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1979年8月17日の小学五年生
みなさんは子供の頃の思い出というものはあるだろうか。もちろんあるだろうが、あまり誰かと共有したことがないかもしれない。
ぼくは子供の頃の思い出を誰かと話したということがほとんどない。親は健在だがそういう話はほとんどしない。弟とも話さない。子供の頃の友だちと定期的に会うような環境でもないので、やっぱり話せない。おかげでぼくの子供の頃の思い出は、ぼくの心の中に塩漬けにされたまま外に出る機会を得られないでいる。
ところが、ぼくの創作の原点はほとんど子供の頃の思い出にあるように思う。これまでいくつかの小説を書いたが、驚くことにほとんど子供の頃の話である。これを書いていて気づいたが、ぼくは子供の頃のことしか題材にしていない。大人になってからのことは書いていない。
ぼくが「得意」なのは大人の話だと思う。大人の哲学的な、あるいは社会的な話をするとどこでしても受ける。受けるからまたそういう話をするという循環で、ぼくはすっかり大人の話をする人になってしまった。社会や人間を洞察する人になってしまった。
しかし好きなのは「子供」の頃の話なのだ。そこで今日は子供の頃の思い出を書いてみたい。
小学五年生(11歳)のとき、ぼくは学習塾に通っていた。進学校の私立中学を受験するためである。より具体的にいうと桐朋学園中学を受験するためである。そこで、東京都日野市豊田の豊田駅駅前にあった英数研究塾に通っていた。そこに夏休みも返上で毎日通っていた。
と同時に、ぼくは野球ファン、マンガファン、そして『ドカベン』ファンであった。『ドカベン』が連載されている週刊少年チャンピオン誌は毎週金曜日に発売される。そしてその頃の『ドカベン』は目が離せない状況となっていた。弁慶高校との戦いが大詰めを迎えていたのだ。
そのためぼくは、金曜日になると本屋さんに行って『ドカベン』の続きを立ち読みで確認するということをずっとしていた。ただし、塾は9時から始まった。一方本屋さんは10時に開店するため、登校前には『ドカベン』の続きを確認できなかった。
ただ、英数研究塾の入っているビルの真下には本屋さんがあった。そこでぼくはその日——1979年8月17日の朝10時を過ぎた最初の10分の休み時間に、階段を駆け下りて本屋さんに飛び込んだ。チャンピオンで『ドカベン』の続きを確認するためである。
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