛情
「The Container Shop」のバッグは、ポシェットタイプからカジュアルなトートバッグまで、布幅でムダのないサイズや形を優先してつくっているから、他の商品とは少し違ったバッグに自然と仕上がる。ブランドタグひとつでも、例えば持ち手用にくり抜いた、ほんの小さな牛革でも大切に使う。
牛革のムダが出ないよう大切に使用されているタグ
その取り組みの根底には、OEM(発注先のブランドでの生産)メーカーとして、20年に渡って様々なアパレルブランドのバッグを手掛けてきた実績と経験がある。何百人ものデザイナーのデザインを手がけてきた上でたどり着いた、自分たちならではのシンプルな究極のバッグづくりだったといえる。
自分たちでデザインして自分たちで売る。
工業用素材から生まれたトートバッグ
その強みは、柔軟な素材選びにも反映される。例えばクリアトート。素材はなんと、工場やカフェで間仕切りカーテンなどに使われている資材だ。工業用なので耐炎性に優れ、変形・変色しにくく、とにかく丈夫。その上、オレンジ色の素材は防虫効果もあるという。しかし、これもムダをなくすための取り組みから始まった仕入れのため、色は工業用の素材である、透明(クリア)とオレンジの2色のみ。ピンクやブルーのデザインがない理由も明確なのだ。
譲れないのは「三方よし」の黄金比
「The Container Shop」のバッグを買ってくれたお客様やバイヤーから、「ここにポケットがあればもっといいのに」「もっとこうした形のバッグがほしい」といった声もしばしば届く。しかしそのリクエストに全て応じるかと言えば、答えはNO。なぜならポケットを作れば値段が上がる。その形を作るには素材にムダが出る。リクエストがあった場合は、どうしたら無駄が出ないようにデザインできるかを考えてバイヤーに再提案をする。
ムダをなくすために生まれたブランドだから、そのブランドを追求していく過程でムダを出すようなブレたことはしない。ブランドを立ち上げて以来、デザインや耐久性は工夫しながらも、統一感を重視して商品をブラッシュアップ。むしろデザインを絞り込んだほどだから、流行やトレンドもまったく意識していない。
ブランドも大きくしない理由はここにある。いや、大きくする必要がないのだ。
買ってくれる人が使いやすい。
売ってくれる人が売りやすい。
作り手も作りやすいもの。
この黄金比こそ、「The Container Shop」が一番大切にしていること。
バッグづくりの現場から生まれた商品だからこそ、この三方が、バッグに関わる全員にとってよいものとは何かを考えているコンセプトブランドだから、考えを反映できる範囲でしか、バッグづくりはしないわけだ。
「このバッグに関わってくださる方は、小さいながらもゴミを出さない、ムダを出さない私たちのプロジェクトに共感してくださったのだと考えています。声高にエコを叫ぼうなんてまったく思っていません。自分たちにできることをしているだけ」とオーナー夫妻。
オーナー夫妻のお母様愛用の現役ミシン。物を大切にする心はこうした随所に表れている
究極のシンプル&ナチュラルなバッグからは、研ぎ澄まされたメッセージが、確かにダイレクトに伝わってくる。このバッグを持っているだけで、なんだかイイコトをした気分になる。そんなハッピーな気持ちを持ち歩けるバッグは、そうそう出合えるものじゃない。
The Container Shop:公式サイト